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私達動物の息の仕方とその歴史

水中の動物たちの呼吸4

2021-08-11 22:29:17 | 日記
魚の鰾(うきぶくろ)=魚の体の巧妙な仕組み=

訂正文  今回の話の前に、前回の計算式について追記しておきます。
「水中の動物たちの呼吸3」に、VO2(ml/min)=1.44×W(Kg)0.811 の形の式がありましたが、これはWの0.811乗のことです。5つほどこのような式が出てますが、そのように読みかえてください。

では、今回の話に戻ります。
今回は、鰓(エラ)と同じくらい魚にとって重要な鰾(うきぶくろ)について、少し詳しく見てみます。
○エラと鰾の獲得
5億5千万年前の古生代、まず海で鰓(エラ)を持つ動物が出現し、その1億年後には川や池の淡水にも生息できる魚が現れました。池や川の酸素濃度は不安定でしばしば低酸素になるために、原始的な肺が発生したとのことです。現在の肺魚やポリプテルスでは呼吸器官として使われています。海へと回帰した魚では不要になった肺は浮力調節器としての鰾(うきぶくろ)へと形を変えました。
▶鰾(うきぶくろ)の働き-----魚が潜るときの巧妙な仕組み
水面にいる魚が200mの深海に潜っていく場合を例にして、鰾の働きをみてみましょう。
水面の魚の鰾に1気圧で100mlのガス(ほとんどが酸素)があって浮力を保っているとしましょう。200mの深海では21気圧なので体積は21分の1となり、5ml以下に圧縮されます。浮力を保つには鰾に更に約95ml追加しないといけませんが、その酸素ガスの圧力は21気圧です!
さて、深海では水圧が21気圧ですが、溶けている酸素の分圧は大気中とほぼ同じ0.2気圧です。0.2気圧の酸素を水圧21気圧に負けないほど高くする機構が、ガス腺と奇網です。
鰾のガス腺の周囲には毛細動脈と静脈が密集していて夫々の血液が互いに反対向きに流れる奇網(対向流交換系)といわれる血管網があります。
奇網の中の毛細静脈から毛細動脈に二酸化炭素と乳酸が拡散移動すると、動脈血は酸性に傾きます。この動脈血がガス腺細胞から生じる乳酸とCO2によってさらに強い酸性になると、Hbと結合した酸素は放出されて(ルート効果)血漿中の濃度が高くなり、その結果血中酸素分圧は上昇し(ヘンリーの法則)、鰾内に放出されます。このメカニズムで、酸素分圧を鰾の中の圧力(今の場合21気圧)よりも高くすることができるのです。
ガス腺から流出する静脈血中の乳酸とCO2は奇網の中で動脈血に拡散移動するサイクルを繰り返すことになります。

逆に、深海にいる魚では高圧の酸素ガスが鰾内にたまっているので、浮上するとともに圧力が下がり膨張します。浮力に必要な体積よりも増えた余分な酸素ガスは、鰾の内面にある乱円体という組織を通して血液中に吸収され、エラから水中に放出される。
鰾はもともと呼吸のための器官だったので、酸素の吸収放出を担うには都合がよかったのでしょう。(魚の中には鰾が食道とつながっている場合もあって、その魚では余分なガスは口から排気しています)

この乳酸とCO2の拡散移動に使われている、奇網は魚の筋肉内の体温を維持するためにも使われています。
▶体温調節
前々回にマグロやカツオなど高速遊泳魚では、体温が海水温よりも約10℃高いことと、アカマンボウ科の魚オパ(Opah)の恒温性の話題がありました。
どちらの場合も、筋肉で発生した熱で温められた静脈血は毛細動静脈網(奇網)に流入すると、エラから出てくる冷えた動脈血に熱を移します。温度の上がった動脈血は筋肉を暖めて体温を維持し、活発な活動を支えることができます。熱を与えて冷えた静脈血は心臓を通ってエラに流れますが海水との温度差が小さいので熱放散は最小に押さえられる、ということでした。
ここでも、奇網の中では動脈血流と静脈血流が互いに反対に流れる対向流になっていて、熱を効率よく移すことができています。
この熱の回収と放出の対向流の仕組みは、イルカのひれ、水鳥の足、犬の肉球などで体温の維持に役立っているだけでなく、お風呂や台所の温水器からクーラーまで私たちの生活機器にも幅広く使われています。

参考文献
ガール・ジンマー『水辺で起きた大進化』早川書房 2000年(原書 1998年)
魚類生理学の基礎 恒星社厚生閣 2013年
魚の浮き袋に隠された代謝トリックの解明 2013年5月科研報告
(URL:kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-24657085/24657085seika.pdf)
追加
魚類の肺と四肢動物への進化に新しい仮説が発表されました!
4億年前(古生代 シルル紀からデボン紀)の大陸分布、地球の1日が21時間であったこと、月との距離が近いこと、海水の性質、各惑星の位置、を用いて数学的な潮汐システムでシミュレーションした。その結果南半球のゴンドワナ大陸と北のローラシア大陸のあいだの赤道付近では干潮と満潮時の海面に4m以上の差があったことがわかった。干潮時に潮だまりに取り残された硬骨魚にとっては、低酸素濃度と水位の低下が、肺を獲得し、鰭を四肢に進化させる推進力になり得るとの説です。
(Proceedings of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences. A key environmental driver of osteichthyan evolution and the fish-tetrapod transition?  H. M. Byrne et.al. Published:21 October 2020)
コメント (1)
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