総務省が21日に発表したした今年1月の全国消費者物価指数は、コメを含めた生鮮食品を除く食料が前年比プラス5.1%と大きく伸びた点が目立った。消費者の物価上昇の感覚に近いと言われている「持ち家の帰属家賃を除く総合」も同4.7%と大幅に上昇。日銀の植田和男総裁は今月12日の衆院財務金融委で食料品の値上げと期待物価上昇率との関係に言及しており、この点が今後のポイントの1つになると筆者は指摘したい。
CPIの総合とコアCPIは今後、高止まりする可能性が高まっており、ドル高・円安が進むようなら物価の上振れリスクが顕在化することも予想され、物価上昇と利上げ時期の前倒しが今後の焦点として浮上すると予想する。
<生鮮食品除く食料、前年比5.1%上昇>
1月全国CPI(除く生鮮食品、コアCPI)が前年同月比プラス3.2%と市場予想の同3.1%を上回り、総合は同4.0%と2023年1月以来の4%台の伸び率となった。
CPIの総合を大きく押し上げた要因の1つとして、生鮮野菜の値上がりが挙げられる。キャベツが約3倍、白菜が約2倍と値上がりし、生鮮野菜は同36.0%と大幅に上昇。生鮮食品全体で同21.9%の伸び。
また、コメが同70.9%と過去最高の値上がりとなったため、生鮮食品を除く食料も同5.1%と大きく伸びた。
<今年の食料品値上げ、前年比で9割増のペース>
このように見てくると、足元の物価上昇は野菜やコメなどの値上げが主導しているように見えるが、輸入原材料などを使用した加工食品など「飲食料品」全般も値上げの大きなうねりが鮮明になっている。
帝国データバンクが食品主要195社を対象にした価格調査を行ったところ、今年2月の飲食料品値上げは1656品目と前年2月を1.8%上回っており、2025年通年の累計値上げ品目数は8867品目と前年の同時期に比べて9割増のペースとなっており「値上げの勢いは、前年に比べて強まっている」と同社はみている。
さらに値上げの理由として、原材料高に加えて物流費や人件費の上昇を挙げるメーカーが増加。単なる資源高や円安の影響だけでなく、2024年の高い賃上げや解消される人手不足などの影響が入り混じり、値上げの圧力が強まっていることをうかがわせている。
また、価格高騰を抑制するために政府が3月から実施する備蓄米の放出も、1年以内の買い戻しが条件になっていることなどから、コメの値下がりの効果がどこまで出るのか不透明との見方が、コメの流通関係者から早くも出ている。
<3月12日の春闘集中回答、前年並みの5%台なら物価押し上げに波及も>
このような情勢の下で、コアCPIや総合はしばらく高止まりする可能性が高まっていると筆者は予想する。ここで注目されるのが今年の春闘における賃上げ率の動向だ。トランプ米大統領による自動車をはじめとする主要製品に対する関税の賦課は、日本に対しても実行されれば大きな景気下押し効果となる。
自動車に25%の関税がかかればメーカー全体で3兆円規模の影響が出るとの試算もあるようだが、正式な米政府の発表が言われている通りに4月2日以降なら、3月12日の春闘における大企業・製造業の集中回答日の段階では、日本企業に対する影響が不透明なため、事前に報道されているように前年並みの5%台の賃上げ率に落ち着く公算が今のところ大きい。
そうなれば、中小企業の賃上げ率も昨年並みになる可能性が高まり、それは各種の段階での製品やサービスの値上がりにつながって一段と物価を押し上げる要因になりうる。
そこに為替面でのドル高・円安が進行した場合、19日の講演で日銀の高田創審議委員が言及したように物価上振れの可能性が出てくるだろう。
物価上振れのリスクが顕在化するようなら、その手前で利上げの議論が本格化するのではないか、と筆者は予想する。
<7月参院選前に物価高に神経質な政府・与党、利上げに賛成の可能性も>
この時に注視が必要なのは、政府・与党のポジションだ。7月の参院選を前に物価高が国民生活の大きな焦点になっていた場合、参院選での与党苦戦が現実化することが予想される。
足元での輸入物価を見ても、契約通貨ベースと円ベースではかい離が生じ、その部分は円安が効果を発揮しているのは一目瞭然だ。従来は日銀の利上げに「慎重な検討」を求めてきた政府とそのバックにいる与党が、物価高の抑制のために日銀の利上げ検討に「賛意」を示すことも十分にありえる。
実際、1月の全国CPIで「持ち家の帰属家賃を除く総合」が前年比プラス4.7%と前月の同4.2%から跳ね上がったことは、政治的には「暗い予兆」と映るだろう。
こうした点も利上げのタイミングが前倒しされる可能性を高める要因になると考える。
<21日の植田総裁発言、長期金利上昇へのけん制との受け止めは市場の過剰反応か>
さて、21日の東京市場でドル/円が149円前半から150円半ばまで急速にドル高・円安が進んだ場面があった。市場関係者によると、植田日銀総裁が同日の衆院予算委の質疑で、長期金利が例外的に急上昇すれば、機動的に国債買い入れを増額する、と発言したと伝えられ、足元における日本の長期金利の上昇を念頭に「けん制した」との思惑が広がったという。
筆者は、この市場の動きは「過剰反応」だったのではないか、と指摘したい。植田総裁の発言をやや詳しく紹介すると「市場の経済物価情勢に対する見方や海外金利の変化等を映じて、長期金利はある程度変動することを考えている」と述べた上で「ただし、こうした市場の通常の動きとはやや異なるようなかたちで、長期金利が急激に上昇するようなやや例外的な状況においては、市場における安定的な金利形成を促す観点から、機能的に国債買い入れの増額等を実施する」と語った。
植田総裁は「やや例外的な状況」において買い入れを増を行うべきと述べており、足元での長期金利上昇を差した発言ではない、と解釈できる。
また、高田審議委員は19日の会見で、長期金利の動きに関して先行きの経済や物価の見通しを「普通に反映したものではないか」と述べている。
いずれにしても、長期金利の動向とそれに対する政府・日銀の見解に関し、マーケットの関心が一段と高まるのは間違いないだろう。