一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

植田日銀総裁、次の利上げで複数のヒント 比重上がる為替と12月会合の行方

2024-10-31 16:48:09 | 経済

 日銀の植田和男総裁は31日の会見で、市場が注目してきた「時間的余裕」という表現は今後、使わないと述べた。合わせて為替の変動が過去と比べて物価に影響を及ぼしやすくなっている面があると指摘し、金融政策判断における為替の影響が大きくなる可能性をにじませた。次回の12月金融政策決定会合で利上げが決断されるのか今から即断できないが、米大統領選の結果や米経済指標の出方によってドル/円が155円を突破して160円に接近もしくは乗せる円安の進展があれば、物価押し上げリスクの増大を要因として利上げが決まる可能性は排除できないと考える。

 また、少数与党に転落した石破茂首相が11月11日召集の特別国会で首相に指名され、国民民主党との間で政策合意が形成されるケースでは、財政拡張型の政策が盛り込まれる可能性が高く、そのこと自体が円安を加速させる要因として市場に意識されるだろう。国民民主党の玉木雄一郎代表が強調する「手取りを増やす経済政策」にとって、円安加速による物価上昇率の拡大は手取りを減少させることにつながりかねず、円安が問題視される可能性もある。日銀はそうした点も含めて総合判断しながら12月の利上げの是非を議論していくと筆者は予想する。

 

 <植田総裁、「時間的余裕」の不使用表明 ドル/円は152円台に>

 植田総裁の発言を注視していた外為市場関係者は、「時間的余裕という表現は今後使わない」と速報されると即座に反応し、ドル/円は31日正午ごろに推移していた153円前半から152円前半へとドル安・円高方向に動いた。

 植田総裁は、米雇用統計の弱い結果によってマーケットの値動きが荒くなり、それが重要なリスクと判断し、他のリスク以上に「注意深く検討していかないといけない、という意味でこの姿勢を時間的余裕をもって見ていくという表現で表した」と説明した。

 その上で米経済データは少しずつ改善し、市場も安定を取り戻しつつあり「リスクの度合いは少しずつ低下している」と指摘。光を強く当てて「時間的な余裕をもって見ていくとの表現は不要になる」と述べた。

 つまり時間的余裕の表現は米経済のリスクに限定して使用してきたが、米経済の不透明さが低下してきたので今後は使用しないという理屈建てを示した。

 

 <日銀の意図を推理する>

 今日の会見では「時間的余裕」への質問がかなり多くなったが、多くの市場参加者は「時間的余裕がある」を利上げの赤信号、なければ利上げの「青信号」というイエスかノーかという二者択一の問題に単純化し、日銀の政策の行方を判断しようとしていた。筆者は、そういう安易な市場の見方に日銀がストップをかけ、先行きの政策判断には幅広い選択肢があるということを印象付けようとしたのではないかと推理する。

 植田総裁はこの日の会見で、利上げのタイミングで予断を持っておらず、毎回の金融政策決定会合の時点で得られるデータや情報を集めて総合的に判断していく、という従来からのオーソドックスな姿勢を何回も説明した。

 少しデフォルメした表現を使えば、時間的余裕という表現があるのかないのか、米経済のリスクが大きいのかそうではないのかといった「二進法」的な思考を排除し、やるかもしれないしやらないかもしれない、という伝統的な中銀の手法に立ち戻ったということだろう。

 

 <為替変動と物価への影響>

 だが、植田総裁の会見が何のヒントも与えなかったかと言えば、いつくかの材料は提供されたと指摘したい。1つ目は、為替が物価に与える影響が強くなっていると述べた部分だ。

 企業の賃金・価格設定行動が積極化する下で、過去と比べると「為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」と強調したところだ。

 足元では、米経済のソフトランディングへの期待感の強まりや米大統領選におけるトランプ前大統領の優勢報道などで米長期金利が上昇しやすくなっており、ドル高・円安への圧力が高まっている。市場の一部ではトランプ氏の当選が決まれば、ドル/円は155円を突破して160円に接近もしくは上回る水準まで上昇するとの予想が台頭。この見方が現実化すれば、日銀は次の利上げを本格的に検討するだろうと予想する。

 

 <賃金とサービス、消費に前向きの評価>

 2つ目は、賃金の上昇とそれに関連するサービス価格の上昇について、植田総裁が前向きの評価を下した点だ。民間エコノミストの一部では、サービス価格の上昇が鈍く、個人消費も利上げを検討するほどに活発化していないとの見解が出ているが、植田総裁はそれよりも強気の見方を示した。

 植田総裁は賃金に関し、毎月勤労統計の一般労働者の所定内賃金は前年比3%前後で推移し「そこだけを見ると、2%の物価目標と整合的な範囲に入ってきている」と述べ、賃金の堅調さを指摘した。

 また、サービス価格についても10月の東京都区部消費者物価指数(CPI)で、ある程度の転嫁が広がっているとの見解を表明。消費も一部の非耐久財について節約の動くが見られるものの、耐久財を含めた消費全体は緩やかに上昇しているとの見方を示した。

 

 <円安進展なら、利上げ検討の可能性>

 これまでも示してきた経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、緩和の度合いを調整していくとのスタンスを維持。会見ではこの点も丁寧に説明するとともに、国内の要因については、概ね見通し通りに進展しているとの見解を表明した。ただ、米国など海外経済の不透明感が残っており、その点などを見極めていく姿勢を示した。

 このように見てくると、9月の金融政策決定会合で示したリスク判断と比べ、日銀は物価目標達成の確度が上がっているものの、利上げを決断するまでに至っていないと判断したのだろうと筆者は考える。

 したがって12月会合までにドル/円が160円近くまで円安方向に振れた場合や、米経済の下振れリスクが大幅に低下したと判断できるなら、本格的な利上げ検討に着手する可能性があると予想する。

 

 <自民・国民民主の政策調整の行方、日銀に影響を与えるのか>

 ただ、今日の会見で植田総裁が全く具体的に回答しなかった要素も、日銀の総合判断の中に含まれると付記したい。それは、石破氏が11月11日に首相に指名された後に残る少数内閣の現実とその影響だ。

 仮に自民、公明、国民民主の3党間で政策協議が進展し、2024年度補正予算案の可決・成立のメドが立ったとしても、2025年度予算案の編成と可決まで保証されたわけではない。予算編成の段階から国民民主が関与するとの合意ができるのかどうか今のところ不透明だが、25年度予算案の成立が見込めない段階で3党間にすきま風が吹き込むかもしれない利上げの問題を日銀が本格的に取り上げることになるのかどうか。今の段階では全く予測できない。

 ただ、25年度予算案の成立に国民民主が関与することになれば、政治状況は劇的に変化し、日銀がフリーハンドを保持することも可能になるかもしれない。

 さらに円安が進んで物価上昇が大きな政治問題となるようなら、来年7月の参院選をにらんで政治の側から利上げを求める空気が醸成される展開もゼロではない。

 様々な要素を取り込みながら、日銀の政策判断が下されることになる。

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トランプ氏当選なら米長期金利上昇、ドル160円目指しも 注目される植田日銀総裁の会見 

2024-10-30 14:29:30 | 経済

 ドル/円の行方を大きく左右する10年米国債利回り(長期金利)は、29日のNY市場で4.2561%で取引を終えた。米大統領選で共和党のトランプ前大統領が当選する可能性が高まっているとの声がマーケットでは多くなっており、いわゆる「トランプトレード」によって米長期金利は11月5日の米大統領選まで4.25%前後で推移し、トランプ氏当選の場合は4.5%を目指して上昇するとの予想が広がっている。

 このためドル/円も152円から155円のレンジで推移し、トランプ氏当選のケースでは160円目指しの動きになるという予想が次第に多くなってきた。国内の政治情勢をみても、少数与党に転落した石破茂首相が国民民主党との間で政策合意を目指していると伝えられ、財政拡張的な政策が採用されやすくなっており、この点も円安要因となる。ドル/円が155円を突破してドル高・円安が加速する可能性もあり、あす31日の会見で日銀の植田和男総裁が円安進展の可能性と金融政策の先行きについて、どのような見解を示すのか注目される。

 

 <トランプ氏優勢か、米長期金利にかかる上昇圧力>

 日本の衆院選が終わり、マーケットの関心は11月5日の米大統領選の結果に集中しつつある。リアル・クリア・ポリティクスによると、10月29日時点で全国レベルでの支持率はトランプ氏がハリス副大統領に対して48.6%対48.0%とリード。大統領選の帰すうを決める接戦7州では、ミシガン州を除きトランプ氏が僅差でリードしている。

 複数の市場関係者によると、トランプ氏の当選を予想したドル買い・株買い・債券売りの「トランプトレード」の動きが次第に強まってきており、29日のNY市場で米長期金利は一時、4.33%と約4カ月ぶりの高水準となった。その後、7年米国債入札の結果が好調だったことを受けて4.25%台で取引を終えた。

 

 <財政赤字の拡大と関税引き上げ・物価上昇>

 トランプ氏が当選すると、米長期金利に大きな上昇圧力がかかるとみられている理由として、2つの点が挙げられる。1つは、トランプ氏の積極的な減税政策などで財政赤字が大きく膨らむと予想されていることだ。超党派の米シンクタンク「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」は今月7日、トランプ氏が公約に掲げる税制・支出計画は、ハリス副大統領の計画の2倍以上の新規債務を生み出す可能性があると公表した。

 もう1つは、対中国など外国製品に大幅な関税を課すというトランプ氏の公約によって、輸入物価が急上昇し、米国の消費者物価指数(CPI)を押し上げ、これが長期金利上昇として反映されるルートだ。対中の輸入関税は60%に引き上げ、中国がイランとの貿易を継続すれば100%に引き上げるとも主張している。その他の国からの輸入品には10%の関税をかけるといていたが、最近になって20%に引き上げるとも述べてる。

 市場関係者の間では、大統領選の結果が出るまでは4.25%ないしそれを上回る水準まで上昇してもおかしくなく、トランプ氏の当選が分かれば4.5%方向にジャンプしてさらに上がる可能性もあるとの見方が浮上している。

 

 <トランプ氏当選なら、円安加速も>

 米長期金利の上昇は、ドル/円でのドル高・円安に結びつきやすい動くが最近では目立っている。30日の東京市場でドル/円は153円台での推移が続いたが、トランプ氏の当選が判明した段階で155円を突破するとの予想が多くなっている。

 一部の市場参加者は、米長期金利の上昇が止まらないような状況になれば、短期的にドル/円が160円台に乗せる可能性もあると予想している。

 

 <円安に2つの国内要因>

 この円安バイアスの強まりは、27日に投開票された衆院選の結果と、それに伴う政治状況の激変という日本国内の要因にも刺激されていると筆者は考える。

 1つ目は、自民党と公明党の連立与党で衆院の過半数である233議席を18議席下回る215議席にとどまり、少数与党に転落して政策推進能力が大幅に低下したばかりか、内閣不信任案を提出された場合に容易に可決される環境にあるということが、海外勢から見れば明白な円売り材料と映っていることだ。

 2つ目は、足元で進展しているとみられる自民党と国民民主党の政策合意に向けた協議の進展状況だ。石破茂首相と自民党は、国民民主党との合意ができなければ2024年度補正予算案も可決できない状況であるため、国民民主党の主張を大幅に飲む可能性があると筆者は予想する。

 103万円の基礎控除と所得税控除の合算額の引き上げをはじめ、ガソリン税に上乗せさて来た旧暫定税率(2010年からは期限を設定しない特例税率に改正)の廃止など国民民主党の主張を受け入れれば、その財源の一部として国債の発行も視野に入ると予想する。財政拡張的な政策を従来よりも強いられるということになれば、それは円売り材料として多くの市場参加者が意識するのではないか。

 

 <植田総裁会見、「時間的な余裕」に言及するのか注目>

 ドル/円が155円を突破してさらにドル高・円安に振れ、160円台に乗せるような状況になれば、輸入物価の上昇を通じて日本のCPI上昇率を押し上げる働きをすることになる。

 植田総裁は24日のワシントンでの会見で、次の追加利上げの判断までには「一応、時間的な余裕がある」と述べた。

 31日の会見で、植田総裁が米長期金利の動向と関連してドル高・円安の圧力が高まるとみているのか、その際に日本の物価や消費へのインパクトについて、どのような発言をするのか注目される。

 仮にワシントンでの発言を踏襲して「時間的な余裕がある」と明言すれば、次回の12月金融政策決定会合における利上げの可能性に関し、市場の期待感は低下すると予想する。

 同時に植田総裁の発言を受けてドル高・円安が一段と加速する可能性も捨てきれない。植田総裁の発言に対する内外の市場関係者の注目度は、相当に上がりそうだ。

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自民・国民民主合意なら補正成立に前進、石破首相が狙うその先の展開は何か

2024-10-29 14:17:38 | 経済

 29日付読売新聞朝刊は、石破茂首相(自民党総裁)が国民民主党の玉木雄一郎代表に政策ごとに連携する「部分連合」を提案する方針を固めたと報じた。部分連合が決まれば11月の特別国会における首相指名選挙で石破氏が1回目の投票で首相に指名される可能性が高まるだけでなく、2024年度補正予算案の成立にも大きく前進することになる。

 玉木氏は28日の民放の番組で、103万円の基礎控除と所得税控除の合算額の引き上げの実現が最優先の課題と指摘しており、この点が自民と国民民主における協議の最初の関門になりそうだ。自民・公明両党は衆院の過半数である233議席を18議席下回る215議席しかなく、このままでは少数与党として補正予算案の可決もままならない状況であり、筆者は自民党が大幅に譲歩することで国民民主党と合意する道筋を想定している。29日の東京市場で日経平均株価が続伸しているのも、部分連合への期待感が広がっていることが背景にあるとみられる。

 

 <国民民主意識した石破首相のアプローチ>

 石破首相が国民民主党を強く意識していることは、28日午後に自民党本部で行われた党総裁としての会見の冒頭部分に顕著に表れていた。

 石破首相は政治とカネについてさらに抜本的な改革を行っていくとし、具体策として1)政策活動費の廃止、2)調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開と残金返納、3)改正政治資金規正法に基づく早期の第三者機関の設置──について党派を超えた議論を行い速やかに実現を図っていく必要があり、自民党に対して指示を行うと述べた。

 この3つは国民民主党が主張している内容とほぼ同じで、異なっているのは3つ目の第三者機関の設置時期について、国民民主党が2024年度内としているところを「速やかに」と表現しているところだけだ。

 28日のBS日テレの番組に出演した玉木氏は、この石破首相の発言内容に関し「(国民民主党の主張を)よく研究されている」と述べ、石破首相が国民民主党の主張の取り入れに積極姿勢を示していることを暗に認めた。

 

 <国民民主との接触、自民が立憲民主を大幅リードか>

 また、玉木氏は同じ番組の中で政策協議に関連して「幹事長レベルで一定の接触をしていると報告を受けている」と明らかにし、その先の石破首相との党首会談について「もし、そうした段取りができるのであれば、石破首相であれ野田(佳彦)立憲民主党代表であれ、党首間の会談はしっかりやりたい」と述べていた。

 さらに29日の会見で、自民党や立憲民主党との党首会談について「求められれば断るものではない」と改めて表明した。

 立憲民主党側も国民民主党へのアプローチを強めているとみられるが、玉木氏は28日の同じ番組の中で立憲民主党との関係では、泉健太前代表の時と比べてコミュニケーションの量が「格段に落ちている」と指摘。国民民主党をめぐる自民党と立憲民主党のアプローチ競争は、自民党が現段階では相当にリードしていると筆者は考える。

 

 <自民・国民の党首会談実現なら、首相指名や補正予算にメド>

 特別国会の召集は当初想定されていた11月7日から11月11日に4日間、先送りされることが固まったと報道されている。この期間を利用して自民党と国民民主党の協議が進められると思われるが、やはり党首会談の設定が最も重要なピースになる。

 自民・国民民主の両党党首会談が設定され、重要な政策での一致ができれば、首相指名選挙や補正予算案をめぐっても合意が形成され、首相指名選挙での石破首相の指名と2024年度補正予算案の成立のメドが立ち、石破首相は最初の関門を通過できるということになるだろう。

 

 <103万円の壁の引き上げ、自民が受け入れも>

 その際は、玉木氏が最も注力している103万円の基礎控除と所得税控除の合算額の引き上げで何らかの合意ができると筆者は予想する。

 玉木氏は178万円への引き上げにかかるコストは4-5兆円になるとの試算を明らかにしており、筆者は両党間の協議の結果として178万円への引き上げを複数年に分けて実施するという妥協が図られる可能性もあると予想する。

 

 <25年度予算案成立が最大の課題、否決は内閣不信任に匹敵>

 いずれにしても一定の政策合意が特別国会召集前に形成できれば、石破首相にとって次の課題は2025年度予算案の成立をどのように図るか、ということになる。

 もし、予算案の衆院通過が見込めないということになれば、石破政権は最大の危機に直面して、総辞職が衆院解散かという苦渋の選択を迫られることになる。

 実際、終戦直後の混乱期とはいえ、1948年2月に当時の片山哲内閣は補正予算案が衆院予算委で否決され、間もなく総辞職に追い込まれた。予算案の否決は、政治上は内閣不信任案の可決に等しく、このことは石破首相にとっても全く同じ重みを持つ。

 したがって2025年度予算案の成立が石破首相にとって最重要な政治課題となっている以上、国民民主党の賛成は政権維持のためには不可欠となる。

 

 <ガソリン税の旧暫定税率、大きな焦点になる可能性>

 そこで浮上するのが、ガソリン税をめぐる国民民主党の主張を飲むのかどうかという問題である。国民民主党は、ガソリン税に上乗せさて来た旧暫定税率(2010年からは期限を設定しない特例税率に改正)の廃止を求めている。

 ただ、税収が兆円単位の規模となるため、自民党税調や財務省は強く抵抗することが予想され、実際にガソリン価格が1リットル160円を超えた場合に旧暫定税率の適用を止める「トリガー条項」を凍結している現状を変更する国民民主党の主張は、岸田文雄政権の下で協議が行われたものの実現しなかった経緯がある。

 だが、少数与党に転落した自民党と公明党にとって、政権維持のためには国民民主の主張を飲まざるを得ないだろうと筆者は予想する。

 この25年度予算案をめぐる政策協議の行方が、25年度の政治情勢を占う上でも最大のポイントになると指摘したい。

 

 <国民民主の狙う高圧経済、円安加速と物価高容認の懸念>

 これをマーケットから見れば、財政拡張の政策が大展開されるということであり、短期的には株価の上昇を期待できるものの、中長期的には日本の財政の持続性に疑問符が付きかねないという大きな副作用も覚悟しなければならない問題が浮上するということだ。

 米大統領選でトランプ前大統領が当選すれば、株価が上昇するだけでなく長期金利が大幅に上がるのではないか、と予想されていることと相似形の事が起きるかもしれない。

 最も異なるのは、米国ではドル高になるが、日本では日銀の利上げは抑制されるとの予想と関連して円安が進みやすくなることだ。もし、160円台の円安が到来すれば、食料品などを中心に消費者物価指数(CPI)は上昇圧力を強めるだろう。

 その時に国民民主党の主張する「手取りの増加」は、物価の上昇で打ち消されてマイナスになるかもしれない。こうした状況の下で自民党や国民民主党は、日銀に利上げを求めて物価高を止めるのか。それともCPI上昇を容認するのか──。

 国民民主党が掲げる「積極財政等と金融緩和による高圧経済」の先には、内外経済からの大きな試練が待ち受けているかもしれない。

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リスク大きい少数与党、株価上昇は楽観的 石破首相の対話路線は奏功するか

2024-10-28 15:38:45 | 経済

 衆院選で大敗した石破茂首相(自民党総裁)は28日午後に会見し、厳しい安全保障環境や経済環境の下で「職責を果たしたい」と述べ、引き続き政権を維持していく強い意志を表明した。ただ、自民党と公明党の与党だけでは衆院の過半数である233議席を下回る215議席しかなく、このままでは特別国会で石破氏が首相に指名されても1994年4月の羽田孜内閣以来の「少数与党」になる。

 少数与党では、これから審議が予定される2024年度補正予算案や25年度予算案、それを執行するための関連法案の成立のメドが立たず、政権が立ち往生して総辞職に追い込まれるリスクが高くなる。28日の東京市場で日経平均株価が前週末比691円61銭(1.82%)高の3万8605円53銭と反発したが、少数与党の「危険性」を織り込んでいないと指摘したい。

 石破首相が「党派を超えて優れた方策を取り入れ、意義のある経済対策、補正予算を実施していくことが必要だ」と低姿勢で述べたのも、政策で一致できる政党と合意を形成しなければ、補正予算の成立さえ見込めないためだ。同時に補正予算編成の過程で、政策で一致できる政党が現れて25年度予算案でも共同歩調が取れる「信頼感」が醸成できれば、「部分連合」という名の新たな枠組みの形成が可能とみる「意欲的な戦略」が隠されているとも読み取れる。石破カラーが発揮され、予算案成立のメドが立つことになるのか、今後の日本の政治・経済情勢を大きく左右しそうだ。

 

 <与党過半数割れ、株高の背後に財政拡張への期待感>

 衆院選の結果は、自民党が公示前の247議席から56議席減の191議席となり、32議席から8議席減の24議席に後退した公明党と合わせても215議席にとどまった。一方、立憲民主党は98議席から148議席に躍進し、国民民主党は7議席から4倍増の28議席となった。日本維新の会が38議席、れいわ新選組が9議席、日本共産党が8議席、参政党と日本保守党が3議席、社民党が1議席など新勢力が決まった。

 28日の日経平均株価は、与党の過半数割れは織り込み済みで、野党の政策に自公両党が歩み寄れば、財政拡張的な政策が採用されて株高になるとの期待感が浮上。ドル/円が153円台のドル高・円安に振れたことも加わって大幅な反発となった。

 

 <維新・国民代表とも、連立入りを強く否定>

 だが、この市場の反応には落とし穴があると筆者は指摘したい。まず、維新の馬場伸幸代表は27日夜のNHKの番組で、与党過半数割り込れのケースについて「今の与党に協力する気は全くない」と述べ、連立政権入りを否定。国民民主の玉木雄一郎代表も28日、「(自公)連立(政権)に入らない」と記者団に述べた。

 来年夏の参院選を前に、政治とカネの問題で国民の批判を受けて惨敗した自公の連立に簡単に入れば、自党の支持率が急低下する可能性が高まり「ドロ船」には乗らないとの意向が強くにじみ出ていると感じられる。

 

 <少数与党、予算案や法案の成立メド立たず>

 もし、両党ともに与党提案の法案に反対すれば、一般法案だけでなく予算案や予算関連法案も全て否決されることになり、石破政権はたちまち行き詰まりを露呈してしまう。自公連立政権との取引のバーを上げている両党が簡単に歩み寄るとは考えにくく、その意味で現段階では補正予算案や関連法案の成立も見通せていないのが現実だ。

 この日の株価の動きを見ていると、自民党1強時代の法案審議のあり方に慣れきってしまい、少数与党の内閣の脆弱さをあまりにも軽視しているように見えてならない。

 

 <補正の政策検討、他党に門戸開放の用意 石破首相の狙い>

 一方、石破首相は現状の困難さを十分に認識した上で、したたかな戦術を駆使しようとしているように筆者の目には映る。

 石破首相は28日の会見で、今回の衆院選で議席を伸ばした政党の主張について「取り入れるべき点については取り入れることにちゅうちょしない」と発言。そうした手段を講じながら「意義のある経済対策、補正予算を実施していくことが必要だ」と語った。

 また、今の時点で新たな連立の枠組みを想定しているわけではないが、政策を協議していく過程での信頼感の醸成が重要になってくるとの見解も示した。

 

 <補正成立から本予算成立への道筋、部分連合への思惑か>

 つまり、能登半島の災害復旧などを含む24年度補正予算案の編成過程で、ある政党の主張を取り入れた政策を盛り込み、補正予算案と関連法案にその政党が賛成することになれば、それが信頼感の醸成につながる。その先にある2025年度予算案の編成でさらに大きな歩み寄りが可能になれば、25年度予算案の衆院通過や成立に大きなメドが立つことに発展し、そのこと自体が事実上の「部分連合」として機能する、との読みがあるのではないかと筆者は指摘したい。

 28日に国民の玉木代表は連合本部に芳野会長を訪ねた際、「良い政策があれば協力するし、だめなものはだめと言っていく」と芳野氏に伝えたという。

 

 <特別国会召集、先送りも 石破首相の狙いは何か>

 石破首相は28日の会見で、首相指名選挙を行う特別国会の召集をいつ行うのか、との質問に対し「憲法54条では(衆院選の)投票日から30日以内に開かれなければならない、とされており適切に判断する」と述べた。与党内では当初、11月7日に召集する案が検討されていたが、それにはこだわらないとの見解を示したとみられる。

 召集日を先送りすれば、それだけ政策で合意できる政党との話し合いの期間をより長く設定できる。今後の事を考えれば、特定の政党と政策合意の大枠ができて首相指名選挙に臨んだ方が、はるかにその後の政権運営が安定する。

 補正予算案の中身での新たな政党との合意は、石破政権の命運を決めると言っても言い過ぎではないだろう。

 実際、1994年の羽田内閣は、社会党が内閣発足前に連立を離脱して少数与党に転落。6月に内閣不信任決議案が可決される見通しとなり、戦後では2番目に短い64日で総辞職を迎えることになった。

 石破内閣における新たな政党との政策合意の重要性が、読者の皆様にもご理解いただけたかと思っている。

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衆院選開票速報の見どころ:与党過半数の行方占う注目選挙区はどこか

2024-10-25 14:13:12 | 政治

 内外の注目を集めている衆院選の投開票日が27日に迫ってきた。今回は複数の国内メディアが事前の予測報道で、自民党と公明党の連立与党で過半数の233議席を維持するのは微妙と伝えている。27日午後8時から出口調査の結果に基づいた推計獲得議席数を各テレビ局が一斉に速報するが、実際の開票作業はその時点から始まる。

 午後9時から10時にかけて、東北、北海道、北陸、中国、四国、九州など人口の少ない地域から当選確実者が明らかになっていく。その後、都市部での開票が進み、28日午前零時過ぎには与党で過半数を維持できるかどうかの見通しが立ってくると予想される。

 今回は、開票作業の進展にしたがってどの選挙区に注目するべきか、そこでの当落によって今回の衆院選での基調がどうなっていると判断できるのか、という点を説明し、少しでも早い時点で開票結果の「基調」が分かるように読者の皆様をご案内したいと考えている。

 今回の衆院選は、自民党から見ると「西高東低」となっており、東日本での激戦区での勝敗によって、単独過半数の233議席は確保できるのか、220議席程度の議席に減少するのか、それとも200議席まで減少するのかを推定できるように解説していきたい。

 

 <開票序盤の見どころ>

 

 1.東北

  青森1区(青森市など) 前回は自民候補が圧勝したが、今回は自民前職の津島淳氏と立憲元職の升田世喜男氏が接戦と伝えられている。もし、立憲が勝利すれば、自民党の過半数割れの可能性が高いと予想できる。

  青森3区(弘前市など) 前回は自民候補が立憲候補の2倍近い得票で圧勝したが、今回は立憲新人の岡田華子氏が自民前職の木村次郎氏をリードしていると報道されていた。立憲が勝てば自民党は220議席程度まで議席を減らす流れになっているとみるべきだろう。

  秋田1区(秋田市) 過去2回は自民候補が勝利している。今回は立憲前職の寺田学氏と自民前職の冨樫博之氏が互角の戦いとなっている。立憲が勝利すれば「躍進」の流れとみることができる。自民が勝てば終盤戦での盛り返しを象徴する選挙区となり、大敗を回避できるとの判断が浮上するかもしれない。

  宮城3区(白石市など) 前回は3万票超の差で自民候補が勝利した。今回は立憲新人の柳沢剛氏が自民前職の西村明宏氏に先行していると報道された。自民が敗れるようなら220議席の確保も危ぶまれる事態になりかねない。

  福島4区(いわき市など) 自民新顔の坂本竜太郎氏がやや優勢で立憲新人の斎藤裕喜氏が追う展開とされている。自民が勝利すれば立憲が優勢な福島県で踏みとどまったことになるが、もし、敗北するなら東北での自民劣勢を象徴する選挙区になるかもしれない。

 

 2.北陸・信越

 新潟5区(十日町市など) 立憲前職の梅谷守氏と自民前職の高鳥修一氏が接戦と伝えらえている。もし、自民が敗北すれば、新潟県内の1-5区で自民全敗・立憲全勝の可能性が高まり、自民は220議席の確保も危ぶまれることになりかねない。

 富山1区(富山市の一部) 自民が議席を死守してきた選挙区。今回は立憲新顔の山登志浩氏と自民前職の田畑裕明氏が互角の戦いとみられている。自民が議席を失えば、220議席程度への議席減が視野に入ってくる。

 長野5区(飯田市など) 過去2回とも自民が議席を獲得してきたが、自民前職の宮下一郎氏と立憲新顔の福田淳太氏が伯仲した戦いとされている。もし、立憲が勝利すれば躍進を象徴する選挙区となる一方、自民退潮が鮮明になるとも言える。

 

 <開票中盤のポイント>

 

 1.北海道

 北海道5区(札幌市の一部など) 前回は自民候補が当選し、立憲候補は比例復活できなかった。今回は立憲元職の池田真紀氏がやや優勢で、自民前職の和田義明氏が追う展開とされている。自民が巻き返せば、選挙戦終盤の追い上げの成果が出た選挙区となる。立憲が勝利すれば、全国的な支持拡大の流れの1つとみられるだろう。

 北海道10区(岩見沢市など) 公明党が道内唯一の小選挙区勝利を維持してきたが、今回は立憲前職の神谷裕氏が公明前職の稲津久氏を一歩リードしていると伝えられている。与党が議席を持ちこたえることができるのか注目されている。

 

 2.北関東

茨城6区(土浦市など) 過去2回は自民が議席を獲得している保守王国の選挙区。立憲前職の青山大人氏と自民前職の国光文乃氏が互角の激戦と報道されている。もし、自民が敗北するなら220議席の確保も危うくなるとみられるだろう。

栃木4区(小山市など) ここも自民が議席を堅持してきた。立憲前職の藤岡隆雄氏が元総務会長の自民前職佐藤勉氏に対してやや優勢と伝えられている。仮に立憲が勝利すれば、自民党にとっては手痛い敗北となってしまう。

群馬3区(太田市など) 前回は自民候補が立憲候補に2万票近い差をつけて当選した。今回は、自民前職の笹川博義氏が立憲元職の長谷川嘉一氏と接戦になっていると報道された。自民が大敗回避へ持ちこたえるのか注目されている。

 

 <開票終盤、与党過半数を見極める首都圏の選挙区>

 

 東京3区(品川区など) 自民前職の石原宏高氏と立憲新人の阿部裕美子氏が激しく競り合うとされている。自民が勝てば何とか220議席は維持できる可能性も出てくるが、立憲勝利のケースでは都区部での自民敗北の連鎖の可能性も生じかねず、200議席程度までの減少を覚悟する必要性が浮上するだろう。

 東京7区(港区、渋谷区) 3区と同様に自民の浮沈を占う選挙区になる。立憲元職の松尾明弘氏と自民新人の丸川珠代氏が互角の戦いと報道されている。自民が勝利すれば何とか220議席を確保できるかもしれないが、立憲が勝利するなら自民、公明での過半数獲得が困難という解説がテレビで行われている可能性がある。

 東京11区(板橋区南部) 無所属前職の下村博文氏と立憲元職の阿久津幸彦氏が接戦とされている。政治とカネの問題で注目されている選挙区の1つで、立憲が勝てば選挙報道の中でスポットが当たると予想される。敗北すれば、野党乱立の象徴選挙区として取り上げられそうだ。

 東京18区(武蔵野市など) 立憲新顔の松下玲子氏と自民新人の福田かおる氏が互角の激戦と報道された。多摩地区のトレンドを占う上で重要な選挙区で、自民が勝利すれば東京での大敗北を回避できる可能性が出てくるが、敗北するなら多摩地区でのドミノ倒し的な敗北の可能性も出てくる。

 東京24区(八王子市の一部) 無所属前職の萩生田光一氏と立憲新顔の有田芳生氏の伯仲した戦いが展開されていると報道されている。今回の衆院選で最も注目されている選挙区ともいえ、午前零時を過ぎても当落が判明していない可能性もある。

 神奈川20区(相模原市南区など) 立憲新人の大塚小百合氏と自民前職の甘利明氏が接戦と伝えられている。甘利氏は比例に重複立候補しておらず、背水の陣。都市部における自民党の勢いを図る選挙区とも言える。

 埼玉14区(草加市など) 党代表の公明前職、石井啓一氏と国民前職の鈴木義弘氏が接戦と報道されている。公明として負けられない選挙区となっているだけに注目されている。仮に国民前職が勝利するケースでは、自公で過半数割れという事態になっている可能性もある。

 千葉3区(市原市など) 官房長官を務めた自民前職の松野博一氏と立憲元職の岡島一正氏が激戦となっていると伝えられている。政治とカネの問題で有権者がどのような判断を下すのか、という点で注目されている。

 

 上記の首都圏での激戦区における当落が判明する28日午前1時ごろには、比例代表での獲得議席の大勢も判明し、自公で過半数を維持できるのか、それとも割り込むのかがはっきりしているだろう。

 その間に石破茂首相(自民党総裁)らに対するテレビ各社のインタビューも相次いで報道され、発言が速報メディアによって流され、28日の東京市場の行方を大きく左右することになる。

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