両生類(両棲類)の呼吸―その1
今回から両生類の呼吸の話題です。
まずデボン紀後期の頃に起きた魚類から両生類への進化の概略についてからはじめます。
魚類が陸上へ進出するに当たって空気呼吸に利用した肺は、シルル紀中期(約4.2億年前)に硬骨魚類が獲得したものでした。
硬骨魚類は古生代デボン紀に、条鰭類(じょうきるい)と肉鰭類(にくきるい)に分岐しました(約4億年前)。条鰭類とは鰭(ヒレ)が付け根から放射状に伸びる細い骨と膜でできている魚で、現在の大部分の魚が該当します。肉鰭類とは鰭が肉質で分厚くなっていて、現生ではシーラカンスや肺魚が相当しています。その肉鰭類の中から約3億6千万年前に肺呼吸を利用して、ヒレを四つ足にかえて陸上に進出したのが両生類です。
それまで陸上は昆虫などの外骨格を持つ節足動物だけの世界であり、内骨格の魚から進化した両生類のような脊椎動物はいませんでした。
空気を呼吸に利用する初めての脊椎動物のためでしょうか、水中ではエラを使いながら陸上では肺と皮膚が主で、補助的に口腔、総排泄腔(下記*参照)を使うなど多彩です。特に皮膚呼吸は両生類にとって主要な呼吸器官でした。
皮膚呼吸のために薄い皮膚を湿らせておかなければならないので乾燥に弱く水環境から離れられません。また爬虫類以降の四足動物とは違って、卵の中に羊膜がなくて乾燥しやすいために水中に産卵していました。このように陸に棲む動物なのに水辺も必要な動物なので両生類(両棲類)と名付けられています。
*総排泄腔とは:サメなどの軟骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類にみられる器官で、直腸 ・尿道・生殖口が一緒になっている排泄口。
進化史概略
図の様にデボン紀後期の肉鰭類では陸生への進化が始まっていました。
○ユウステノプテロン:水生、体長1m、胸びれには上腕骨、橈骨・尺骨があるが、指はできていません。
○パンデリクチス:水生、体長1m以上、頭部が扁平で目が背側にある。背びれ腹びれがなくなり、指状の骨が確認されている。
○ティクターリク:水生、最大2.7m、扁平な頭部、頭頂部の目、首が備わり発達した肋骨、上腕・前腕があり肩と肘、手首がそろっていた。腕立て伏せが可能でヒレで体を支えられた。骨盤と後ろ足も発見されている。
○アカントステガ:水生だが肺呼吸も可。体長60cm、四肢を持つが水中生活に適応、前足指8本、後足指6~8?本、エラ呼吸と肺呼吸していた。後足が発達していて生息地の流れの速い川底を歩いていた。
○イクチオステガ:両生。体長1m、扁平で大きい頭部、肩と四肢、後足指7本、肋骨が発達し体幹を支えていた。肺呼吸をして前脚で体を支えて水辺をアザラシのように体をくねらせて這いまわっていた。
イクチオステガは絶滅した最も古い両生類化石種であり、頭骨、脊柱、四肢帯は魚類の特徴が残っているが、同時に四肢は陸上運動が可能なまでに発達していました。
○ペデルペス:石炭紀前期3億5千万年前の地層から発見された。体長50cm後足指5本が前を向いて、歩行に適していた。歩行を確認できる最古の陸棲脊椎動物といわれている。
○エリオプス:石炭紀後期~ペルム紀前期(約2億9829万年前)の北アメリカにいた両生類。 体長約2m、推定体重90kg
〇セームリア
古生代ペルム紀前期の約2億8,200万 - 約2億6,000万年前に現在の北アメリカ及びヨーロッパに生息していた。全長50cm程度。生息地は半乾燥の地域と推定され、陸生傾向が強かったと考えられている。
このように水生から陸棲への進化を代表する両生類の系譜が明らかになってきましたが、このほかにも、これ以後も石炭紀、ペルム紀を通じて分岐・進化した多くの種がいました。
両生類が上陸した当時の水辺には、コケ類が広がり低木の樹木の森が広がっていたでしょう。そこにはすでに多足類のヤスデやムカデ、トビムシ、昆虫など多くの節足動物が住んでいて新参者の両生類と互いに戦い捕食し合っていたのではないでしょうか。
そのような楽園の両生類たちは、2億5千万年前のペルム紀末の大絶滅でほとんどが失われました。そこを生き延びた中から現在の両生類へとつながる進化が始まりました。
次回は、肉鰭類が海から離れて上陸し空気呼吸を選んだ理由について考えてみます。
参考文献
松井正文 両生類の進化 東京大学出版会 東京 2012
土屋健 石炭紀・ペルム紀の生物 技術評論社 東京 2014
土屋健、エディアカラ紀・カンブリア紀の生物 技術評論社 東京 2020
ドナルド・プロセロ、化石が語る生命の歴史 11の化石生命誕生を語る・古生代 築地書館 東京 2018
A. Romer 脊椎動物の歴史 どうぶつ社 東京 1981
http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130429_1/ よりDL 2018/7/15
Wikipedia:イクチオステガ、セイムリア、両生類、の各記事よりDL 2018~2024
今回から両生類の呼吸の話題です。
まずデボン紀後期の頃に起きた魚類から両生類への進化の概略についてからはじめます。
魚類が陸上へ進出するに当たって空気呼吸に利用した肺は、シルル紀中期(約4.2億年前)に硬骨魚類が獲得したものでした。
硬骨魚類は古生代デボン紀に、条鰭類(じょうきるい)と肉鰭類(にくきるい)に分岐しました(約4億年前)。条鰭類とは鰭(ヒレ)が付け根から放射状に伸びる細い骨と膜でできている魚で、現在の大部分の魚が該当します。肉鰭類とは鰭が肉質で分厚くなっていて、現生ではシーラカンスや肺魚が相当しています。その肉鰭類の中から約3億6千万年前に肺呼吸を利用して、ヒレを四つ足にかえて陸上に進出したのが両生類です。
それまで陸上は昆虫などの外骨格を持つ節足動物だけの世界であり、内骨格の魚から進化した両生類のような脊椎動物はいませんでした。
空気を呼吸に利用する初めての脊椎動物のためでしょうか、水中ではエラを使いながら陸上では肺と皮膚が主で、補助的に口腔、総排泄腔(下記*参照)を使うなど多彩です。特に皮膚呼吸は両生類にとって主要な呼吸器官でした。
皮膚呼吸のために薄い皮膚を湿らせておかなければならないので乾燥に弱く水環境から離れられません。また爬虫類以降の四足動物とは違って、卵の中に羊膜がなくて乾燥しやすいために水中に産卵していました。このように陸に棲む動物なのに水辺も必要な動物なので両生類(両棲類)と名付けられています。
*総排泄腔とは:サメなどの軟骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類にみられる器官で、直腸 ・尿道・生殖口が一緒になっている排泄口。
進化史概略
図の様にデボン紀後期の肉鰭類では陸生への進化が始まっていました。
○ユウステノプテロン:水生、体長1m、胸びれには上腕骨、橈骨・尺骨があるが、指はできていません。
○パンデリクチス:水生、体長1m以上、頭部が扁平で目が背側にある。背びれ腹びれがなくなり、指状の骨が確認されている。
○ティクターリク:水生、最大2.7m、扁平な頭部、頭頂部の目、首が備わり発達した肋骨、上腕・前腕があり肩と肘、手首がそろっていた。腕立て伏せが可能でヒレで体を支えられた。骨盤と後ろ足も発見されている。
○アカントステガ:水生だが肺呼吸も可。体長60cm、四肢を持つが水中生活に適応、前足指8本、後足指6~8?本、エラ呼吸と肺呼吸していた。後足が発達していて生息地の流れの速い川底を歩いていた。
○イクチオステガ:両生。体長1m、扁平で大きい頭部、肩と四肢、後足指7本、肋骨が発達し体幹を支えていた。肺呼吸をして前脚で体を支えて水辺をアザラシのように体をくねらせて這いまわっていた。
イクチオステガは絶滅した最も古い両生類化石種であり、頭骨、脊柱、四肢帯は魚類の特徴が残っているが、同時に四肢は陸上運動が可能なまでに発達していました。
○ペデルペス:石炭紀前期3億5千万年前の地層から発見された。体長50cm後足指5本が前を向いて、歩行に適していた。歩行を確認できる最古の陸棲脊椎動物といわれている。
○エリオプス:石炭紀後期~ペルム紀前期(約2億9829万年前)の北アメリカにいた両生類。 体長約2m、推定体重90kg
〇セームリア
古生代ペルム紀前期の約2億8,200万 - 約2億6,000万年前に現在の北アメリカ及びヨーロッパに生息していた。全長50cm程度。生息地は半乾燥の地域と推定され、陸生傾向が強かったと考えられている。
このように水生から陸棲への進化を代表する両生類の系譜が明らかになってきましたが、このほかにも、これ以後も石炭紀、ペルム紀を通じて分岐・進化した多くの種がいました。
両生類が上陸した当時の水辺には、コケ類が広がり低木の樹木の森が広がっていたでしょう。そこにはすでに多足類のヤスデやムカデ、トビムシ、昆虫など多くの節足動物が住んでいて新参者の両生類と互いに戦い捕食し合っていたのではないでしょうか。
そのような楽園の両生類たちは、2億5千万年前のペルム紀末の大絶滅でほとんどが失われました。そこを生き延びた中から現在の両生類へとつながる進化が始まりました。
次回は、肉鰭類が海から離れて上陸し空気呼吸を選んだ理由について考えてみます。
参考文献
松井正文 両生類の進化 東京大学出版会 東京 2012
土屋健 石炭紀・ペルム紀の生物 技術評論社 東京 2014
土屋健、エディアカラ紀・カンブリア紀の生物 技術評論社 東京 2020
ドナルド・プロセロ、化石が語る生命の歴史 11の化石生命誕生を語る・古生代 築地書館 東京 2018
A. Romer 脊椎動物の歴史 どうぶつ社 東京 1981
http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130429_1/ よりDL 2018/7/15
Wikipedia:イクチオステガ、セイムリア、両生類、の各記事よりDL 2018~2024