少数与党の第2次石破茂内閣にとって、2025年度予算案の編成が大きなハードルとして浮上してきた。国民民主党が主張するいわゆる「年収103万円の壁」の引き上げやガソリン税の減税を実施した場合、9兆円を超える新たな財源の確保が必要になるが、そのめどが立っていないためだ。さらに防衛費をめぐる増税の取り扱いで国民民主党の玉木雄一郎代表が反対を表明し、25年度の税制改正をめぐる自民党、公明党と国民民主党との調整が難航して、予算編成が大幅に遅延する可能性も出てきた。
自公両党は衆院で過半数を割り込んでおり、25年度予算案の成立には国民民主党の賛成が不可欠となっている。このため最終的には自公両党が国民民主党の要望を受け入れる可能性が高いが、その場合は赤字国債の大規模な増額が不可避となる。だが、円債市場関係者の多くは昨年までの自公優位の国会運営に慣れてしまい、大幅な国債増発の可能性を織り込んでいない。石破内閣にとってもマーケットにとっても25年度予算案の編成は、大きな分かれ道となりそうだ。
<石破首相、所信表明で「他党にも丁寧に意見聞く」と発言へ>
読売新聞など複数の国内メディアは、29日の臨時国会で石破首相が行う所信表明演説の主要なポイントを事前に報道し、石破首相が「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう、真しに謙虚に取り組んでいく」と述べると伝えた。
実際、自民、公明、国民の3党は、所得税の非課税枠である基礎控除と所得税控除の合算額である103万円について「25年度税制改正の中で議論し引き上げる」との合意文書を交わし、ガソリン減税は「自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討し、結論を売る」ということで合意し、24年度補正予算案について「年内の早期成立を期す」ということで合意して、補正予算案の成立が事実上、固まった。
<先送りされた財源問題、解決に2つの障害>
ただ、財源問題は11月20日の当欄で指摘したように具体的な結論は先送りされた。そのツケをいよいよ、25年度予算案編成のプロセスで払うことになる。
103万円の壁の引き上げ財源に関し、障害になっているのは不足する税収の規模が大きいことと、26年度以降もその手当てが必要になる「平年度ベース」の制度改正になるという2つだ。
国税と地方税を合わせて7-8兆円の税収不足に直面するが、税収の上振れ分や予算の使い残し、税外収入を当てる対応策では、1)7-8兆円の全額を賄う規模にならない、2)26年度以降の財源確保のメドが立たない──という問題に直面する。
<財源不足は9兆円超に>
そこで国民民主党の主張する178万円まで引き上げるのではなく、消費者物価指数の上昇分に見合う引き上げ額にする案などが与党サイドから提起される可能性があるものの、国民民主党が拒否すれば、少数与党だけで予算案を可決できないため、予算案成立のメドが立たない現実に直面することになる。
同様に国民民主党が主張する旧暫定税率を廃止してガソリン税を減税する場合、1.5兆円程度の減収が恒常的に発生する。
合わせて9兆円強の財源不足をどうするのか──。25年度予算案の編成上、最大の問題になることが予想される。
<防衛増税、玉木氏は「必要ない」と指摘>
さらに防衛増税の問題が新たに浮上してきた。防衛費を増額するための財源として政府は、所得、法人、たばこの3税を引き上げる方針を決め、22年末に閣議決定した大綱で「27年度に向けて複数年かけて(増税を)段階的に実施する」と明記した。ただ、22、23年と2年連続で増税開始時期の延期を決定したため、27年度には1兆円超の増収を予定していた計画が本当に実行できるのか微妙な状況になっている。
こうした中で国民民主党の玉木代表が26日の会見で、25年度における防衛増税は「必要ない」と発言。合わせて自民党の茂木敏充前幹事長が同党総裁選で「防衛増税の停止」を主張していたことにも触れて「まず自民党の中の意見をまとめてもらいたい」と主張した。
自民党の宮沢洋一税調会長は26日、防衛増税は「大きな方針を党として決めてある」と述べ、何らかの増税実施に前向きの姿勢を示した。
<一部に越年編成の声も、国民民主の賛成なしで難しい予算案成立>
このように大規模な歳出項目の前提になる財源問題で、自民、公明、国民3党の意見は大幅に食い違っており、一部の政府・与党関係者の中では財源問題での調整難航を理由に、予算編成が例年よりも大幅に遅れて場合によっては越年する可能性があるのではないかとの声も出ている。
ここで、現在の政治状況を俯瞰してみると、代表選を戦っている日本維新の会で次期代表に選出される可能性が大きいとみられている吉村洋文・共同代表は、自公両党と距離を取る政策に重点を置くスタンスを強調しており、25年度予算案で賛成に回る可能性は低下しているとみられる。
また、野党第1党の立憲民主党が予算案の賛成に回るよう通常国会で「予算案の組み替え」に応じる選択肢も理論上はありうるが、政治的にかなり難易度の高い「技」の発揮を求められ、現状ではかなり難しいと筆者は考える。
そうなると、国民民主党の要求を概ね容認するかたちで25年度の税制改正大綱をまとめ、103万円の壁引き上げなどの実現に必要な歳入は、大部分を新規国債の発行で賄うという「落としどころ」がどこかで浮上するのではないか、と予想する。
<市場に心の準備がない新規国債大増発のケース>
このような国債の大増発への「心の準備」が、マーケットにはできているのだろうか──。足元における長期金利の動向を見ていると、国債の前倒し発行の存在が心理的な支えになって、安心しきっているのではないかと筆者の目には映る。
確かに前倒し発行分で吸収できるということは事実だが、それを繰り返していると、その先に何が待ち構えているのかは明白ではないか。
<注目される石破首相の決断>
10月の衆院選の結果、28議席の国民民主党がキャスティングボートを握り、予算編成で大きな影響力を持つようになったが、財源問題がネックになって予算編成のプロセスが大幅に遅延する可能性もある。
遅延しない場合は、国債発行額が大幅に増額され、市中で消化される国債の量が市場の想定よりも大幅に上振れするリスクが高まる。
石破首相と政府・与党にとって予算案の成立と国債大増発の可能性をどのように比較衡量することになるのか、大きな分かれ道は12月上中旬にやってくるだろう。
マーケットにとっても、前倒し発行分で増発分が吸収され、市中消化に大きな影響は出ない、と安心していられないような「大きな波」が、いきなり押し寄せてくる可能性もある。
かつてない注目の予算編成と言ってよい事態が、間もなく衆人環視の下で展開される。