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私達動物の息の仕方とその歴史

昆虫の呼吸ーその2

2023-05-07 15:00:00 | 日記
昆虫の呼吸―その2

今回は外骨格、翅、循環系の話です。

シルル紀から、3億年前の石炭紀末まで1億4千万年間に昆虫は進化し、多くの種類に放散しました。
昆虫の特徴
前回にも記載しましたが、全動物種の80%以上を占める昆虫は背骨を持たず、代わりに体表に硬い殻つまり外骨格で体勢を作るとともに耐乾性を得ています。この固い殻を持ちながら成長するために脱皮と変態を行っています。
また、昆虫の99%以上が翅(はね)を持ち、呼吸循環系では開放血管系と独特の気管呼吸が特徴です。

外骨格
利点:体を保護し支える(脚はカンブリア紀から備えてた)、体液の蒸発を防ぐ(耐乾燥)
欠点:表皮の感覚、成長のため脱皮が必要、気管の脱皮

外骨格は、耐水性のあるキチン質(ムコ多糖;N-アセチルグルコサミン+グルコサミン)が主成分であり、外敵や外傷から守り、付着している筋肉の収縮に対する支持も担っています。
更に、陸生の小動物は体重に対する表面積の割合が大きくなるために、体表から水分が蒸発しやすいけれど、昆虫の外骨格にあるワックスの層が蒸発を防いでし干からびることを免れているのです。

昆虫体の成長のためにはそれまでの外骨格を脱皮により取り外して、次の外骨格が再生されるまでの短い時間に翅や皮膚の拡張、成長が行われている。
表皮を貫いている気管の内側も脱皮時には脱ぎ捨てられます。その貴重な画像がこの図です。白いひものように見えるのが、古い気管の内側の壁とのことです。
芋虫が蝶になる等の変態では外骨格だけでなく内蔵器官の大幅な再構成が行われていますので、網状の末梢毛細血管系のない解放血管系はこの変態や脱皮時に有利かもしれません。

昆虫の翅
4億年前のデボン紀初期には翅を持つようになりました。昆虫の翅は甲殻類が持っていた胸部の脚の基部(脚の先端から8番目の節)が体に取り込まれた部位に形成されたとのことです。

翅を動かす筋肉は胸部の頑丈な外骨格に付着し、迅速な運動が可能になっています。
その筋肉細胞に必要な酸素はそれぞれの細胞の中にまで分布している毛細気管(直径1万分の1ミリ)を通って供給されるとのことです(詳細は次回以降)。
翅の獲得により移動能力、攻撃からの逃避、体温の発散(デボン紀から石炭紀の高温多湿への適応)、発音機能(音によるコミュニケーション:虫の音)などの機能が獲得されました。
石炭紀には、体長30cmのトンボ:メガネウラなど巨大な昆虫や、重さ20kgのサソリ(節足動物)が出現していました。

昆虫の巨大化の理由についても後で解説します。

循環系:解放血管系
「水中の動物たちの呼吸11」でも解放血管系の解説をしたので、再掲です。
魚類から哺乳類までの脊椎動物の血管は心臓―動脈―末梢毛細管―静脈―心臓とつながっていて、血液と組織の細胞との間の栄養、老廃物、酸素、二酸化炭素などの交換は血管壁を介して行っています。血液は血管内に閉じ込められている閉鎖循環系です。
一方、昆虫では血リンパ液(栄養素に富み生体防御作用を担う細胞を含む体液)は心臓から動脈を経て血管外の組織間隙(血体腔)に流入します(下図)。
毛細血管と静脈に相当する血管はなくて、血リンパ液は各器官の細胞の間を流れて、図のような毛細気管から酸素を吸収するとともに、栄養、老廃物、ホルモンの運搬を行います。

その後、心臓周囲の膜の内側にある間隙(囲心腔)に流入して心臓に開いた多数の心門という一方向弁を通り再び動脈へと循環する解放血管系です。心臓は背中側にある動脈の一部がポンプとして直列に繋がって脈動し、血管内の一方向弁により尾側から頭側に血リンパを送っています。これは背脈管といって、エビを料理するときに背中を開いて取り除くいわゆる「背わた」に相当するものです。
触覚や肢などの器官の基部ではまた別の脈拍器官があり循環を補助しています。
運動に必要な糖分などのエネルギー源は、消化管から吸収されてこの循環する血リンパにより筋肉細胞に運ばれています。
水生の甲殻類(エビ、カニ等)では血リンパ中に、酸素を運ぶ血色素ヘモシアニンを持っていますが、昆虫にはありません。
臓器や細胞が血リンパ液に浸されたような状態であって、網状の毛細血管系がないので構造が単純であり、組織や臓器の間を血リンパ液と生体防御担当細胞が流れています。


参考文献
スコット・R・ショー「昆虫は最強の生物である」河出書房新社2016年
土屋健「オルドビス紀・シルル紀の生物」技術評論社2013年
松香光夫ほか 昆虫の生物学 第2版 玉川大学出版 1992
京都九条山自然観察日記 2013/6/26 http://net1010.net/2013/06id_7456
Bruce HS. Nature Ecology & Evolution 1703-12 (2020)
Wikipedia 昆虫
コメント (1)
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