もっと空気を

私達動物の息の仕方とその歴史

コウモリです、おめでとう!

2020-01-22 19:23:28 | 日記
新年明けましておめでとうございます。
今回は正月にふさわしい動物「コウモリ」の話です。(イカとタコの話はまた次回にします)

コウモリは、明治時代に西欧から吸血コウモリや吸血鬼の話が伝わるまでは縁起の良い動物でした。幸運や長寿の象徴であり、旧日本石油の商標にも使われていました。

地球上で飛行する能力を獲得した動物は、昆虫、絶滅した翼竜、鳥類、コウモリの4種類だけであり、コウモリは、はばたいて飛べる唯一の哺乳類です。私達は飛行機に強力なエンジンを乗せて大量のエネルギーを使わないと飛べませんが、コウモリはそもそもどうして飛ぶのでしょうか?

なぜ飛ぶか?利点と欠点
利点は、
① 空は広くてしかも飛べる動物は限られているために、襲われて食べられる危険が少ないこと。
② 食べ物をとるために、泳いだり、走ったり、歩いたりするエネルギーと飛ぶエネルギーを比べると、同じ距離を進むならば飛ぶ方が1/4から1/6程度と少なくてすむこと。
等でしょうか。
欠点は、
① 飛んでいる時には翼を動かし、保持するために地上にいるときの20倍以上の大量の酸素(エネルギー)が必要になる。
②コウモリでは飛ぶことに特化したため、地上では立つことも歩くこともできない体型になった。
かなり、大変な欠点です!

なぜ飛べるか?   酸素を取り込む能力を進化させた!
欠点の①の酸素吸収量が安静時の20倍以上も必要な運動というと、私達ヒトでは時速20kmのランニングに相当します。フルマラソンならば42kmを約2時間で走る運動に相当します。
時速20kmを達成するには優れた身体能力を持ち、長時間のトレーニングをうけてようやく可能になるほどの運動です。しかしコウモリは哺乳類にもかかわらず、特殊な肺を進化させてこの20倍の酸素吸収能力を獲得しました。

まず、同じ重さの哺乳類と比べると、肺の面積、つまり酸素と血液の接触する面積が10倍も広く、酸素が吸収される時の障害となる肺胞と血液の間の厚さは0.1ミクロンと半分以下です。
肺の中を流れる血液量も多く、さらに酸素を運ぶ血液中のヘモグロビン濃度は約24g/dlとヒトの2倍近くもあって、心臓が送り出す血液量も増えています。

鳥の肺はとても効率よく酸素を吸収する構造を持っているのですが、コウモリはこの様な進化の結果、鳥とほぼ同じくらい効率よく酸素を吸収することができる様になったのです。哺乳類の中では最も優れた肺を持っていると言えます。
こうして、翼の筋肉にたくさんの血液と栄養と酸素を送って、翼を自在に操り飛んでいるのです。
私たちの肺がコウモリのような能力を持っていれば、今よりはるかに運動能力は高くなり、ヒマラヤのような高地でも酸素マスクが不要になり、肺の慢性的な病気で起きる呼吸困難のリスクもずっと小さくなるのかもしれません。
しかしそのような呼吸能力は酸素の豊富な地上の生活には過剰であり、もしそれを持ったとしたらその代償として、コウモリが地上を歩けなくなったように、あるいは鳥が手を翼に変えたように、私たちも地上生活に不可欠な身体能力の一部を失うことになるかもしれません。
地上と空の両方を生身の体1つで自在に移動するのは難しいようです。

(参考:Maina.(2000) What it takes to fly. JEB 203:3045-64.)
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