一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

小池3選と都議補選での自民惨敗、岸田首相の前に3枚のカード 暑い夏に

2024-07-08 12:23:23 | 政治

 現職の小池百合子氏が3選を果たした東京都知事選と自民党惨敗の東京都議補選の結果は、岸田文雄首相の政権運営にどのような影響を与えるのだろうか。補選の結果を見れば、衆院選での自民党苦戦は免れず、自民党総裁選における岸田首相には逆風となった。

 ただ、都知事選での「真の敗者」は立憲民主党であり、岸田首相が総裁選前の衆院解散に踏み切れば、政権の継続が可能になる道も残されているとも見てとれる。これから8月中旬にかけて、1)総裁選に立候補しない、2)立候補して勝利を目指す、3)衆院解散──のうち、どのカードを引くのか、岸田首相の発言から目が離せなくなるだろう。

 都知事選と同時に投開票された都議補選の結果は、自民党にとって強い逆風を認識させた。江東区、足立区、八王子市など9選挙区のうち、自民党は8選挙区に候補者を擁立して2勝6敗となった。特に萩生田光一衆院議員の地元・八王子市で自民党候補が諸派の元職候補に14万4000票対9万8000票の大差で敗れたことは、裏金問題が次の衆院選でも大きなテーマになりうることを示した。

 岸田首相のリーダーシップによる衆院選での勝利は難しいとの見方が自民党内で広がっていたが、東京都選出の同党衆院議員にとっては「落選の危機」が現実味を帯び、岸田首相の下での総選挙は避けたいとの機運が急速に広がることになったのではないか。

 毎日新聞は総裁選の投開票日を9月20日にする案が浮上していると伝えたが、岸田首相が立候補を決断するのは8月中下旬とみられている。

 「打倒岸田」を掲げてだれが立候補し、その中で有力候補がどのように絞り込まれるのか今のところはっきりしないが、このはっきりしない情勢が、岸田首相の立候補の決意を強める要因になると筆者は予測する。どのようにシミュレーションしても勝てないと判断すれば「立候補しない」と会見で述べる場面がやってくるかもしれない。

 しかし、勝算が少しでもあるなら、政権の継続に強い執念を見せている岸田首相は、総裁選への立候補をあきらめないと予想する。

 もう1つ、自民党内では「自爆解散」と言われかねない総裁選前の衆院解散のケースだが、都知事選での蓮舫候補の3位という結果を受け、立憲民主党内に「敗戦」ムードが高まっている今こそ、解散に打って出る好機と岸田首相が賭けに出る可能性もある。自民党内の大勢は「殿ご乱心」とみるかもしれないが、首相の解散権行使を止める法的な仕組みは憲法上、存在しない。岸田首相の決断次第と言える。

 上記の3つのシナリオのうち、1)を岸田首相が決断すれば、日本株は大幅上昇する可能性がある。支持率低下の岸田政権から新政権に移行すれば、高支持率のうちに早期解散・総選挙を断行するとの見方が増え、期待先行での株高予想が広がるとみられるからだ。 

 一方、2)と3)のケースでは、不透明要因が増加すると判断され、株価は一進一退となりそうだ。特に3)を岸田首相が決断した場合は、英国での保守党大敗と政権交代の先行事例を意識した海外勢が日本株売りを仕掛けるリスクもあると予想する。

 都知事選が終わって、いよいよ暑い「永田町の夏」が始まる。

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神田財務官の本音が隠された報告書、事態放置なら日本国債格下げも 

2024-07-03 12:49:13 | 経済

 財務省の神田真人財務官が主催した有識者懇談会が2日に公表した報告書は、エッジの効いた指摘が数多く盛り込まれ、日本経済の「病巣」を端的にえぐり出している。為替介入を指揮した神田財務官の本音が、そこに見えると筆者は感じた。

 円安体質は介入では治癒できず、これまで放置されてきた低迷する対内直接投資に対する抜本的な政策対応が必要であり、現状のままで時間が経過すれば、日本国債は格下げに直面するという厳しい認識があると言える。

 

 <日本経済の弱点、ズバリ指摘>

 霞が関の官僚が作成する報告書は、通常、総花的な構成で何が目玉かあえてはっきり表現しないことが特徴になっていることが多い。筆者が毎日新聞経済部に在籍していたころ、何を見出しにしてよいか迷ってしまう報告書に何度も遭遇した。

 だが、今回の「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会がまとめた報告書は、日本の政策当局者があえて避けてきた日本経済の弱点がはっきりと列挙され、さらに最悪のケースでは日本国債の格下げが現実味を帯びると描き出した。ある意味で画期的な構成となっている。

 

 <貿易赤字とデジタル赤字の現実>

 まず、冒頭で、2023 年末の対外純資産残高は過去最大の471 兆円に達し、33年連続で世界最大の純資産国となっているが、決して楽観できる内容とは言えない、という問題提起で始まる。

 国際収支の内訳をみると、貿易収支は赤字基調となり、その背景に自動車以外の産業の国際競争力低下があると分析し、自動車産業がこの先、電動化やIT化で後れを取ると、さらに赤字が増えることになると警鐘を鳴らした。

 また、輸出拠点の国外シフトや円安でも輸出数量が伸びない構造変化にも言及。貿易収支の赤字構造が抜き差しならぬ事態に直面していることを正面から受け止める分析内容となっている。 

 サービス収支では、いわゆる「デジタル赤字」の現状にも言及し「クラウドや検索サイト、オンライン会議等のプラットフォームのほとんどを外国企業が提供している」と指摘。「日本の企業や教育現場におけるデジタル化の進展に伴い、当面はデジタル赤字が一段と拡大する」との見通しを提示した。

 

 <細る対内直接投資という病巣>

 続いて、第1次所得収支の黒字について分析し、「国境の外側」での投資を優先する日本企業の行動が、直接投資収益の著しい増加となって表れていると分析。対照的に「国境の内側」では、設備投資が長らく停滞し、 2000年から2022年にかけて、民間企業設備ストックの残高は約 18%、年平均ではわずか0.8%しか伸びていない ことに着目した。

 その結果、対内直接投資残高の対国内総生産(GDP) 比は、経済協力開発機構(OECD) 加盟国中で最下位となり、国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計で198 カ国・地域中196 位と著しく低い水準にあることをデータを提示することで明示した。

 政府が6月21日にまとめた骨太の方針では、この対内直接投資が危機的状況になっていることへの認識が欠如していたと筆者は考える。この点を指摘した今回の報告書は円安の大きな要因が、ここに隠されていると強調しているように映る。

 さらに新NISA(小額投資非課税制度)のスタートにより、個人の海外への資金流出額が今年1-4月だけで4.1兆円と昨年1年間の3.5兆円をすでに上回っている現象にも触れ、これまで円資産を選好してきた日本人の投資家のホームバイアスが弱くなっている可能性にも言及している。

 

 <打開策なければ、将来の格下げに現実味>

 このように、円安を招く要因が数多くあることを指摘したうえで、1)日本国債の海外勢の保有比率の上昇、2)日銀による国債購入の縮小が見込まれる──とし、長期金利が上がりやすくなる環境になると指摘している。

 上記で指摘した対内直接投資の先細りは、今は4年連続で過去最高を記録している国内における税収の頭打ちを招き、債務の膨張を抑制できない場合は、日本国債の格下げの可能性が出てくることになる。報告書では「財政危機に直面した他国の事例を見ると、いったん格下げが始まると動きが早い ことが知られている」と率直に述べている。

 7月末で財務官を退任する神田氏は、日本経済に対する大きな懸念をこの報告書で示したのではないか。岸田文雄首相が、本気で政権の継続を考えているなら、日本の対内直接投資の大幅拡大のための政策パッケージを提示するべきだろう。それが、格下げという時限爆弾の破裂を少しでも先に延ばす唯一の方策であると考える。

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トランプ優勢と米長期金利上昇の関係、ドル高・円安が止まらなくなるリスク

2024-07-02 12:18:22 | 経済

 6月27日の米大統領選討論会は、バイデン大統領の歴史的な「自滅」という結果に終わった。民主党内ではバイデン氏の立候補取り下げを画策する動きも出ているが、現状ではトランプ氏の優勢がはっきりしてきた。敏感に反応したのは米市場で、1日のNY市場で米長期金利は前日の4.3%台から一時、4.48%に上昇。ドル/円は一時、38年ぶりのドル高・円安水準となる161.72円まで上昇した。

 なぜ、米長期金利が上昇するかといえば、トランプ氏が標榜している様々な政策が米物価上昇の加速や財政赤字の膨張につながることにマーケットが懸念を示しているからだ。これを日本から見れば、トランプ発のドル高圧力の高まりを受けて、円安が止まらなくなるリスクが顕在化してきたということだろう。政府・日銀にとって対応の困難な状況になってきた。

 

 <「もしトラ」から「ほんトラ」へ>

 27日の米大統領選討論会は、NYタイムズがバイデン氏に大統領選からの撤退を促す社説を掲載するほどの打撃をバイデン氏と民主党サイドに与えた。このまま11月の大統領選に突入すれば、トランプ氏の圧勝となるのはだれの目にも明らかになった。

 ただ、民主党がバイデン氏の「降板」と勝てる候補の指名を電撃的に推し進めれば、再び、接戦に持ち込めるかもしれない。だが、その前途にはいくつものハードルが待ち構えており、現時点でのトランプ優勢は動かしがたい現実となってきた。

 こういう時のマーケットは反応が早い。「もしトラ」から現実味が増し、本当にトランプ大統領になるのかという「ほんトラ」をにらんで、具体的な政策の織り込みを始めた。

 

 <米長期金利を押し上げる4つの要因>

 1つ目は、2025年末に期限を迎える「トランプ減税」の延長ないし拡充だ。米連邦法人税率を35%から21%に、個人所得税の最高税率を39.6%から37%に引き下げた「トランプ減税」について、トランプ陣営は減税の延長もしくは拡充を打ち出している。

 しかし、米議会予算局は5月8日、延長した場合に財政赤字が今後10年間に4.6兆ドル近く拡大するとの試算を公表している。

 2つ目は、トランプ氏がかねてから強調している移民政策の厳格化だ。メキシコ国境における移民の流入を厳しく制限し、大規模な強制送還を実施すると表明している。不法移民の流入は米国内で社会問題化してきたが、賃金の上昇率を緩和し、サービス価格の上昇を和らげる効果もあったとみられる。つまり、物価上昇率を再加速させる要因として注目を集める可能性がある。

 3つ目は、輸入品への高関税の課税実施だ。全ての中国製品に対し60%超の関税、その他全ての国からの製品に一律10%の関税を課す考えをトランプ氏は表明している。この政策も物価押し上げの大きな要因となる。

 4つ目は、物価上昇圧力を高める政策を推し進めながら、米連邦準備理事会(FRB)には金融緩和を求める政策的な志向があることだ。トランプ氏は大統領1期目に利下げをFRBに求める発言を繰り返し、政治的圧力を中央銀行にかけるということに対し、全くためらいを見せなかった。

 以上のように、トランプ氏の政策は米消費者物価指数(CPI)を押し上げる要因が目白押しであるばかりでなく、財政赤字も膨張させる政策が目玉となっており、米長期金利の上昇が加速する可能性を高めている。そこに「利下げ要請」の発言が加われば、米長期金利の上昇テンポが加速することになるだろう。

 

 <日本側に打つ手なし>

 これを日本側からみれば、夏の暑さが増してくる7月中旬から8月以降、米長期金利の上昇ードル高・円安圧力の増大 という展開が迫ってくることになる。 

 日本政府当局の「過度の変動には適切に対応する」との口先介入も、ドル高・円安の根本原因がトランプ氏の政策にあると市場が認識すれば、次第に効果が薄れてくるだろう。そのような市場心理の下で仮に政府・日銀が大規模介入を実施しても「格好のドル買い・円売りの場を提供することになりかねない」(国内銀関係者)との見方が広がれば、逆効果になるリスクも抱えていると言える。 

 この状況では、政府・日銀が口先介入で時間を稼ぎ、米大統領選を含めた米国サイドの情勢変化を待つしかないのではないか。米民主党による「ウルトラC」級の対応を待っているのは、NYタイムズに代表されるグループだけでなく、円安進展を懸念している日本の政権幹部の面々かもしれない。

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日銀短観から透けて見える円安デメリット、日本経済の停滞感長期化も

2024-07-01 13:54:44 | 政治

 日銀が1日に発表した全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業製造業の業況判断指数(DI)が前回3月調査のプラス11からプラス13へと小幅改善したことに内外メディアの関心が集まった。だが、本質的な問題点は別のところにある。本来なら円安メリットを享受すべき大企業でデメリットが意識されていたことだ。

 端的に指摘すれば、円安による原材料価格の増加が企業経営の負担になっている構図が鮮明になっている。大企業非製造業の業況判断DIが前回から1ポイント低下のプラス33となったことが象徴的に示している。この先も自動車や電機などの業況感が目覚ましく改善しないなら、日本経済の停滞感が意識される展開が続くのではないか。

 

 <自動車・小売りのDI悪化の意味>

 円安時に業況判断DIが改善しやすい自動車が前回短観時の13から12へと小幅低下したのは、認証不正問題の影響が出たとはいえ、円安メリットを享受し切れない今の日本経済の実態の一端を示したかたちだ。

 一方で、小売が同31から19へと12ポイントも悪化したのは、円安を起点にした価格引き上げに販売がついていけなかったことや、原材料価格の上昇が収益を圧迫したことが影響した。つまり円安によるダブルパンチに直面した現実を浮き彫りにした。

 日米金利差があまり縮小しないとの観測から、ここから数カ月間は少なくとも円安圧力が残るとの見方が市場では多数派を占めている。今年度事業計画におけるドル/円の想定為替レートは143.45円と3月短観時の140.64円から円安の設定になっている。

 ただ、足元で160円台まで円安が進んでいる状況とのギャップは相当に大きい。つまり、先行きの円安見通しは日を追うごとに強まっているが、6月短観における先行きの業況判断DIは大企業が14と足元比プラス1ポイント、非製造業は27と同マイナス6ポイントと停滞感の強まりをみせている。

 このことは、最近の貿易収支において円安が進展しても、輸出数量が大きく伸びることがないという現象とと平仄(ひょうそく)があっている。

 

 <緩和効果の調整と円安デメリット>

 日銀はここまでの金融政策で、超緩和政策を維持することによって実質政策金利を大幅マイナス圏で維持し、企業活動の活発化を目指してきた。これを別の角度から見れば、超緩和策の継続による円安を追い風に製造業が輸出を増やし、企業業績が好転することで設備投資や賃上げ幅の拡大を後押しする狙いがあったと言えるだろう。 

 しかし、円安が企業の業況感好転に結びつかず、かえって原材料コストの上昇を促してマイナス点も多くなってきたと判断すれば、緩和効果の調整を狙った利上げを中期的に検討する材料の1つになるだろう。

 筆者は7月利上げの可能性は低いとみているが、円安による企業業績のマイナス面が多くなるなら、それも9月以降の利上げ検討の1つの要因として加わることになるのではないかとみている。

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