「いむれ内科クリニック」の院長の山本景三です。前の記事の続きです。
病原体が変化して抗菌薬が効かなくなることをAntimicrobial Resistance; AMRと言います。わが国では2016年4月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が閣議決定されたと書きましたが、これを読むと恐るべきことがさらっと書いてあります。
- 2020年の人口千人あたりの一日抗菌薬使用量を2013年の水準の3分の2に減少させる。
- 2020年の経口セファロスポリン系薬、フルオロキノロン系薬、マクロライド系薬の人口千人あたりの一日使用量を2013年の水準から50%削減する。
- 2020年の人口千人あたりの一日静注抗菌薬使用量を2013年の水準から20%削減する。
要するに現在使用されている全抗菌薬の3分の1は不適切な使用で、経口抗菌薬(飲み薬)に至っては半分が不適切な処方と言っているわけです。まさに製薬メーカーにとって恐るべきことです(笑)。
ちなみに問題とされている経口セファロスポリン系抗菌薬(第3世代)には次のような薬があります。
- セフジニル(商品名: セフゾンなど)
- セフカペン(商品名: フロモックスなど)
- セフジトレン(商品名: メイアクトなど)
- セフポドキシム(商品名: バナンなど)
- セフテラム(商品名: トミロンなど)
病院で風邪薬と一緒に処方されて見たことがある方が多いのではないでしょうか? これらの薬は海外ではあまり販売されていません。服用しても吸収が悪いものが多く、そのまま便の中に出る割合が多いのです。そう、「だいたいウンコになる」薬たちなのです。これを感染症業界ではDUと言います。私が言い始めたのではなくて、超専門家のとても偉い先生が言っています。
誤解の無いように言いますが、これらの薬は全く役に立たないわけでは決してありません。ある細菌感染症に対して最適な抗菌薬がアレルギーなどの理由で使えないときに、ピンチヒッターとして使うこともあります。当院でもセフジトレンは採用しています。
感冒は抗菌薬を服用しなくても自然に治る病気です。「感冒になったときに、医者から抗菌薬をもらったので良くなった」という過去の成功体験は捨てましょう。良くなったのは抗菌薬が効いたためではありません。それは良くなる時期が来たためです。抗菌薬は飲んでも飲まなくても自然に治ったのです。
この記事を読んだからといって、必要な薬を自己判断で中止するのはいけません! 用法用量どおり飲みきってくださるようお願いいたします。でも風邪薬と一緒に抗菌薬が処方されたら、「風邪に抗菌薬って効くんですか?」と担当の先生に尋ねるくらいはいいと思いますよ。