順番は前後しますね、こちらを掲載し忘れていました。
●「地球温暖化説はSF小説だった」広瀬隆P.47
「原子力産業がCO2温暖化説を企んだ歴史的事実」より引用
「1976年に、GE社の優秀なトップエンジニア3人が…反原発運動をスタートした」「3人の行動が全米に反原発運動の流れを生み出したので、アメリカ政府の原子力委員会AEC傘下のオークリッジ国立研究所の元所長アルヴィン・ワインバーグが、原発推進にとって起死回生の策を探し始めた。ちょうど同年、スクリップス海洋研究所のキーリングが、ハワイ等においてCO2が大気中に増えている測定値を発表したので、ワインバーグがこれに飛びつき、地球の気候変動の要因のうち複雑すぎて科学的に計算できるはずがない温暖化現象だけを取り出して誇大に喧伝すれば原子力の危険性を忘れさせることが可能だと気づいて原発推進に利用し始めたのがことの起源であった。」
読み物としては面白いっちゃあ面白いですが、実際にはどうだったのか?みてみましょう。
・キーリングがCO2の測定を開始したのはしかし、国際地球観測年IGY(1958年)の時です。南極の基地と、ハワイ島のマウナロア火山の山頂に観測機器を設置して始めたものが、現在までほぼ切れ目なく続いていることになります。
最初の論文は、「1960年、南極のデータまる二年分を手にしたキーリングは、CO2の基線レベルが上昇していることを報告した。」とあります。(本「温暖化の〈発見〉とは何か」P.50より。)
そのキーリングの最初の論文による報告から16年経って、ワインバーグが飛び付いた?というのは時代がずれてませんか?
Wikipediaより引用
"ワインバーグは1973年、ニクソン政権によって18年間所長を務めたORNLを解雇された。その理由は、ワインバーグが、原子力の安全性の向上と、溶融塩炉(MSR)を提唱し続けたからである。政権は、AECのミルトン・ショー原子炉部長が開発を任された液体金属高速増殖炉(LMFBR)を選択した。ワインバーグが解雇されたことで、他の原子力研究所や専門家にはほとんど知られていなかったMSRの開発は事実上ストップした[39]。
ワインバーグは、1974年にワシントンD.C.にあるエネルギー研究開発局の局長に就任した。翌年には、オークリッジ提携大学群(英語版)(ORAU)にエネルギー分析研究所を設立し、初代所長に就任した。この研究所は、将来のエネルギー需要を満たすための代替案を評価することを目的としていた。1976年から1984年まで、エネルギー分析研究所は、二酸化炭素と地球温暖化に関連するさまざまな問題を研究する拠点となっていた[42]。ワインバーグは、ORAUを1985年に退職して、ORAUの特別研究員になった[21]。
…
1977年6月、ワインバーグはアメリカ合衆国議会の環境・大気小委員会の公聴会で、二酸化炭素の排出量増加が地球の平均気温に与える影響について証言した。ワインバーグは、一部の科学者が予測しているように、2025年までに世界の二酸化炭素排出量が2倍になった場合、世界の平均気温は2度上昇すると述べた[44]。"引用ここまで。
1977年にアルヴィン・ワインバーグが議会で二酸化炭素の温室効果とについて証言したとのことですが、その前に、CO2の温室効果については各種の報告で専門家同士の間で理論の正統化が行われていた、とするのが妥当でしょう。
何より、証言した「一部の科学者が予測している(Wikipedia)」という内容としては、真鍋淑郎氏の1967年のモデル化と真鍋&ウェザラルドらによる70〜75年までのGCMの開発とそれによる予測があげられます。
NASAのジェームズ・ハンセンらのチームでも別途、GCMを開発していて、
「さらに権威ある回答を得るため大統領の顧問は米国科学アカデミーにGCMが信頼できるかどうかを検討するよう依頼した。…
チャーニーの(評価)パネルは次の世紀に地球が約3度± 50%つまり1.5度から4.5度位暖かくなるというかなりの確信があると断言した。」
(本「温暖化の〈発見〉とは何か」P.143〜147より。)
つまり広瀬氏の元文「地球の気候変動の要因のうち複雑すぎて科学的に計算できるはずがない温暖化現象だけを取り出して誇大に喧伝すれば、」うんぬんというところは、実はすでにその時期には初期の複数モデルによるシミュレーションが相対比較、評価できるレベルまで仕上がっていることを広瀬氏が認識していない?あるいは隠している記述になっているわけです。
米国科学アカデミー、日本で言うなら日本学術会議のような団体が一つの結論を出していたとすれば、ワインバーグがそれを引用して議会で証言に使ったとしても別におかしな「誇大な宣伝」であるとは言えません。時期的には数ヶ月早めに行われた、真鍋らの論文だけを紹介した議会証言であったのかもしれませんが。
ワインバーグが、真鍋らの研究を指摘して温暖化の危機を煽った、とすればよいところを、なぜキーリングのものを、時代を偽ってまで書いたのか?これも疑問です。
「ちょうど同年、スクリップス海洋研究所のキーリングが、ハワイ等においてCO2が大気中に増えている測定値を発表したので、」となっている理由を説明してほしいものです。
その年にもキーリングが関連で何かの発表をしていたものを取り上げているのをたまたま見つけたのかもしれませんが、この時期にワインバーグが議会証言を求められた理由がまさに、観測でも確認され、理論を示すシミュレーションも揃ってきたため、であるのに、その片方だけを恣意的に紹介したのはなんのため?
本「温暖化の〈発見〉とは何か」の著者スペンサー・ワート氏の略歴を転記しておきますと、
”科学史家。アメリカ物理学協会・物理学史センター長。…1971年からは科学史の分野に転向し、カリフォルニア大学バークレー校の歴史学科に籍を移す。1974年から現職。…”
とのこと、1976年頃の出来事については、現職の歴史家として見ていたということになります。
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陰謀論はまず陰謀であることを根拠を上げて主張する必要があるでしょう。
> 清水 寛(「なの花の会」世話人、たんぽぽ舎会員)
>
> なぜ、この本を紹介するかと言えば、著者が語っているように、
>「二酸化炭素による温暖化説」は原発を推進しようとする連中による
>大ウソであり、テレビと新聞の報道界にウソであることを知って
>もらい、ニュースに接する普通の人に本当のことを報道し、放射能汚染
>の危険性がある原発を止めてもらいたいからである。
[zenkokunet:02434] Re: [zenkokunet:02433] 科学とは何か
で前回、この「地球温暖化説はSF小説だった」広瀬隆著の小冊子のP.47「原子力産業がCO2温暖化説を企んだ歴史的事実」を紹介しましたが、
さて、この部分をお読みいただいて、上記の清水さんが言うように「「二酸化炭素による温暖化説」は原発を推進しようとする連中による大ウソ」であることの証明になる文言だ、と納得された方はいますでしょうか?
ここだけじゃないはず、と思って、批判のために他のページから探そうとしても、「原発を推進しようという」連中による陰謀であることを深掘りする言説を書いた箇所は見当たりませんでした。清水さんは広瀬氏の「語っている」言葉がそうだからそうだと認識しているわけですね。
改めて広瀬氏の以前の本「二酸化炭素温暖化説の崩壊」(2010年7月、集英社新書0552A)も読み直してみましたが、こちら12年前の本の中で「原子力産業の」陰謀について根拠を探して行われた調査の成果と言えるものはひとつもなかったです。ひとつも、ですよ。
気候学者がデータを改ざんしている、それは原発推進の意向に沿っているのだ、という論を2010年の時期から広瀬氏が流していたわけですが、今回2020年の本で初めて、出された証拠らしきものが、このSF小説本の47ページのうちの1ページだけだったわけです。
よもや広瀬氏が調べる能力がないわけではないでしょう。羊頭狗肉なのかそもそも関心がないのか、広瀬氏が根拠を示さずに陰謀論をでっち上げた動機は、温暖化論を嘘だ、と思う読者を増やすことが反原発の意思を強めるからでしょう、動機はそれで充分ですね。
問題は、Tell the Truthに反することをやってまで、それは勝ち得る意味のある勝利なのかどうか、だと考えます。
比較のためにもうひとつの陰謀論を以前紹介しました。
[zenkokunet:02432] Fwd: ナオミ・オレスケス: 科学者を信頼すべき理由
つまり、石油会社などが温暖化懐疑論を意図して振りまいている、という陰謀論については調査報道による証拠が山ほど上がっています、石油会社にとっての動機については云うに及ばず。
英国の左派系ガーディアン紙の石油会社の陰謀についての紹介記事をこの記事に続いて転載しておきます。(転載部分は略)この中には、広瀬氏が本の中で紹介しているフレデリック・ザイツの科学者ニセ署名の話なども出てきます。
欧米では事実として認識され始めているこちらの「石油会社による陰謀」論と広瀬氏の「原子力推進派による」陰謀論と、どっちが説得力があるのか?という評価を本来はすべきなんです。
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