著者は、オランダ系アメリカ人のメアリー・メイプス・ドッジ。翻訳は石井桃子。
『銀のスケート』を知ったのは、岩波の広報誌『図書』である。岩波少年文庫発刊五〇周年記念の特集号だったように思う。(記憶が定かではない。)
その企画に岩波少年文庫の中で、著名人の(これも定かではないが、100人以上にアンケートをしていたような…)好きな3冊を挙げるというのがあり、そこで、第1位だったのが、この『銀のスケート』だったのだ。
与太ばなし1『図書』誌上、なにかの記念特集企画で、著名人アンケート岩波文庫では第1位が、中勘助の『銀の匙』でした。
さて、岩波少年文庫発刊は1950年。敗戦後5年です。とと姉ちゃんの『暮らしの手帖』だけではなく、児童書出版業界も、頑張ったんですね。
そして、1952年には、『銀のスケート ハンス・ブリンカーの物語』は、『銀のスケート靴』というタイトルで、出版されていた。ちょっとスゴイ。蘭学のオランダですが、実際のところ、オランダは、どこにあるかさえもよくわからないほど、日本人には、馴染みのない国ですから。
ただ、作家はオランダ系アメリカ人だから英語で書かれているので、翻訳をしやすかったかも知れない。
『図書』で『銀のスケート』が、ダントツ第1位になってから、復刻を望む声がとても多く、それで出版されたのが、冒頭の『銀のスケート』というわけ。
これは、私の手元にある『銀のスケート』(1988年版)。これも記憶が定かではないが、すでに絶版になっており、多分、古書店で手に入れたと思う。
因みに、画像が小さいけれど、これが1865年に出版された原本かも。
それぞれにおもむきがあり、さすがなのはスケート靴。オランダのスケート靴の歴史考証が、十分になされている。それにしてもオランダ語訳がない。
こんど、オランダへ行ったら、探してこよーっと。
与太ばなし2 実は2014年に映画にもなったらしい。
アムステルダム近くのブルックという町に暮らす、兄のハンスと妹のグレーテル。父親は堤防で事故にあい、それいらい10年、話もできず、家族の事も分からない状況で、ふたりは母親を助けて貧しいながらも健気にくらしている。
悪戦苦闘。艱難辛苦。
そんな物語の中、兄妹と同じ年頃の少年たちが、スケートでブルックからハールレム、ライデン、デン・ハーフへとスケートで行く話しからオランダの街並み、風物、歴史などを紹介している。
これが、実にいい。
ドッジは、祖先が住んでいたオランダの生活や、子どもたちの日常を、心から切に描きたかったんだと思う。
それが、何気に、伝わってくるんです。
凍った運河を道の代わりにしてスケートで行き来したり、船にスケートを履かせたような氷上船も行きかったりする。これが自動車の発想に繋がっていったという。この運河の様子を描いた絵のコピー画が、私の家の壁に掛かっている。
オランダという国は、大きさは九州ぐらいである。緯度は北海道の頭の上にあるサハリンと同じ緯度になる。
だから冬は寒い。オランダでは、運河の氷が8cm以上の厚さになると、スケートをしていいことになっている。
オランダの絵画を見ると、中世からすでに、運河でスケートをしており、スケート発祥の国でもあって、現代でも冬季オリンピックのスピードスケートでは、ダントツ上位を占めるのは、オランダである。
オールシーズン、石畳の道で自転車を乗り回し、必然、太ももには筋肉がつき、冬になると凍って道と化した運河をスケートで、隣も町までスイスイ滑っていくのは、子どもでも当たり前の国なのである。
しかもフーリスラント州には、エルフステーデンホトという200kmを走破するスケート競技がある。運河が自然凍結してこそ行われる競技なので、毎年、行われるわけではない。前回、行われたのは1997年。2012年、あわや行われるかオランダ中が大興奮したが、200kmの運河、一部の運河の凍結状態に不安があるとして不開催となった。
この競技に出場することは、オランダの少年おのこにとって、誉れ中の誉れなのである。
それは、オリンピックで金メダルを獲得する以上の栄誉といわれている。
私が在欄してたおりは、今の国王がまだ学生で、エルフステーデンホトに出場していた姿がTV中継中にクローズアップされ、やんやの喝采を浴びていた。
このエルフステーデンホト出場を夢みて、一生懸命、練習している少年が主人公の絵本がある。
与太ばなし3 絵本『ピートのスケートレース ー第2次世界大戦下のオランダでー』(ルィーズ・ボーデン 作 ニキ・ダリー 絵 ふなとよしこ 訳 福音館書店)では、このエルフステーデンホトのレースに出場する夢を持っている少年が、スパイ容疑で父親が逮捕された姉弟を、運河をスケートでベルギーのブリュッヘ(日本ではブリュージュと英語の発音)逃すお話し。オランダの少年にとって、エルフステーデンホトのもつ意味も、よくわかる絵本。
『銀のスケート』の、あとがきにあるが、ドッジは、息子たちに、オランダの歴史や地理を教えると同時に、家庭生活をおりこんだおもしろいお話をつくって聞かせたのが、この『銀のスケート』の始まりだと言う。
そして、この本を書いてからしばらくして、はじめて夫人は、ふたりの息子を連れて、オランダ旅行をしたとき。息子の一人が、本屋さんで「オランダの生活がいちばんよくわかるようにかいてある本はがありますか」と訊くと「これです」と言って、本屋さんの出してきたのが、『銀のスケート』のオランダ語訳だったそうだ。
おまけの偕成社版。(1977年 白井哲 装幀 野田開作 編著)表紙、レトロ感満載。なんとも懐かしい画風だ。
<追記>
6/24の『室町記』をかなり改訂したので、興味のある方、お立ち寄り下さいませ!
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