日銀は31日、金融政策決定会合で政策金利(無担保コール翌日物金利)の誘導水準を0.25%に引き上げることを決めた。植田和男総裁は同日の会見で、経済・物価の動きが展望リポート(経済・物価情勢の展望)で示した見通しに沿って推移していることを、今回の利上げの理由として挙げた。今後も展望リポートで示された見通し通りに推移すれば、次の利上げを検討することも明言し、これまでも述べてきた中立金利の近辺まで利上げを継続していく姿勢も改めて示した。
利上げの最終到達点(ターミナルレート)とそこに至る利上げのペースについて、植田総裁は慎重に言葉を選んで明示することを避けたが、そこから浮かび上がるイメージは、1%より下の可能性があり、経済データの下振れがなければ、3カ月ごとに利上げするというアプローチではないか、と筆者は考える。
<賃金データに自信深めた日銀>
この日の会見では、利上げを7月会合で決めた理由についての質問が続いた。植田総裁の発言を概括的にまとめると、1)個人消費には物価上昇の影響もみられるが、底堅く推移している、2)賃金のデータが伸び率を高め、さらに上がることが見込まれて個人消費を支えていく、3)賃上げからサービス価格上昇などへの波及など賃金と物価の緩やかな上昇が見込まれる──を利上げを判断した要因として指摘。そのことで経済・物価の動きに関し、展望リポートの見通しに沿っておおむね推移すると判断でき、利上げを決めたということを丁寧に説明した。
また、円安については物価上振れリスクにつながる点に言及し「注意する必要がある」と述べ、円安による物価上昇圧力の加速懸念にも対応して、利上げを判断したことも認めた。
<利上げペース、植田総裁の発言にヒント>
次の利上げについては、明言を避けつつ、経済・物価の動きが展望リポートの見通しに沿って動けば、0.25%の新たな政策金利水準でも、物価を考慮した実質の金利水準が大幅にマイナスであることを踏まえ、緩和度合いを調整していくことを目指して利上げしていく方針を示した。
マイナス金利解除から4カ月で利上げしたことを踏まえ、次の利上げは4カ月後なのかという質問に対し、植田総裁は「前もって決めて(利上げの)パスを決めていない」と述べた。ただ、会見の終盤では7月会合で利上げを決めた背景の1つとして、4月以降に出た経済データをある程度、まとまって評価できる時点であるとも答えた。これは、次の利上げに関しても、3カ月程度が経過すれば、一定のまとまったデータの傾向を解釈し、評価できるとも受け取ることが可能であると筆者は考える。
今から機械的に予想することはリスクが伴うが、経済と物価のデータに大きな落ち込みがなければ、3カ月後の10月には一定の評価を下すデータの厚みが備わっていると言えるのではないか。
<日本のターミナルレートはどこか>
ターミナルレートと密接に関連する中立金利の水準について、植田総裁は会見で具体的には言及しなかった。ただ、想定される幅のあるレンジの下限のかなり下の方にあるとは述べた。
日本の中立金利は、自然利子率の試算から導き出されるレンジとして1%から2.5%とかなり幅の広い水準が想定されている。植田総裁は数字を明示していないものの、かなり下の方というのは0.75%程度を指している可能性があると筆者はみている。
このように捉えると、内外の政治情勢などを捨象して予測すれば、経済データがこのまま展望リポートに沿ってオントラックで進めば、どこかの時点で政策金利が0.75%までは上がっている可能性があるとみることができる。
そのペースは経済データ次第だが、3カ月に1回というラフなイメージも想定できるのではないか。
<初期反応は円高・株安、市場は新たな均衡点探る>
外為市場は、日銀の決定内容と植田総裁の会見内容を受けて、31日午後6時台の段階で150円後半までドル安・円高が進んでいる。行き過ぎた円安を懸念してきた政府は、この値動きを歓迎しているのではないか。
その一方、植田総裁の会見前に取引を終了した日経平均は575円87銭高の3万9101円82銭で引けたものの、その後の円高を受けて日経平均先物は3万8600円台に下落して推移している。
この後に控える米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果とパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見次第で、さらに大幅な価格変動も予想される。
日銀の利上げ継続方針がマーケットでの新たな均衡点模索の中で、どのように織り込まれていくのか──。市場関係者だけでなく、政府・日銀も固唾を飲んで見守っているのではないか。