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私達動物の息の仕方とその歴史

両生類の呼吸-その3

2025-02-08 13:00:00 | 日記
両生類の呼吸-その3

両生類は約3億6千万年前に水棲の魚類から進化して、移動のためにヒレを四つ足にかえて、呼吸のためにエラの代わりに肺を利用するようになりました。 単純な袋状の肺と皮膚などを使って酸素吸収と二酸化炭素の排出(ガス交換)をしていました。初期の魚類で利用されていた皮膚が再び呼吸器官になったのでした。
初期の両生類は皮膚を利用する以外にも、咽頭粘膜や総排泄腔の粘膜を使う種もいるなど、全身のいろいろな部位を呼吸に使って陸上へ適応していったのです。

両生類の現生種は、有尾目(サンショウウオ、イモリ、等)、 無尾目(カエル)、無足目 (アシナシイモリ)の3群に分類されています。
成熟前の幼生体ではほとんどが水棲であり、エラ呼吸をしています。一方、成体の呼吸器官は非常に変化に富んでいて、サンショウウオの大部分は皮膚呼吸だけ、カエルでは皮膚呼吸と口腔を使う陽圧送気が主流であり、アシナシイモリの生態は詳細不明ですが肺と皮膚で換気しているようです。

◯今回は最も身近な無尾目(カエル)が獲得してきた呼吸法についてです。
無尾目の現生種は約6500種のカエルです。
幼生から変態して成体になるのですが、例外が多くの種でみられます。卵は水中に産卵されて、幼生(オタマジャクシ)は鰓呼吸をしますが、成熟して成体になるとエラはなくなり、肺呼吸と皮膚呼吸をします。
最大の特徴の1つは跳躍の能力を獲得したこと、もう1つは陸上の脊椎動物では尾があるのが普通ですがカエルではそれを失いました。尾は跳躍の際にじゃまになるために、進化とともに消失したと考えられています。

カエルには、肋骨や横隔膜という換気のための臓器がないので肺へ空気を送るには口腔を使います。それにはまず口腔を大きく広げて空気を貯め、次いで鼻とロをふさいでから口腔を縮めて空気圧を高め肺に空気を送ります。息を吐く時は、鼻を開いて受動的に排出しています(頬換気:Buccal pumping)。これはヒトが重篤な呼吸不全になったときに使う人工呼吸器と同じ換気方法です。
成体では肺と皮膚からの呼吸量はほぼ同じくらいなのですが、3月から9月にかけては肺呼吸量が増加します。皮膚呼吸量は年間を通じてほぼ一定なので、繁殖期の暖かなこの期間は肺呼吸量の方が大きくなります。

皮膚からの酸素吸収の効率をよくするため、皮膚の形態は多様に進化しました。
○毛ガエル
中央アフリカに棲息する体長10cmほどのカエルには、上肢から下肢にわたって体側と太腿に毛状の構造が密集して生えています。
これは真皮が乳頭状に伸びて、その内部に毛細動静脈が走っているので、水中では外鰓(外に飛び出たエラ)と同様の換気機能があるとされています。


○チチカカミズガエル
南米ペルーのチチカカ湖には完全に水棲の体長10cmほどのカエル(チチカカミズガエル)が棲息しています。その肺は陸棲の同サイズのカエルの1/3以下と小さく、また湖面は高度3800mのため空気中の酸素分圧は海面の60%しかないので水中に溶けている酸素量も少ない。このカエルはほとんど湖面に出ることはなく、皮膚表面の大きなしわや皮膚弁を素早く上下に振って潅水し、皮膚角質層内の豊富な毛細血管を使ってガス交換をしています。生理学的には低い代謝率、両生類の中で最小の赤血球容積、低いP50の値(酸素分圧が低くても赤血球が酸素化されること)、赤血球数とヘモグロビン濃度とヘマトクリット値が高いという特徴があります。


○ゴライアスカエル
西アフリカの熱帯雨林で滝や急流に棲息している半水棲のゴライアスカエルは体重が3kgもあり、カエルの中では最大です。大きいですが代謝率が低いので、多数の突起のある皮膚と、小さいけれども酸素吸収効率のよい肺で高頻度の口腔換気を使って呼吸しています。


○肺のないカエル(ボルネオハイナシガエル)
これまで確認されていたカエルは完全に水棲であっても肺を持っていました。しかし2008年に解剖されたボルネオ肺ナシガエル(Barbourula kalimantanensis、スズガエル科)には肺がないことが確認されました。皮膚呼吸のみで生きている唯一のカエルです。
捕獲された8個体の解剖では心臓周囲には胸膜はあるが肺はなく、また喉頭には気管につながるはずの気道の開口部も認められません。大きさは平均3.8cm重さの平均は6.5gと小型です。
14-17℃の冷たく高酸素濃度の急流に棲息するので浮力を軽減するために肺をなくして、皮膚面積を増加させて酸素吸収量を増やすために体型を著しく扁平化したのでしょう(Current Biology 18:R374-5)。


これらのカエルたちはそれぞれの環境への適応のために皮膚を改変して肺呼吸だけでは足りない酸素の吸収量を増やしているように思えます。
しかしそれは反対かもしれません。
つまりカエルにとっては皮膚が主要な呼吸臓器であり、肺は皮膚で足りない分を補うという位置づけの様に考えられないでしょうか。
なぜなら、カエルたちは環境によって皮膚を様々に変異させて酸素を呼吸していますが、皮膚から十分な吸収が可能になると肺もなくしているからです。
それに、同じ両生類のサンショウウオも肺を持たず皮膚呼吸だけであり、足なしイモリの皮膚が主要な呼吸器官なのも同じ理由かもしれません。
前回に話題としたように魚には口腔や皮膚を使う呼吸法を獲得して陸上で生存を可能とする方向への進化がありました。そのような進化の流れの上で魚から進化したばかりの両生類という進化段階ではまだ皮膚が主要な呼吸器官であったのではないでしょうか。
そう考えると、両生類が四肢動物で唯一肺のない進化を遂げた理由は、肺が進化して十分な機能を持つその時までは、未熟な肺はいつでも破棄できる臓器だったからと言えるのかもしれません。

参考文献
・松井正文 両生類の進化 東京大学出版会 東京 2012
・クヌート シュミット=ニールセン 動物生理学第5版 東京大学出版会 2007
・D. Bickford 他 A lungless frog discovered on Borneo  Current Biology vol18 No9:R374-5 2008
・毛ガエル:http//allabout.co.jp/gm/gc/70659/より転載
・チチカカミズガエル:Ugly-overloadより転載
・ゴライアスカエル:Wikipedia ゴライアスカエルより転載
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