一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

植田日銀総裁は円安誘発の地雷踏まず、次回会合は「無風」と断定できない理由

2025-03-19 17:22:30 | 経済

 日銀の植田和男総裁が19日に行った会見では、トランプ関税に代表される海外発の不確実性の高さに言及したものの、それによって次の利上げ時期がかなり先送りされると受け取られる発言はなく、ドル/円は会見スタート時の149円後半から終了時に149円前半へとドル安・円高方向に動いた。

 それだけでなく、4月初めには米通商政策の内容がある程度判明し、それを次の金融政策決定会合や「展望リポート」の中で消化できるとの見解を示すとともに、すでに妥結している春闘の結果は「やや強め」との認識を示した。筆者は、こうした点を踏まえて4月30日ー5月1日に開催される次回の決定会合が「無風」と決めつけることはできないと指摘したい。

 

 <円安誘発のアルゴリズム発動せず、植田総裁の巧みなステップ>

 複数の市場関係者によると、海外勢を中心とした投機筋は、トランプ関税の実施による不透明感を増大を背景に、日銀の利上げがかなり先送りされるような発言が植田総裁から出れば、直ちにドル買い・円売りを仕掛ける構えを取っていたという。

 だが、外為市場でドル買い・円売りを誘発するアルゴリズムが発動するような「慎重に見極める」「時間的な余裕」などの単語を植田総裁は巧みに避けたように見えた。筆者から見ると、植田総裁は華麗なステップを踏んで投機筋の仕掛けた「地雷」を避け通して会見を終了したと映った。

 

 <トランプ関税の影響、4月初めにある程度「わかる部分も」>

 この日の会見では、多くの関心を集めた「次の利上げ時期」に関しても、中銀総裁らしく煙幕を張りながら、いくつかのヒントも与えていた。

 そのうちの1つが、トランプ関税を中心とした米通商政策を要因とした不確実性を見極める期間についてだ。関税を起点にした経済への影響を総合してみると、見極めの時期は「かなり先になる」と指摘しつつ、政策がどう動くかは「ある程度、早めにわかる部分もある」と指摘した。

 また、別の質問に対し、米通商政策の中味に関して「4月初めにはある程度、出てくるかもしれない」と発言。次回の政策決定会合や展望リポートの中で消化できる可能性について言及した。

 

 <春闘はやや強め、一部の委員は「物価上振れ」に言及>

 その一方、今年の春闘における連合の1次集計の結果は「やや強め」であると表現。今後の中小への波及を注視していくとしたが、いつまでも見守っていくのかどうかについては「程度問題」との表現で、どこかの段階で判断を下すスタンスも示した。

 この日の決定会合で一部の委員から物価の上振れリスクを「注視したい」という発言があったことにも触れて次回会合以降、そうしたことも意識しながら金融政策について「的確に判断していきたい」と述べた。

 

 <昨年8月の世界的な市場動揺、「現在はそのような状況にない」>

 昨年8月に世界的な市場の動揺が顕在化し、その際に金融政策を判断するための「時間的な余裕がある」と発言したことに関しても「現在はそのような状況にない」と述べ、足元の市場変動が利上げ判断を大幅に先送りする要因でないことも説明した。

 このように見てくると、次回の決定会合が「無風」と決めつけるような材料はこの日の会見で出なかったとみるのが合理的ではないかと考える。

 

 <米財務長官の発言に隠された狙いは何か>

 トランプ米大統領が円安を批判したことに対し、植田総裁は「ノーコメント」を貫いた。だが、日本政府が強く懸念する自動車への関税賦課を含めたトランプ関税の実施スタンスには、円安問題が絡んできそうな状況となっている。

 ベッセント米財務長官は18日のFOXビジネス・ネットワークのインタビューで、貿易相手国が非関税障壁や通貨操作、不当な補助金提供などをやめれば、関税の壁を作らないと言うつもりだとの見解を示した。ドル/円における「円安問題」が日米間の大きな争点に浮上するなら、筆者は日銀がその影響を全く受けないと考えるのは難しいと予測する。

 次回会合までに、トランプ関税の内容がどのように固まり、為替や株価、企業や家計の心理がどのように変化しているのか──。複雑な変数が絡まりあう中で、日銀から発信される情報に内外の市場参加者の注目が集まるのは確実だと言えるだろう。

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少数与党の皮肉、当面は石破首相続投のパワーバランス 参院選後は大政局の可能性

2025-03-18 13:22:06 | 政治

 国内報道各社の世論調査で、石破茂首相の支持率が大幅に低下している現象をみて、東京市場の参加者の一部で石破首相の早期退陣と、高市早苗前経済安全保障担当相などの積極財政派の首相就任の可能性を予想する声が出ているようだ。だが、自民党と公明党が少数与党に転落している現状では、自民党総裁を交代させて自動的に首相に就任させるという「多数派」時代の慣性の法則は通用しない。

 また、臨時の総裁選実施のためには、所属国会議員と都道府県連の代表を合わせた数の過半数の要求が必要になるが、今の時点でそこまでの票は固まっていないもようだ。筆者は今年7月とみられる参院選の結果、自民、公明の連立与党で非改選も含めて過半数を割り込む結果にならなければ、石破首相が退陣することはないと予想する。それでは、参院選はどうなるのか。比例では自民党が大幅に議席を減らしそうだが、選挙区では1人区での野党の候補者調整が進まずに自民党が「不人気」ながら辛勝する選挙区が多くなれば、過半数割れを回避できるかもしれない。参院選の帰すうは、野党の選挙調整にかかっていると言えそうだ。

 

 <商品券で支持率低下、一部に早期退陣の思惑>

 17日付読売新聞朝刊は、石破内閣の支持率が前回調査(2月実施)から8ポイント下がり、昨年10月の内閣発足以来、最低の31%に低下したと伝えた。自民党の当選1回の衆院議員15人にそれぞれ10万円の商品券を配布した問題が厳しい評価を受けたと分析していた。

 朝日新聞の調査でも14ポイント低下の26%まで下がり、毎日新聞の調査では7ポイント低下の23%に下落した。

 このため、一部の国内メディアは1)2025年度予算案の成立後の4月上旬、2)6月15-17日にカナダで開催される主要国首脳会議(G7サミット)後、3)通常国会会期末の6月22日の直前──などが石破首相の退陣の時期の候補になりうるという記事を掲載した。

 

 <早期の自民党総裁選に高いハードル>

 このような見方が浮上する背景には、不人気の石破首相のまま、7月の参院選に突入すれば、大敗して参院でも連立与党が過半数割れに陥るという危機感が、自民党内に広がりつつあるからだ。

 だが、参院選前の石破首相の退陣と新首相の選出には、いくつかのクリアすべきポイントが存在する。

 まず、円滑な首相交代には、石破首相の辞任表明が必要になるが、筆者の見るところ、石破首相に辞任の意思は全くないのではないか。ようやく手にした自民党総裁と首相の座をやすやすと手放さない、という決意は商品券問題で陳謝しつつも、法的に問題はないと突っぱねているところに鮮明に出ている、と指摘したい。

 石破氏が首相辞任の意思を持たない場合、自民党総裁選を臨時に行うには「党所属の国会議員及び都道府県支部連合会代表各一名の総数の過半数の要求があった時は、総裁が任期中に欠けた場合の総裁を公選する選挙の例により、総裁の選挙を行う」(自民党党則6条4項)との要件を満たす必要がある。

 衆参両院と都道府県連の議員の総数の過半数が早期の総裁選実施を求めるまで、足元の自民党内で「石破辞任」の声が盛り上がっているとは言えない。

 実際、朝日新聞の世論調査によると、商品券の配布問題で石破首相は「辞めるべきだ」が32%だったのに対し、「その必要はない」が60%だった。世論は商品券問題に厳しい反応を示しているものの、この問題が「首相辞任」に直結するわけではない、とみているようだ。

 

 <内閣不信任案の提出に慎重な野田氏、衆院解散への警戒も>

 このような情勢の下で、参院選前の石破首相の辞任のカギを握っているのが、野党から提出される可能性のある内閣不信任案の動向だ。これは衆院にだけ許されている権能で、可決されれば首相は衆院解散か総辞職を10日以内に決断しなくてはならない。

 ただ、野党第1党・立憲民主党の野田佳彦代表は16日、商品券の配布問題で「徹底して説明を求める。内閣不信任決議案提出や退陣を求める声があるが、私は簡単に求めない」と述べた。背景には、石破首相の下で与党が参院選を戦った方が、野党としては「与しやすい」との思惑があるとの解説が永田町では出ていたようだ。

 確かにその点も重要だが、もし、石破首相が衆院を解散した場合、衆院選における小選挙区での野党間の候補者調整が全く行われていない現状で、衆院選を戦うのは「不利」との情勢判断が働いたのではないか、と筆者は推理する。

 したがって予算案成立直後やサミット終了後のタイミングでの内閣不信任案の提出の可能性は低く、そこまでは石破政権が継続している可能性があると予想する。

 

 <会期末に支持率低下なら不信任案の可決も、石破首相は解散と総辞職のどちらを選択するのか>

 問題は通常国会の会期末における情勢だ。衆院選の候補者調整が進んでいなくても、石破内閣の支持率がかつての森喜朗内閣のように10%を切るまでに下落しているようなら、内閣不信任案を提出し、野党の賛成多数で可決し、衆院解散か総辞職か、という場面があるかもしれない。

 その場合は、自民党内の石破降ろしが本格化し、石破首相が参院選を前に総辞職を決断。総裁選で新総裁を選ぶことになるが、ここで衆院での与党過半数割れが大きく作用する。野党の一部の賛成か、野党の分裂を待たないと、新内閣は発足できないことになり、政局は大混乱する可能性が高まる。

 一方、石破内閣の支持率がサミット出席などで回復し、内閣不信任案の提出があっても、野党の一部が反対ないし棄権に回って否決され、そのまま7月の参院選になだれ込むというケースも想定される。

 

 <自公の人気低迷、参院選で過半数維持は可能なのか>

 7月の参院選を前に、自民、公明の与党は非改選で74議席を有しており、改選124議席と東京選挙区の1議席(任期3年)を含めた125議席のうち、51議席を確保すれば、参院全体の過半数125議席を有することができる。与党の改選議席は66議席なので15議席負けても過半数を確保できる計算となる。

 ところが、直近の国内メディアの世論調査では、自民党の人気が低下しており、比例区での議席減が心配されている。先の読売の調査によると、参院選・比例区での投票先は自民が25%、国民民主が17%、立憲民主が11%、日本維新の会が6%、れいわ新選組が5%、公明が4%、共産が3%などとなった。

 国民民主とれいわの伸長が目立ち、自民、公明の連立与党は比例で19議席、7議席の現有勢力を維持するのが難しい情勢に直面している。

 選挙区での野党間の候補者調整が進ちょくしていないものの、比例で与党が大幅に議席を減らすようなら、過半数維持の目標達成が危うくなりそうだ。

 もし、トータルで与党が125議席を割り込めば、衆参ともに少数会派となり、政権の枠組み自体が大幅に変更される展開もありうる。

 他方、125議席以上を確保できれば、石破首相は続投する公算が大きく、石破政権として与党の枠組みが変更される可能性も出てくる。

 いずれにしても、参院選前とは一変して、参院選後は大政局が待ち構えていると覚悟した方がよいと指摘したい。

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19日の日米中銀イベント、ドル/円の分かれ道 植田総裁の発言次第で円安進展も

2025-03-17 11:08:44 | 経済

 19日の日銀金融政策決定会合の結果発表を前に、ドル/円の動向に市場関係者の注目が集まっている。市場予想や事前報道通りに政策維持が決まれば、通貨先物市場での円買いポジションが過去最大の規模に膨れ上がっており、ドル高・円安が急速に進むとの観測が広がっている。

 その一方で、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が19日の会見で利下げに慎重な姿勢を見せれば、米株が下落基調となってドル高から一転してドル安が進み、対円で円高になるとの予想も浮上。複数の市場関係者は、19日の金融政策決定会合後の植田和男・日銀総裁の会見での発言内容やトーンがドル/円の当面の方向感を決めると述べている。

 

 <IММ通貨先物で過去最大の円買い持ちポジション>

 17日の東京市場では、ドル/円が一時、149円台に上昇。日経平均株価も前週末比343円42銭(0.93%)高の3万7396円52銭と続伸した。米上院で14日に9月までのつなぎ予算案が可決され、15日にトランプ米大統領が署名して政府閉鎖が回避されて、リスクオフ心理が後退。トランプ大統領が16日にロシアのプーチン大統領と18日にウクライナとの戦争を終結させるための電話会談を行うと発言し、リスクオンへ向けた市場心理の好転がドル買いを促したようだ。

 19日には日銀金融政策決定会合と米連邦公開市場委員会(FOMC)で、金融政策をめぐる議論の結果が公表される。日米の金融政策イベントの結果については、メディアと市場関係者の見通しともに日米で「政策維持」との見方で固まっている。

 そこで注目されているのが、シカゴ・マーカンタイル取引所(CМE)のIММ通貨先物における円ロング(買い持ち)の大きさだ。11日現在で13万3902枚と過去最大の規模となっている。もし、日銀の政策維持の決定とその後の植田総裁の会見を経て、投機筋がこのポジションの多くを手仕舞うことにした場合、少なく見積もっても2-3円の規模でドル高・円安が進行する可能性がある、との見方が市場で台頭している。

 

 <トランプ関税の不透明性、植田総裁が強調なら円安進展か>

 筆者は、円安進行が急進展するかどうかは、植田総裁とパウエル議長という日米中銀の二人のトップの発言がカギを握っていると考える。

 まず、植田総裁の会見だが、国内における昨年を上回る春闘での賃上げ結果や食料品を中心とした消費者物価指数(CPI)の上昇テンポなど利上げを検討するべき要素と、トランプ関税に代表されるトランプ大統領の経済政策に起因した不確実性の高まりが交錯していると説明するのではないか、と予想する。

 そこで、不確実性の見極めに力点を置き、次の利上げ時期が次回会合になる可能性だけでなく、いつになるのか不透明だというニュアンスを強めて情報発信すれば、会見中に円安が目立って進展すると予想する。

 

 <「適切な」時期の利上げ、強調なら円高方向も>

 一方、実質金利で見て大幅なマイナスになっている政策金利を「適切な」時期に修正していく方針を強調し、従来の半年に1回のペースから前倒しの可能性があると市場が受け止めるような発言になれば、通貨先物市場における円買いポジションの大幅な巻き戻しは発生せず、会見前の水準が149円台であれば、148円台へと円高方向に動く展開も予想される。

 大方の市場参加者は、従来からのスタンスを維持しつつ、次の利上げ時期に関して「ノーヒント」を貫き、次回の4月30日・5月1日かもしれないし、6月ないし7月会合かもしれない、という市場の思惑を生みやすい発言に終始するとの見方をしているようだ。筆者は、このケースでは小幅に円安が進むと予想している。

 

 <利下げ急ぐ必要なし、パウエル議長が強調なら米株安から円高>

 その後に結果が判明するFOMCと直後の会見で、パウエル議長が今後の利下げでどのような発言をするかによって、さらにドル/円は大きな変動を強いられるかもしれない。

 パウエル議長は今月7日、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスが主催したイベントで「不確実性の高まりにもかかわらず、米経済は良好な状態が続いている」「われわれは急ぐ必要はなく、状況がより明確になるのを待てる良い状況にある」と発言。当時のマーケットはこれを米経済への自信と捉え、米株高で反応した。

 だが、足元における市場心理は、トランプ大統領による関税政策の急進性と猫の目のように変わる政策内容に強い懸念を示し、トランプ氏の経済政策は「マーケットへの逆風」というイメージを固めつつある。

 したがって年内に2.5回分の利下げを織り込んでいる足元の市場に対し、7日と同じトーンで発言すれば、市場は失望感を募らせて米株がかなり下落する可能性が出てくる。

 その場合は、外為市場でドル売り・円買いとして機能し、パウエル会見後にドル安・円高が進行している可能性がある。

 

 <パウエル・プットで円安進展、トランプ大統領のけん制発言も>

 ただ、マーケット心理の足元での変化をパウエル議長が認識し、米株を支えるような「パウエル・プット」的発言が飛び出せば、ドル高・円安が進みやすくなると予想する。先に提示した植田総裁のハト派的な発言で円安が進んでいるケースと、このパウエル・プットが合致すれば、円安の進展は「大幅」と市場が認識するほどに大きくなっていることも予想される。

 同時にこのケースでは、トランプ大統領から円安をやり玉に挙げる発言が出たり、日本のマクロ政策に対しいていきなり批判を浴びせるような「不規則な」展開が待ち受けているかもしれない。

 

 東京の市場参加者にとって大きなリスクなのは、上記で示したような組み合わせ次第で、ドル/円が円高方向にも円安方向にも振れやすくなっているにもかかわらず、翌20日が祝日で東京市場が休場であることだ。東京時間で19日正午過ぎから20日未明にかけて、多くの市場参加者にとっての「長い1日」が待ち受けている。

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お知らせ:3月16日まで休信します

2025-03-13 03:48:09 | 経済

 都合により3月16日まで休信します。

 よろしくお願い申し上げます。

 田巻

 

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前年上回りそうな今年の春闘、物価高で実質賃金マイナスは継続か 参院選は与党に逆風

2025-03-12 15:15:24 | 経済

 電機や自動車など大手企業が労組の賃上げ要求に回答する「集中回答日」を迎えた12日、トヨタ自動車や日立製作所などが要求通りの満額回答を提示し、多くの企業で前年を上回る回答となった。深刻な人手不足を背景に春闘全体の賃上げ率が2024年の5.1%を上回る可能性が出てきたが、前年も毎月勤労統計のベースに引き直せば3.1%の賃上げ率となり、足元の4.7%の物価上昇(帰属家賃を除く消費者物価総合)に追いついていない。

 また、賃上げとは無縁な年金受給者が総人口の30%を超え、マクロスライドの適用を受けて年金の受け取り額が物価上昇率を下回ることが継続しており、日本の個人消費は25年も力強く回復する道が見えていない。このままの情勢が続くならば、今年7月の参院選では「物価高」が争点となって自民党、公明党の与党が苦戦することになると予想する。

 

 <目立った満額回答、三菱ケミカルは要求額上回る>

 主要企業のうち、トヨタ、日立、NEC、三菱重工業、イオンリテールが満額回答となった。三菱ケミカルは要求額の1万5346円を上回る1万8415円を回答、優秀な人材の確保へ先手を打つ経営方針が目立った。

 一方、経営不振の日産自動車は1万8000円の要求に対して1万6500円を回答。日本製鉄も1万5000円の要求に対して1万2000円にとどまった。

 連合の集計では、2024年の春闘で5.1%と33年ぶりに5%を上回る賃上げを獲得した。今年はそれを上回る可能性が出てきている。

 

 <それでも実質賃金がマイナスになる可能性>

 だが、常用雇用者5人以上を対象にした毎月勤労統計のベースに引き直すと、現実の賃上げ率は大幅に圧縮される。ボーナスの影響をあまり受けない今年1月の毎勤統計における所定内給与は前年比プラス3.1%だった。

 もし、今年の春闘での賃上げ率が5.2%から5.5%の間で決着するなら、毎勤統計における所定内給与は前年比プラス3%前半で落ち着く可能性がある。

 足元で4.7%の物価上昇(帰属家賃を除く消費者物価総合)がやや落ち着いたとしても、4%前半で推移するなら、実質賃金は今年の春闘の結果が反映されても、しばらくマイナスが続くことになる。

 

 <力強さに欠ける個人消費>

 実質賃金のマイナスは、個人消費に力強い回復をもたらさない大きな原因となっている。総務省が11日に発表した今年1月の家計調査では、2人以上の世帯が消費に使った金額は30万5521円と前年比プラス0.8%の小幅増にとどまっている。

 日銀が算出している消費活動指数(旅行収支調整済み)も昨年12月が前月比マイナス0.7%、今年1月が同マイナス1.3%と”失速”状態となっている。

 

 <総人口の3割占める年金受給者、消費抑制の大きな要因に>

 33年ぶりの賃上げ率が消費拡大に結びつかない理由として、物価高とともに重視するべき点が年金受給者の割合の増加と年金受給額の抑制方針だ。

 2023年度の年金受給者は3978万人に達し、総人口の31.9%を占めている。この多くが春闘の賃上げとは「別世界」で生活している。さらに年金受給額は、物価や賃上げ率を下回るように設計された「マクロスライド」というシステムによって抑制されており、2025年4月からの年金受給額はプラス1.9%と物価上昇率や賃上げ率から大幅に下方かい離した伸び率に抑えられている。

 こうして65歳以上の高齢者の消費は、自動的に抑制されるようになってしまったが、総人口の3割を超えるシェアとなった今、そのインパクトは従来と比べて格段に大きくなっている。

 

 <消費拡大に食料品の軽減税率検討すべき、トランプ関税後の外需打撃に備えを>

 ところが、政府・与党やエコノミストの多くは、この年金受給者の割合の増大と消費の低迷の因果関係について、大きな注意を払ってこなかった。実際、この3年間、賃上げ率が高まってきたにもかかわらず、消費の伸びが賃上げ率に見合って強くならないことに対する精緻な分析が行われてきたとは言えないのが実態だ。

 筆者は、賃上げの恩恵がほとんどない年金受給者の消費を盛り上げる手立ては、食料品にかかる消費税を軽減するしかないと指摘したい。一気にゼロ%にすると財源が手当てできないというなら、現行8%の税率を5%に引き下げることを検討するべきだ。

 なぜ、消費の落ち込みを放置できないかと言えば、トランプ関税の大きなインパクトが世界貿易をシュリンクさせ、いずれ外需頼みの国内景気振興策は行き詰まりを見せると予想しているからだ。

 今のままの「5%の賃上げ」の実施だけでは、足元の物価上昇分さえ吸収できず、消費を拡大させることは「夢物語」に終わってしまうだろう。

 

 <物価高に無策の政府・与党、参院選は比例で大幅減の危機>

 筆者は、政府・与党が食料品の軽減税率について、本格的に検討を迫られる政治的な要因があると指摘したい。それは今年7月の参院選を前に、与党劣勢の「下馬評」が早くも流布されていることに典型的に示されている。つまり、多くの有権者は「物価高」を招いている政府・与党に強い不満を抱いており、参院選で与党に入れる投票行動が大幅な下方圧力にさらされているということだ。

 物価高で節約を強いられている高齢者は、過去のデータで見れば投票率が高い。この高齢者が物価高の不満を野党への投票で示せば、次の参院選は大幅な地殻変動が現実化すると予測する。特に比例代表選で自民党と公明党は大幅な得票減に直面するリスクが高まっていると主張したい。

 

 今年の春闘が昨年を上回る賃上げ率になったとしても、CPI総合が4%で推移するなら、節約ムードを背景にした消費の低迷と参院選での与党敗北が待ち受けていると予測する。

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