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(…がむしゃらに 打ってきた……。)
サムライは 途方にくれた。
なぜなら、戦い方を 知っている武士となら 誰とでも充分 戦えたが、この男は 何も知らず、めくらめっぽう 何でもやってくるからだ。
下男に 壁まで追い詰められて、主人は 命乞いをせざるをえなくなった。
「私を殺すつもりか。
どうか 許してくれ。」
「おまえは 戦い方を知らない はずなのにーーー何を やっているんだ?」
下男は言った。
「そんなことは どうでもいい。
これが俺の最後になるなら、ただ がむしゃらに やるだけだ」
下男が 勝利をおさめた。
そして、武士も 禅師のもとへ行き、こう尋ねた。
「どんな奇跡を 行われたのですか?
たった 一刻で、あいつは あんなに腕の立つ武士に なってしまいました。
無茶苦茶に剣を 振りまわすので、私は 殺されるところでした。
何ひとつ知らない男に 危うく殺されそうになったのです。
家の壁に 押しつけられて、剣を胸に 突きつけられました。
私は許しを 乞うて、おまえが何をしようと いっさい問題はない、それを続けるがいいと言わざるをえませんでした」
禅師は 言った。
「おまえは 教訓を学ばねばならない。
とどのつまりは 全一性、純一無雑さだ……結果が 敗北であろうが 勝利であろうが 大したことではない。
肝心なのは、あの男が 半身でなかった ということだ。
全身全霊を かたむける人間は けっして負けることがない。
その全一さ こそが、彼の 勝利だ」
迎山が 言っていることが それだーーー
【「勝つときには無心に勝ち、負けるときには無心に負ける」】
「私が勝利者だ」という自惚れは 微塵もないーーー勝利をおさめるのは、つねに 条件づけのない意識だ。
(つづく)