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愛するひとと暮すための家

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縁あって、建築家 鯨井勇さん(藍設計室)の自邸:プーライエにおじゃました。
1973年完成から約30年。途中増築をされている。完成当時の写真を見ると、外壁が板張りの存在の意志を感じる家だったが、今はサイデイング張りに改修されている。うかつに見過ごしてしまいそうだが、それでも、建築当時の面影が残り、当時の写真が頭の中でだぶる。
その写真は、鯨井さんと同世代の写真家 宮本隆司さんが撮影したもの。宮本さんといえば、個人的には香港の九龍城の作品が強烈にインプットされている。(プーライエもどことなく九龍城と同じ空気感を感じるような・・)

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30年という時を経て、建具やドアノブなど、とてもいい存在感を出している。

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造成地に建つこの家は、本来なら敷地にアプローチする外部の階段の上に建っている。どうしてなんだろうと思っていのだが、鯨井さんは、「この角からの景色がいいから」と説明してくれた。そうなんだよな~。特別な事ではなくごく当り前の事。そんな単純な事を実現するために設計というものが必要なんだな、と改めて思った。

そしてもう1つ、この土地を守る「城門のような意味」があると。
「愛するひとを守る」ため。。。住まいの根源的な意味。
それだけでまいってしまった。
一般的には、特異に感じられる家だけど、その理由を聞けば、なにも特別な事はない。「愛するひとと暮す家」であり「気持よく暮す家」・・・ただそれだけなのだ。

玄関を入ると、コンクリートの階段が黒く塗られ、上部へと続く。脇に棚が作られ本や様々なものが並ぶ。まるで書庫というか蔵の中に入っていくよう。途中から木造の階段が作られ1階と上がる。そして、そこは食卓テーブルが設えられた、大きな窓のある食事室だ(この室名が適当なのかわからないが)。ちょうど敷地の角。そこから向こうの山が広がる景色が飛び込む。今は冬の山の景色だが、四季の変化をまるごとひとりじめしてしまう。まわりの家が建て変わっても、その窓は道路の延長上にほぼ位置する事になるので、景色をみる事は、永遠に保証されている。鯨井さんが「この角からの景色がいいから」となにげなく言った事の意味がよくわかる。「なにげなく」言われるけれど計算されているのだ。

増築部分は階段で2段ほど下がる。でもそれはとても自然だ。そんな事で部屋はつながりながら、程よく場所を転換している。ソファと板を並べたテーブルと暖炉。ある意味、至福の空間。窓からは夕焼けの空を存分に楽しむ事ができ、夕焼けに浮びあがる富士山も手にしている。そしてそこに愛するひとがいる。
それ以上すまいに何を望むものがあるのだろう・・・

実は小さな家なのだけど、多くを語らない鯨井さんの簡単な言葉とは裏腹に、かなり計算されていて、とても小ささなど感じられない家だ。食事室には小さな吹抜けがあり上階の屋根裏の寝室とつながっている。窓は気持いい方向に自然に開けられている。
ちょっと考えられて「とても暮すのが楽しい」とおっしゃられた奥様の言葉は、時間が経った今でも私にはとても印象的に残っている。
当然なのだ。どこも気持いい。どこも「自然」と「時間」と「四季」につながっているのだから・・・同じ事が2度とないのだから・・・

この家には「建築家の作品」などというつまらない言葉は取付く事はできない。自然に気持いい方向に増殖していくような、酵母がプクプク発酵するような、温かく生命力に満ちている場なのだ。

奥様のおいしい手料理と鯨井さんが次々に出してくださるおいしいお酒に少し酔い、調子に乗ってしゃべっている私のそばで、鯨井さんはせっせっとかたづけや料理を運んでくださっていた。恐縮していたのだけど、甘えさせていただいてしまった。鯨井さんご夫婦の人柄とその住まいに心地よく酔ってしまった。

++++
ありがとうございました。

****

鯨井さんの自邸:プーライエについてはとても言い尽くせないので御興味のある方はこちらの雑誌を。

『住む。』2006#17

でも、残念ながら写真では感じられないのです・・

コメント一覧

しだ
tecoさん、はじめまして!
私も「それ」読みました。この前伺った時には知らなかった事が書いてありました。
奥深い家です。。。
「家」っていう表現が、「あの家」の場合、ちょっと違う と思ってます。
ほんとに 鳥の巣 みたいなんです!
teco
はじめまして、テコと申します。
http://blog.goo.ne.jp/urateco/
リビングデザインセンター発行の「LIVING DESIGN」最新号でプーライエを知りました。
勝手ながらブログにリンクさせていただきました。
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