お詫び、
同カテゴリ、(5)を誤操作で再アップしてしまいました。
早速訪問くださった皆様、失礼いたしました。
まだ、削除の操作が分からなくてオタオタしています。
管理人より
改めて(17)記事を投稿します。
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かかる軍人ありき 伊藤圭一著 さくら紀行転載
ーーーー戦闘にかかる部分により中略ーーーー
田辺中佐が第36 師団へ赴任してきた当初、部下将兵はその指導能力を疑った田辺中佐は行軍の時も戦闘に移っても常に先頭に立った。すると部下将兵は経験不十分だから、猛勇を奮って前に出たがる、と噂をした。しかし戦闘が激しくなるとさすがに兵隊は大隊長を庇って前に出てくれたがこの時、田辺中佐は邪魔になるから下がれ、と命じた。
それを何度も繰り返しているうちに部下将兵もようやくこの大隊長は頼りになると見方を改めてくれたのである。
これは部下の心を読んだ上での演技であったかもしれないが、勇気なくしてはこの演技中は絶対できなかったはずである。
乍浦における治安効果が、
ますます顕著になっていった20年の5月に、
突発的な事件が田辺大隊長を見舞った。
そしてこの事件の収拾に絡んで、
大隊長の職を追われることになる。
平和と繁栄を楽しんでいた乍浦に、
軍服に拳銃を持った〇〇人通訳が現れ、強盗、強盗、殺人実に22点を働いたとき、さすがに町の人々は憤慨して、
これを田辺大隊長の下へ連れてきている。
その間、暴挙による被害を内々に済ませていたのは、
治安責任者である田辺大隊長への遠慮があったからである。
この事件は田辺大隊長に衝撃を与えた。
しかもこの男は調べてみると偽通訳だった。
中国人側は身柄を引き渡してほしいと言っている。
渡せば私刑にする考えである。田辺大隊長が、軍の法規により憲兵隊へ送る、と言うと、昨年もこういう事例があったが、
後方へ送れば必ずうやむやになって許されてしまう、
すると、お礼参りと称してますます暴れられる結果になる。
と、中国側は言うのである。
この問題は大隊長を追い詰めたが、
中国側との何度かの交渉の後
ついに自身の責任で処刑することを決意した。
そこで、一将校に刑場の準備を命じ、
町には大きな布告を出した。処刑は海岸で行ったが、
その日民衆は刑場のまわりを埋め尽くした。
偽通訳は銃殺に処せられ、
型通り軍医の検死を行って埋葬する。
田辺大隊長は民衆に向かってマイクで挨拶した。
「ただいまご覧になった通り、犯人は厳正に処断された。
犯人の犯した罪は深いが、
死者ともなればその罪も許されて良いはずである。
どうか彼の罪を許しその冥福を祈ってやっていただきたい」
この軍紀の厳正と人間味のある態度に民衆は感動し
田辺大隊長の決断を賞揚している。
ところがこのことは、軍人としては越権であり
独断法の行為となった。
一大隊長が自らの裁断で犯人を銃殺に処したと言う事例は、
軍からは大本営へ、総領事からは外務省へ報告され、
越権、殺人容疑の罪名のもとに、
田辺大隊長は嘉興で開かれる軍事法廷に
立たされることになったのである。
「一田辺が処断されることと中国の民心が安定することと比較すればその得失は明確だ。
軍が俺をどう裁くか楽しみにしていてくれ」
田辺大隊長は側近の将校達と別れるとき、
何ら不安もなげにそう言い切っている。
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中佐の時、戦闘で先頭に立つーー自分が犠牲になっても部下を守る、という愛と犠牲的精神
軍紀を犯してまで治安を守る、治安のために命を捨てる覚悟
その罪人の罪を許し、
罪人であっても人としての尊厳を守って冥福を祈る。
田辺大隊長は神道に繋がる、武士道精神の持ち主だった、
と、思わざる得ません。
2021 6/4