ゆるい空気ときどき重い空気のち晴れてくれ

親父の見舞いに行く度、気分が上がったり下がったり。
意識が戻ったときには歓喜したけど
後遺症のあまりの大きさに家族の言葉も減る。
手術が成功すると信じてたのに気がつけば
体が全く動かないなんて本人の気持ちはいかほどか。

こういう患者には心のケアが必要。
病院では体のリハビリばかりでそこが不十分。
オヤジは無言で良く涙を流すようになった。
言葉で意思が伝えられないので
どうしてもまわりはモノ扱いする。
言葉を発せず体が動かない患者に
どっか痛いところはないですかー？って質問しても
どう答えるのさ？？？？
答えを聞こうという姿勢が始めから無いじゃないか。

本人にはそれが耐えられないようにオレからは見える。
入院９０日を過ぎ、病院は追い出しにかかってる。

脳へのダメージが大きくて
どこまが以前のままなのか家族にもわからない。
前日に話したことはもうわからないような。。。
たまにオレを誰だか理解していないようにも見える。

オマエと次にこうやって話せるのはいつやろな
って言ってた親父の言葉を思い出すとせつない。
いつだったか健康なときに神戸の花鳥園へ行って
一緒に過ごしたのだが、結果的に家族が健康で
過ごした最後の外出だったのかもしれない。

親父、退院したら温泉へ行こう。そう話しながら
ベッドで親父の指一本一本、爪を切る。足の指も一本一本。
聞こえてるのかどうか中空を見つめたままの親父。
前日には弟が親父の顔のヒゲを剃って帰ったそうだ。

『わしよりち』
親父、オレたちに何を伝えたいんだ？