修学旅行の悪魔

中学校の、修学旅行での事だった。
大広間で、夕食を終えた時の事。

男性教師の声が広がった。


「おーい、このパンツ、誰のだ？」



紺色のジャージ姿に無精髭の、
キツネ目の男性教師の手につままれていたのは
透明なビニール袋に包まれた
男子もののブリーフ型のパンツだった。


・・どうやら、食事前の入浴時間に
誰か脱衣場に忘れて行ったらしい。


遠目から見ると、そこに
深緑のロゴが入っているところから、
ブランドはグンゼと思われる。


それは遠目からみてもはっきりと、きれいな状態ではなかった。
食事時に閲覧されている方の心情をふまえ、
具体的な描写は避けるが。


凍り付く空気ともに、こだまする笑い声。
女子→ドン引き。男子→うすら笑い。
そんな構図だろうか。

・・考えても見て欲しい。

楽しい修学旅行の場で、
学年全員が見ている場で、
自分のパンツが、面前にさらされる恥辱を。
きっと恋心を寄せている女の子もいるのかもしれない。

しかも男子中学生といえば
ブリーフを嫌がってトランクスに移行する
第二次成長期の大事な過程である。




こんな状況で、

「はーい、ボクのです！」






・・なんて名乗り出れる勇気があるならば、
今頃は内閣総理大臣か一流芸人になっているだろう。


きっと今その持ち主は真っ青か、
真っ赤な顔のどちらかのはずだ。

赤鬼、or 青鬼。
こっそりと、あたりを見回してみた。

するとどうだろう、
皆もあたりを見回して、犯人探しをしているではないか。
さながら、静かな魔女狩りを行うかのようだ。

「君たち、人殺しの顔を見たくはないのか」とは
某写真週刊誌の編集長・斎藤十一の言葉だ。
見てはいけないと思いつつも、誰だか知りたい。見てみたい。
興味本位として誰にでもある心情だろう。


「おぃ、だれのだ？」

この先生は明らかに、この状況を楽しんでいる。
怒っているふりをして、
心の中では嘲笑しているのだ。

回りの先生たちも苦笑している。
この行為を、止める事すら思いつかなかったのだろうか。





たった一回の忘れ物をしたA君は、
この日の恥辱を一生背負って
生きて行かなければならないのだ。

・・そんなすらも、想像できないのだろうか？


こんな大人にはなりたくない。

こんな大人たちにはなりたくない。

きっと今、その男性教師の手につままれているのは
落とし物なんかじゃない。
この男性教師、そのものの姿だ。


そう思った。



・・あらかじめいっておくが、
実はこのパンツの持ち主は私だった、
という衝撃的なオチは決してないので
そこのところはご理解いただきたい。

そんな事を記すと
余計誤解されるかもしれないが。

記事としては、そっちの方が面白いに決まっているが。

事実をねじ曲げてまでも面白さを虚飾するほどの懐の深さは、
残念ながらまだ持ち合わせていない。



もしも、このブログをたまたま目にした当時の該当者の貴方は、
フジテレビ系列「ごきげんよう」のサイコロトークのノリで
「情けない話　略して・ナサバナ」として自己申告して欲しい。



・・そう、今ならば、過ぎ去った若かりし日の笑い話なのだから。


※トップの写真は「おやぢとオヤ美の台湾探訪記」より。本文とは関係ありません

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