28日の東京市場で日経平均株価は一時、前日比1400円超の下落となり、3万6000円台まで水準を切り下げた。トランプ米大統領の関税をめぐる揺れ動く発言が市場心理を冷え込ませ、エヌビディアに代表される米ハイテク銘柄の下落には「米一強」が崩れるかもしれないという懸念が潜んでいる。
複数の市場筋によると、今回の日本株下落局面で売りを主導したのは個人投資家を含む国内勢で、サポートしたのは欧州勢だったという。不透明要因が多くなってきた中で、今後の国際的な金融・資本市場の動向に影響を与えそうなのは3月4日のトランプ大統領による施政方針演説だろう。ここで対中国の強硬政策をあらためて強調するようなら、市場のリスクオフ心理を強め、日米の株価は軟調に推移する可能性が高まる。
<28日は1100円の下げ、トランプ発言で振れやすく>
日経平均株価は前日比1100円67銭(2.88%)安の3万7155円50銭で取引を終えた。この日の下落に大きく影響したのは、米ハイテク株の先行き懸念、トランプ関税の不透明さ、国内個人投資家の利益確定売りの3つだったようだ。
米ハイテク銘柄の不透明さを示したのは、エヌビディア株の動きだ。好決算発表の翌日に8%も下落し、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)も急落。東京市場では、アドバンテストなどの半導体関連株の下げが目立った。ディープシークの登場以来、米ハイテクの巨人が独走するという「展望」は支持を失い、非常に大きな懸念が米ハイテク企業を包み込んでいるのではないか。
2つ目は、東京市場の参加者の心理に大きな打撃を与えたようだ。というのも、トランプ大統領は26日にカナダとメキシコへの関税措置はこれまでに表明してきた3⽉ではなく、4⽉2⽇に発動すると表明。一部の東京市場の参加者は、この発言を重視してトランプ関税に対する懸念は「過大」との見方を強めていたからだ。
ところが、トランプ大統領は27日、カナダとメキシコに対する関税を3月4日に発動し、中国にも同日に追加で10%の関税を課すとソーシャルメディアで表明。日本の自動車関連銘柄や対中ビジネスのウエートの高い企業の下落が特に目立つ展開となった。ここに至って「関税はディールの手段」という見方は砕け散ったようだ。
さらに新NISA(少額投資非課税制度)で運用している個人投資家の損失覚悟の売りや、金融株を保有している投資家の利益確定売りなどが株価の下落幅を大きくしたようだ。26日の当欄で指摘したように、日経平均株価が3万8000円を割り込んで新NISAでの運用益はかなりの部分が消えてしまった可能性があり、今後の株価を占う上で、個人投資家の動向は大きなポイントの1つとして浮上してきた。
<欧州勢の買い、円高期待も>
他方、複数の市場筋によると、このところ日本株を下値で物色しているのは欧州勢だという。トランプ大統領のドル安志向を察知した一部の欧州勢は、米国株の物色を手仕舞い、日本株の選好を強めているという。「消去法」的な選別との声も一部にあるが、日銀の利上げを見越した円高傾向が見込まれるため、利益を確保しやすいとの声も上がっているという。
このように足元では、日本株をめぐって国内勢の売りと欧州勢の買いが交錯する展開のようだ。日経平均株価がどこで下げ止まるのかに関しては、28日の安値の3万6800円近辺との見方と、そこを下抜けた場合は3万5000円台までの下落もあり得るとの見通しもある。
<注目される3月4日の施政方針演説>
今後の日本株を左右するのは、やはり米国株の動きであり、その背後に存在しているのはトランプ大統領の政策の不確実性だ。そこで注目されているのは3月4日の施政方針演説で、過激な対外政策を打ち出せば、市場のトランプ政策に対する不信感が増幅されることも予想される。
特に一部の市場関係者が注目しているのは、対中政策の方向性だ。関税を10%から20%に引き上げたことで、その水準がどこまで引き上げられるのか不透明感が増してきたという見方が増え、市場心理がリスクオフに傾きやすくなっている。
日本の半導体関連銘柄にとって、一段の対中半導体規制の強化は「売り」材料になる。トランプ大統領が意図的に採用しているともみえる予測可能性の低下を促す政策は、いよいよマーケットにとってリスク上昇要因として立ちはだかりそうだ。