(2)厚生年金基金のリスク管理
① リスクの認識
厚生年金基金は、設立趣旨であります年金給付を永続的に確保するため、①加入員のデ-タ管理、②年金等の確実な給付実行、③戦略的な情報発信としての福祉・広報の展開、④財政安定と原資産保全、⑤資産運用等の事業を行いますが、これらの事業展開に際して様々なリスクに常時晒されていることを認識しつつ、基金の存亡を危うくする「年金給付不能リスク」に対処する必要が生じてきていると考えられます。
年金受給者が年一度提出を求められる「現況届」という書類は、以前は市区町村の生存証明が必要でありましたが、最近は規制緩和の一環で本人、または代理人の署名だけでかまわないように簡略化されました。ところが、この弊害といいますか、受給者の増大に伴う事故率の拡大といいますか、本人を詐称する事例も発生してまいりました。さらに、年金そのものを本人になりすました人が不正請求し受給する者も出てきております。一方、基金事務局の職員自身が基金資産の詐欺・横領を働くなさけない事件も新聞報道されるようになりました。
さらに、平成9年前後の金融不祥事等に絡まる年金原資産そのものの保全が危惧される事態、生命保険会社等の保証利回り引き下げと廃業・売却等による年金資産の減価、代行返上等に絡まる制度変更時の受給権保全危惧、グロ-バル経済におけるボラティリティの拡大がそのまま連結されている年金資産の危うさ等々……厚生年金基金を取り巻く環境は一段とリスクが増進しています。
要するに、基金の事業展開に伴う「年金給付不能リスク」には、掛金不足リスク、負債変動リスク、資産・負債ミスマッチリスク、資産運用リスク、信用リスク、流動性リスク、オペレ-ショナルリスク、リ-ガルリスク、コンプライアンスリスク、カストディアンリスク等々があり、基金関係者は夜も眠れないほどの修羅場に置かれているのが現実です。
② 基金事務所の意思決定過程
そうではありますが、現実の基金事務所で行われている意思決定過程は従来手法のまま業務展開されています。心有る基金関係者は、そのハイ・リスクを大変危惧していますし、規程の必要性を発言する方もいらっしゃいます。また、基金連合会のリスク管理研究会の活動も始まっています。
厚生年金基金の一般的な意思決定過程は、理事長からのトップダウン方式ではなく、常務理事等のボトムアップ方式で行われていると言って間違いないでしょう。それは、母体企業等との兼職が多い理事長職にはトップダウンするだけの情報を把握していないという現実があるということです。そこで、常務理事等が運営を全面的に推進することになっています。
ABC基金では、書類の流れは始めに庶務担当者が受付けて、<ヅラバン>を押して順次職員→事務長→常務理事→理事長と一覧され、一応目を通したということで各自の職印が押されます。
この一覧方式で、1日100件ほどの書類が事務所内を回っています。8時間の就労時間内にこれだけの大量の書類に目を通すだけでも大変でありますが、なお、各々の案件に判断を示していくことは一層ハ-ドです。うっかりすると、誰も判断を示さず、ファイル・保存されてしまう場合も発生します。時には、事情を承知しない者の突飛な判断がまかり通ることもあります。
この一覧方式は、全員が情報の共有を図れるというメリットもありますが、誰も責任を取らないという責任霧散システムにもなっています。各々の職務レベルでの責任は、一覧方式では霧散したままに終わってしまいます。<こともなし>のまま業務が執行されています。といいますより、未だ三種の神器時代の統治方法で行われているということでしょう。
③ 職務と権限、そして責任
それは、職務と権限、そして責任がトップの度量の中に全て押さえ込まれている曖昧なシステムということでありますし、合理的・客観的にその基準が明示されないシステムということであります。各々の職務レベルでの権限と責任が明示的ではなく文書化されないまま業務が展開します。
④ 不可欠な厚生年金基金リスク管理規程
厚生年金基金は、厚生年金保険法、基金規約・規程、厚生年金基金連合会の『受託者責任ハンドブック(理事編)』等々に準拠しつつ事業展開を行いますが、リスク増進の時代背景の下、基金事務所内スタッフの意思決定過程の透明性を確保するために職務・権限・責任の所在を明確にする文書化を図る必要が生じてきています。
併せて、受託者責任の最良執行を求められていますので、リスク管理の観点から忠実義務達成のために基金にとり好ましからざる事態を好ましい方向へ「制御」し、注意義務達成のため制御し得ない事態の発生を「監視」し続け、これらが実際に発生した場合には適切な対策が打てるような体制を構築しておき、被害を回避または最小限にして株主や加入員等の負託に応えなければならないと思います。
このため、厚生年金基金のリスク管理規程の制定は不可欠の事案となってきています。
⑤ 規程の性格
とはいえ、現時点では理想にはほど遠いのですが、平易な形で定性的にリスクに対処し技術的に高度な定量管理等は後日の課題として、基金関係者にリスクに対する<注意喚起>を行うことを主眼とした規程を制定すべきかと考えられます。
このため、この規程は切磋琢磨な試行錯誤の積み重ねによりおいおい改良されていく類の規程と位置付けることになりましょう。ひとつのたたき台です。
1案を、巻末の「厚生年金基金の経営フレームワーク資料集」に掲載しますのでご覧いただきたいと思います。
① リスクの認識
厚生年金基金は、設立趣旨であります年金給付を永続的に確保するため、①加入員のデ-タ管理、②年金等の確実な給付実行、③戦略的な情報発信としての福祉・広報の展開、④財政安定と原資産保全、⑤資産運用等の事業を行いますが、これらの事業展開に際して様々なリスクに常時晒されていることを認識しつつ、基金の存亡を危うくする「年金給付不能リスク」に対処する必要が生じてきていると考えられます。
年金受給者が年一度提出を求められる「現況届」という書類は、以前は市区町村の生存証明が必要でありましたが、最近は規制緩和の一環で本人、または代理人の署名だけでかまわないように簡略化されました。ところが、この弊害といいますか、受給者の増大に伴う事故率の拡大といいますか、本人を詐称する事例も発生してまいりました。さらに、年金そのものを本人になりすました人が不正請求し受給する者も出てきております。一方、基金事務局の職員自身が基金資産の詐欺・横領を働くなさけない事件も新聞報道されるようになりました。
さらに、平成9年前後の金融不祥事等に絡まる年金原資産そのものの保全が危惧される事態、生命保険会社等の保証利回り引き下げと廃業・売却等による年金資産の減価、代行返上等に絡まる制度変更時の受給権保全危惧、グロ-バル経済におけるボラティリティの拡大がそのまま連結されている年金資産の危うさ等々……厚生年金基金を取り巻く環境は一段とリスクが増進しています。
要するに、基金の事業展開に伴う「年金給付不能リスク」には、掛金不足リスク、負債変動リスク、資産・負債ミスマッチリスク、資産運用リスク、信用リスク、流動性リスク、オペレ-ショナルリスク、リ-ガルリスク、コンプライアンスリスク、カストディアンリスク等々があり、基金関係者は夜も眠れないほどの修羅場に置かれているのが現実です。
② 基金事務所の意思決定過程
そうではありますが、現実の基金事務所で行われている意思決定過程は従来手法のまま業務展開されています。心有る基金関係者は、そのハイ・リスクを大変危惧していますし、規程の必要性を発言する方もいらっしゃいます。また、基金連合会のリスク管理研究会の活動も始まっています。
厚生年金基金の一般的な意思決定過程は、理事長からのトップダウン方式ではなく、常務理事等のボトムアップ方式で行われていると言って間違いないでしょう。それは、母体企業等との兼職が多い理事長職にはトップダウンするだけの情報を把握していないという現実があるということです。そこで、常務理事等が運営を全面的に推進することになっています。
ABC基金では、書類の流れは始めに庶務担当者が受付けて、<ヅラバン>を押して順次職員→事務長→常務理事→理事長と一覧され、一応目を通したということで各自の職印が押されます。
この一覧方式で、1日100件ほどの書類が事務所内を回っています。8時間の就労時間内にこれだけの大量の書類に目を通すだけでも大変でありますが、なお、各々の案件に判断を示していくことは一層ハ-ドです。うっかりすると、誰も判断を示さず、ファイル・保存されてしまう場合も発生します。時には、事情を承知しない者の突飛な判断がまかり通ることもあります。
この一覧方式は、全員が情報の共有を図れるというメリットもありますが、誰も責任を取らないという責任霧散システムにもなっています。各々の職務レベルでの責任は、一覧方式では霧散したままに終わってしまいます。<こともなし>のまま業務が執行されています。といいますより、未だ三種の神器時代の統治方法で行われているということでしょう。
③ 職務と権限、そして責任
それは、職務と権限、そして責任がトップの度量の中に全て押さえ込まれている曖昧なシステムということでありますし、合理的・客観的にその基準が明示されないシステムということであります。各々の職務レベルでの権限と責任が明示的ではなく文書化されないまま業務が展開します。
④ 不可欠な厚生年金基金リスク管理規程
厚生年金基金は、厚生年金保険法、基金規約・規程、厚生年金基金連合会の『受託者責任ハンドブック(理事編)』等々に準拠しつつ事業展開を行いますが、リスク増進の時代背景の下、基金事務所内スタッフの意思決定過程の透明性を確保するために職務・権限・責任の所在を明確にする文書化を図る必要が生じてきています。
併せて、受託者責任の最良執行を求められていますので、リスク管理の観点から忠実義務達成のために基金にとり好ましからざる事態を好ましい方向へ「制御」し、注意義務達成のため制御し得ない事態の発生を「監視」し続け、これらが実際に発生した場合には適切な対策が打てるような体制を構築しておき、被害を回避または最小限にして株主や加入員等の負託に応えなければならないと思います。
このため、厚生年金基金のリスク管理規程の制定は不可欠の事案となってきています。
⑤ 規程の性格
とはいえ、現時点では理想にはほど遠いのですが、平易な形で定性的にリスクに対処し技術的に高度な定量管理等は後日の課題として、基金関係者にリスクに対する<注意喚起>を行うことを主眼とした規程を制定すべきかと考えられます。
このため、この規程は切磋琢磨な試行錯誤の積み重ねによりおいおい改良されていく類の規程と位置付けることになりましょう。ひとつのたたき台です。
1案を、巻末の「厚生年金基金の経営フレームワーク資料集」に掲載しますのでご覧いただきたいと思います。
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