ケセランパサラン読書記 ーそして私の日々ー

◆ ところで『セカイの空がみえるまち』 工藤純子 講談社 ー夫の突然の失踪って、ある? あります。ー

 昭和の出稼ぎが頻繁な時代では、北海道や東北からの出稼ぎに東京へ出て行った男の人が、(大概が家庭を持っている男)が、<蒸発> するということが、ままあった。

 
 しかし、そういう蒸発ではなく、現代、『セカイの空がみえるまち』の 空良の父親のように、突然、失踪する男が(大概が家庭を持っている男)いるのだ。


 驚くなかれ。
 私は、そういう男を知っている、のだ。

 私は、『セカイの空がみえるまち』の表紙を見る度に、あるいは、このようになんらかの文章を書こうとするたびに、彼を思い出さずにはいられない。

 ま、その男は、古くからの私の友人ってわけだ。

 彼は、いわゆるその世界では名の知れた設計士で、とある海外の、とある都市の、とあるタワーを、設計なんぞして、そのタワーには天皇も訪問し、そのタワーのレストランには彼の名前のついた料理まである、のだ。

 その彼が、ある日、いなくなった。

 煙草を買いに行くと言って、家を出て、そのまま、失踪したのだ。


 たまたま、その彼と、唐突に再開する機会があった。

 私は彼に、訊いた。

 すると、彼は、妻が、ルドルフ・シュタイナーの理論にハマリ、まるで新興宗教に入信したが如くに凝ってしまったことが、たまらなく厭で厭で、相容れなかったと言ったのだ。


 私は、たまたま、シュタイナー理論を実践している共同体を知っていたので、なにげに彼のいわんとするところは、理解できるような気がした。


 しかし、彼の妻は、知る由もない理由であった。


 彼が、捨てることになった全ての理由が、妻が嵌まったルドルフ・シュタイナーが理由だなんて、だれが想像するだろう。


 しかし、こんな理由、きっかけに過ぎない。

 人が、清水の舞台から、ジャンプする時、あるいはそれを欲して止まない時期、ひたすら、きっかけ到来をまっているもんではないか、な〜んて、思う。


 空良の父親のきっかけは、空良の「出て行って」というひと言だったかも知れぬ。

 私の友人氏は、妻のシュタイナーだったかも知れぬ。


 と、己の遁走の理由が、娘だったり妻だったりに負わせるよう状況で失踪するって、なんか人として罪深いなぁーて思うんだけど。

 娘にまで、罪深さを背負わせてしまうわけだから。

 しかし、況や、文学とはなんぞやと問う。

 いたいけな少女に、この罪深さを負わせるあたり、作家工藤純子、凄いと思うのです。



 私なんぞは、娘の空良の立場になったり、失踪した男の妻の立場になったり、はたまた失踪男の立場も何気に解ったふうな素振りで読んでしまう。
 やだね。
 これって、いわゆる共感共苦だと、思いながら、心がぎゅっ。



 私の友人の方の罪深い彼は、煙草を買いに行って、そのままインドネシアへ行ってしまい、それからブラジルへ行って、今はオランダに住んでいる。

 ひたすらに、土を捏ねて、器を創っている。

 いい気なもんだが、幸福そうだ。



 妻は、
 油断、していると、足元を掬われるやも知れぬ。

 理解不能の事態に遭遇するやも知れぬのだ。

 いい気なもんで、夢を捨てない男もいるのだ。

 と、いうことを、多くの妻は気付かない。

 初めっから、そっちへ行きたい、そっちへ行きたいよーって、もう我満出来ね〜って、言えよ、って話しだよね。

 
 とは言え、

 でも、なぁ……。
 妻を亡くした男に、ゆで卵はどのようにつくるのですか、と問われたことがあった。
 胸が詰まった。

 
 男は、否、女も、
 
 人は、さまざまだ。

 さまざまに、生きている。
 さまざまな、その日々に、生きている。

 のだと、つくづく思う。


 文学は、そのさまざまの生き様の個別を、エゴく、鋭く、痛い痛い痛いよ〜って声が聞こえても、描くことなんだろうなと、思う。

 作家って、身を切るような、身を削るような、職業だ。

 

                  



 <余談>

 そうそう、彼はユダヤ人の知人に頼まれて、シナゴークを設計したら、ドイツ人の友人が、全ていなくなったと言っていた。
 現代の、オランダでだよ。

 これも、驚く!!

 これって、やっぱ、アパルトヘイトApartheidだし、ヘイトhateだよね。


 <追記>
 
 この文章は、彼、私の友人J氏の許可のもと、書かせて頂きました。

 年をとると、みんな鷹揚になるね〜。(o^^o)


 <追記2>

 翔について、書くはずが、なかなか翔まで行き着けないでいる。
 言い訳をすると、この作品の、デカさ、だと思う。

 しばし、お待ち下され!!
 

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