一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

日本株下落に3つの要因、支える欧州勢の買い トランプ政策がリスクオフ刺激も

2025-02-28 15:10:59 | 経済

 28日の東京市場で日経平均株価は一時、前日比1400円超の下落となり、3万6000円台まで水準を切り下げた。トランプ米大統領の関税をめぐる揺れ動く発言が市場心理を冷え込ませ、エヌビディアに代表される米ハイテク銘柄の下落には「米一強」が崩れるかもしれないという懸念が潜んでいる。

 複数の市場筋によると、今回の日本株下落局面で売りを主導したのは個人投資家を含む国内勢で、サポートしたのは欧州勢だったという。不透明要因が多くなってきた中で、今後の国際的な金融・資本市場の動向に影響を与えそうなのは3月4日のトランプ大統領による施政方針演説だろう。ここで対中国の強硬政策をあらためて強調するようなら、市場のリスクオフ心理を強め、日米の株価は軟調に推移する可能性が高まる。

 

 <28日は1100円の下げ、トランプ発言で振れやすく>

 日経平均株価は前日比1100円67銭(2.88%)安の3万7155円50銭で取引を終えた。この日の下落に大きく影響したのは、米ハイテク株の先行き懸念、トランプ関税の不透明さ、国内個人投資家の利益確定売りの3つだったようだ。

 米ハイテク銘柄の不透明さを示したのは、エヌビディア株の動きだ。好決算発表の翌日に8%も下落し、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)も急落。東京市場では、アドバンテストなどの半導体関連株の下げが目立った。ディープシークの登場以来、米ハイテクの巨人が独走するという「展望」は支持を失い、非常に大きな懸念が米ハイテク企業を包み込んでいるのではないか。

 2つ目は、東京市場の参加者の心理に大きな打撃を与えたようだ。というのも、トランプ大統領は26日にカナダとメキシコへの関税措置はこれまでに表明してきた3⽉ではなく、4⽉2⽇に発動すると表明。一部の東京市場の参加者は、この発言を重視してトランプ関税に対する懸念は「過大」との見方を強めていたからだ。

 ところが、トランプ大統領は27日、カナダとメキシコに対する関税を3月4日に発動し、中国にも同日に追加で10%の関税を課すとソーシャルメディアで表明。日本の自動車関連銘柄や対中ビジネスのウエートの高い企業の下落が特に目立つ展開となった。ここに至って「関税はディールの手段」という見方は砕け散ったようだ。

 さらに新NISA(少額投資非課税制度)で運用している個人投資家の損失覚悟の売りや、金融株を保有している投資家の利益確定売りなどが株価の下落幅を大きくしたようだ。26日の当欄で指摘したように、日経平均株価が3万8000円を割り込んで新NISAでの運用益はかなりの部分が消えてしまった可能性があり、今後の株価を占う上で、個人投資家の動向は大きなポイントの1つとして浮上してきた。

 

 <欧州勢の買い、円高期待も>

 他方、複数の市場筋によると、このところ日本株を下値で物色しているのは欧州勢だという。トランプ大統領のドル安志向を察知した一部の欧州勢は、米国株の物色を手仕舞い、日本株の選好を強めているという。「消去法」的な選別との声も一部にあるが、日銀の利上げを見越した円高傾向が見込まれるため、利益を確保しやすいとの声も上がっているという。

 このように足元では、日本株をめぐって国内勢の売りと欧州勢の買いが交錯する展開のようだ。日経平均株価がどこで下げ止まるのかに関しては、28日の安値の3万6800円近辺との見方と、そこを下抜けた場合は3万5000円台までの下落もあり得るとの見通しもある。

 

 <注目される3月4日の施政方針演説>

 今後の日本株を左右するのは、やはり米国株の動きであり、その背後に存在しているのはトランプ大統領の政策の不確実性だ。そこで注目されているのは3月4日の施政方針演説で、過激な対外政策を打ち出せば、市場のトランプ政策に対する不信感が増幅されることも予想される。

 特に一部の市場関係者が注目しているのは、対中政策の方向性だ。関税を10%から20%に引き上げたことで、その水準がどこまで引き上げられるのか不透明感が増してきたという見方が増え、市場心理がリスクオフに傾きやすくなっている。

 日本の半導体関連銘柄にとって、一段の対中半導体規制の強化は「売り」材料になる。トランプ大統領が意図的に採用しているともみえる予測可能性の低下を促す政策は、いよいよマーケットにとってリスク上昇要因として立ちはだかりそうだ。

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国民民主突き放した自公、溜まる物価高への反感マグマ 参院選の波高し

2025-02-27 16:25:46 | 経済

 国民民主党が主張してきたいわゆる「103万円の壁」を178万円に引き上げる主張は、自民党と公明党の与党が拒否し、国民民主党は2025年度予算案に反対することになった。税の増収分などを除き明確な財源を示さなかった国民民主の主張には「赤字財政の拡大」に歯止めがかからなくなるという懸念が浮上したが、細かな所得制限を付けた与党案が広く国民の支持を得るのか、筆者は大いに疑問がある。

 足元で消費者物価指数(CPI)の総合は4.0%まで上昇し、「頻繁に購入する品目」は6.2%まで上がり、物価高の実感はコア(生鮮食品を除く総合)の3.2%を大きく上回っている。このまま物価高を放置すれば、石破茂政権への信任は大きく動揺し、今年7月の参院選で与党が敗北する可能性もある。主要7カ国(G7)の多くで与党が敗北している背景にあるのは、総じて「物価高」への反感だ。物価高への国民の反感を軽視すれば、参院選敗北による石破首相の退陣というシナリオの可能性が高まると予測する。

 

 <非課税枠の引き上げ、減収は1.2兆円 財政悪化と折り合い>

 与党案では、年収200万円以下を対象に所得税の非課税枠を160万円まで引き上げる。それ以上の所得階層については、200万円超ー475万円以下、475万円超ー665万円以下、665万円超ー850万円以下の3つに分け、それぞれ非課税枠を153万円、133万円、128万円に設定し、25-26年の特例措置とする、となっている。

 減収規模は1.2兆円と国民民主の主張する178万円への引き上げに必要な7-8兆円に比べて「エコノミー」な規模となり、財政赤字の膨張阻止との折り合いをつけた結果と言える。

 

 <所得制限で迷路に>

 だが、この与党案の内容を「そらんじて言える」与党議員は、税制調査会のメンバーぐらいではないか。あまりに複雑過ぎて、税制になじみのない一般の国民には理解が難しいと思われる。

 税は、簡素、公平、中立が大原則だが、迷路みたいな新しい仕組みは国民の共感を呼ばないだけでなく、今後のインフレ進行に伴う非課税枠のスライドというシステムも導入されず、筆者には「改悪」に映る。

 

 <手取り増が参院選の争点なら、与党苦戦も>

 今回の与党と国民民主の協議決裂には、国民民主側にも一定の責任があると指摘したい。立憲民主党が25年度予算案の修正要求の一環として、積み過ぎた基金を削減して別の歳出に振り向けると提案したが、このような具体的な財源確保のためのアプローチがあれば、事態は別の方向に動いたかもしれない。

 今年7月の参院選で、国民民主の玉木雄一郎代表(役職停止中)が目論む「手取りを増やす政策」とそれに反対の政党という「対立構図」がもし、出来上がるなら与党は大苦戦を強いられる可能性が高まる。

 

 <国民民主とれいわが支持率上昇>

 すでにその前兆は、各種の世論調査で見え隠れしている。国民民主が野党で最も高い支持率となっている世論調査が多く、中でも産経新聞が22-23日に実施した世論調査は注目を集めた。国民民主が9.8%と野党トップになっただけでなく、18-29歳では国民民主が18.9%と自民の11.8%を上回った。さらに30代で国民民主が15.9%、れいわ新選組が14.4%となり、自民は3位の11.2%にとどまった。

 注目されるのは、消費税の廃止を強く主張するれいわの伸長ぶりだ。消費税の廃止は、赤字財政をさらに悪化させることにつながると多くの識者が指摘し、少し前の世論調査では消費税廃止に賛成する声は少数派だった。ところが、ここにきて大幅な税収減が予想される国民民主の「手取り増」や消費税廃止を訴えるれいわに若い世代の支持が集まりつつある。この現象をどのように捉えるべきか──。

 

 <日常生活に近い物価、1月に6.2%上昇 エンゲル係数も43年ぶり高水準>

 筆者は、様々に存在する多様な要因の中から、物価高による生活へ悪影響を指摘したい。総務省は全国CPIの発表時に購入頻度別の物価の状況を公表しているが、1月CPIでは年間15回以上購入する「頻繁に購入する品目」が前年比プラス6.2%という大幅な上昇になった。

 582のモノ・サービスのうち、食パン、豚肉、牛乳、卵、キャベツ、レタスなどにガソリンや診療代など44品目が対象になっている。このような購入回数の多い商品やサービスの価格が、総合やコアなどを大きく上回っている実態は、生活面での圧迫をより感じさせることになる。

 2024年の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28.3%と43年ぶりの高水準となった。G7の中では最も高くなっており、食料品を中心とした生活に密着した品目の値上がりは、政権や与党への反発を生みやすい。

 

 <物価上振れリスク軽視なら、石破政権に「無策」の批判も>

 今年7月に予定されている参院選では、半数の124議席に東京選挙区の欠員1を加えた125議席を争うことになる。非改選の多い自民は公明と合わせて現有の66議席を下回る51議席を確保すれば、参院の過半数を維持できる。

 過半数が維持できれば、石破首相の政権続投が固まるとみられるが、足元における物価高への反発は、野党に支持が向きやすい地合いを作りつつある。先にも触れたように、国民民主やれいわのような財政支出の膨張に傾きやすい政党に支持が集まるようなら、前回の衆院選のように公示前に「予想外」と見られていた与党の過半数割れの可能性もゼロではないかもしれない。

 物価高への反発は、主要先進国で与党敗北の連鎖を生んでいる。その典型は米国でのトランプ大統領の再選だろう。

 物価高は、消費を抑制することで国内景気の停滞にもつながる。このまま、食料品価格の上昇を放置していけば、石破政権に対して「無策」という批判が噴出するかもしれない。物価の上振れリスクは政権のリスクでもあると指摘したい。

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東京市場での円売りにNISAの影、日経平均3万8000円割れで個人の投げは出るのか

2025-02-26 14:12:16 | 経済

 25日のNY市場で148円半ばまでドル安・円高が進んだドル/円は、26日の東京市場で149円半ばまで円安が進んだ。このところ、海外市場で進んだ円高が東京市場で円安方向に押し戻される傾向が続いている。その背景には、貿易実需の円売りのほかに新NISA(少額投資非課税制度)に絡む円売りがあるとの見方が広がっている。

 他方、米景気の後退懸念による米株軟調とその波及を受けた日本株下落は、新NISA投資を始めた投資家の心理を暗くさせている面がある。日経平均株価が3万8000円を割り込んだ場合、新NISAの投資家の相当部分が損失を抱えると言われており、3万8000円以下への下落が長期化した場合、個人投資家の投げ売りが出るのかどうかが1つのポイントになりそうだ。

 

 <東京市場で目立つ円売り、背景に新NISAの外株・投信買い>

 26日のドル/円は、一時、149.62円までドル高・円安方向に傾いた。複数の市場関係者によると、足元の東京市場では貿易実需のドル買い・円売り需要が根強くあるほか、新NISA関連のドル買い注文も断続的に出ているという。

 財務省によると、今年1月の投資信託委託会社などによる海外証券投資は1兆5541億円の買い越しだった。この多くは個人による新NISAによる外貨建て証券への投資とみられ、ドル買い・円売り需要が発生する。

 2月になっても同様のドル買い・円売り注文が継続して出ているとみられ、東京市場での円売り優勢地合いの大きな要因になっているとみられている。

 

 <個人投資家に暗雲、マグニフィセント・セブンが高値から10%下落>

 一方、新NISAに関連した外貨建て証券投資のうち、最も大きなウエートを占める米国株投資に関しては、投資家にとって心配のタネも出てきた。それは、ハイテク大手7社「マグニフィセント・セブン」の株価が2025年に入って調整色を強めてきた点だ。

 アップル、エヌビディア、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズ、テスラの7銘柄で構成される「ブルームバーグ・マグニフィセント・セブン指数」は25日、2.3%の下落となり、直近高値からの下落率が調整局面入りの目安である10%を超えた。ブルームバーグによると、この間に時価総額約1兆5000億ドル(約223兆円)が消えたという。

 日本の個人投資家のかなりの部分は、上記の「マグニフィセント・セブン」を盛り込んだ投資信託を購入しており、すでに投資運用の成績悪化に直面しているとみられる。

 

 <日経平均3万7000円接近なら、個人投資家の投げ売りも>

 そこに日本株の下落が加わると、新NISAで投資している個人投資家の懐を直撃する可能性がある。複数の市場関係者によると、日経平均株価が3万8000円を割り込むと、2024年から新NISAを始めた投資家のかなりの割合で損失が発生することになるという。

 金融庁によると、2024年12月末のNISA口座開設件数は2560万4058口座となり、前年比プラス20.5%(約436万件の増加)の大幅増だった。24年の新規買い付け額は17兆4485億円に達した。

 25日の日経平均株価は前日比95円42銭(0.25%)安の3万8142円37銭で取引を終えたが、取引時間中にはかなり長い時間帯で3万8000円を割り込んでおり、市場の一部では懸念の声も出た。もし、3万7000円ないし3万7000円割れという展開が近い将来に現実化すれば、新NISAの投資家による日本株買いが細ったり、解約が続出するということも想定できるからだ。

 

 <日経平均とドル/円、今年最初の大きな節目に>

 24日の当欄でトランプ関税の存在が米株安要因となり、リスクオフ心理の高まりで円高が進行すれば、日本株には「二重の重荷」になると指摘したが、25日の日経平均株価とドル/円は、早くもその想定が現実化してきたと言っていいだろう。

 ここからさらに日経平均株価が下落すれば、新NISAの投資家の中に動揺が発生し、相場に大きな影響を与える可能性も意識せざるを得なくなる。

 日経平均株価とドル/円は、今年最初の大きな節目を迎えようとしている。

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トランプ関税は米株安要因か、リスクオフ強まれば円高も 日本株に二重の重荷

2025-02-25 14:18:05 | 経済

 トランプ米大統領の政策に対するマーケットの疑心暗鬼が「米一強」の市場の構図を揺るがし、リスクオフ心理の高まりによる米株安・米長期金利低下を招くうねりが見え隠れしている。東京市場から見ると、米株安につれた日本株安に円高による日本株売りが重なって、米株を超える下落率になるリスクが高まっている。

 また、米政府効率化省(DOGE)を率いるイーロン・マスク氏が連邦政府職員を大幅に削減しようとしていることが、トランプ減税の実施を遂行するスタッフの削減にもつながり、市場参加者の一部からはトランプ政権への信認の低下がドル安・米株安につながりかねないとの懸念も出ている。

 

 <25日は半導体関連の下げ目立つ>

 3連休明けの25日の東京市場は、日経平均株価が一時、前週末比600円を超える下落となった。24日のNY市場でマイクロソフトがデータセンターの拡大路線を減速させているとの見方が広がり、ナスダックが1%超下落。東京市場でも半導体関連銘柄の下げが目立った。

 午後の取引では、トランプ政権が中国の半導体産業への規制強化を主要同盟国にも迫っている、とブルームバーグが報道したことが伝えられ、いったん買い戻された日経平均株価の下げ幅が拡大する場面もあり、前週末比539円15銭(1.39%)安の3万8237円79銭で取引を終えた。

 

 <底流にトランプ関税への警戒感>

 複数の市場関係者によると、上記の値動きの背景にはトランプ関税の実施後に予想される米個人消費の減退が米経済を「拡大から後退に転換させる」という懸念の広がりがあるという。言い換えれば、トランプ政策で「株価上昇」から「株価下落」の可能性を探り出したということのようだ。

 直近のデータで根拠とされたのは、1月米小売売上高と2月の米総合購買担当者景気指数(PMI)速報値だ。小売売上高は前月比マイナス0.9%と23年3月以来の大きな減少幅だった。総合PMIは50.4と、前月の52.7から低下。このうちサービスのPMIは49.7と、前月の52.9から大幅に低下し拡大と縮小の分岐点となる50を23年1月以来、約2年ぶりに下回った。

 小売売上高のマイナスは寒波やカリフォルニア州の山火事による影響が含まれ、サービスのPMIはトランプ関税がかかる前の駆け込みの反動という見方が出ている。

 とはいえ、トランプ関税が幅広い輸入品にかけられた場合、米消費の下押し要因になるとの専門家の見方は以前から根強く指摘されており、今回の弱いデータはその前兆との見方も少なくない。

 

 <インフレが米個人消費拡大の芽を摘むリスク>

 さらに米ミシガン大学が21日に発表した2月の消費者信頼感指数の確報値は64.7と、前月の71.7から低下しただけでなく、消費者の1年先の期待インフレ率は4.3%と、23年11月以来の高さに上昇。5年先の期待インフレ率は3.5%と1995年以来の高水準となった。

 インフレの進行が、これまで堅調だった米個人消費拡大の芽を摘むリスクを映し出した、とみた市場参加者が多くなり「トランプ政策への懸念がじわじわと出てきた」(国内金融機関)との指摘が目立ってきた。

  

 <リスクオフは円高の流れ>

 「トランプ関税は米景気にマイナス」というイメージは米長期金利にも反映され、24日のNY市場で2.2ベーシスポイント(bp)低下の4.398%で取引を終えた。米景気後退リスクへの懸念は市場心理を「リスクオフ」へと傾斜させ、それがドル/円におけるドル安・円高につながりやすくなっている。

 25日にブルームバーグが、トランプ政権は中国の半導体産業への規制強化を主要同盟国にも迫っていると伝え、リスクオフ心理が強まると、円買い注文が優勢になって149円半ばまでドル安・円高が進んだのは、その典型的な動きと言えるだろう。

 

 <マスク氏の連邦職員削減、トランプ関税実施の支障になる可能性>

 このように見てくると、トランプ関税は米株にマイナスとの見方が台頭し、それによってリスクオフ心理が一段と高まることによって円高が進みやすくなるという2つの要素によって、日本株は上値を抑えられるという構図が短期的には構築される可能性が高まっていると指摘したい。

 そこに、マスク氏の連邦政府職員の大幅削減という「大ナタ」が加わって、事態を一段と複雑化させる可能性がある。大幅なリストラでトランプ大統領の推進しようとする減税の拡大に財源のめどが立つというプラス面がある一方、専門性の高い職員も大幅に削減されることになれば、連邦政府の行政が大幅に停滞するリスクも高まる。

 最も影響を受けやすいのは、実はトランプ関税ではないか、との指摘が専門家の一部から出ている。たとえば、相互関税賦課の前提となる相手国の関税の実態や非関税障壁の調査を行うスタッフが、大幅に不足する事態が起きるのではないか、との見方が早くも浮上。大ナタを振るったら、誤まって自分の足を傷つけたということになりかねない、という懸念がささやかれている。

 

 <トランプ政権の信認低下なら、一段の円高も>

 こうした懸念の一部が、現実に発生した場合、トランプ政権に対する市場の信認が大きく低下し、米株やドルの下落につながる展開も心配されることになる。

 この事態は現在の市場心理から類推すると、リスクオフ心理の増大と映り、それが円高材料の1つに加わるということも十分にあり得ると指摘したい。

 この先の東京市場では、円高進行の可能性が市場の想定以上に高く、日本株の上昇にとって大きな障害になると予想する。

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1月CPI総合が4%上昇、目立つ食品値上げ 円安進展なら日銀判断に影響も

2025-02-21 11:44:56 | 経済

 総務省が21日に発表したした今年1月の全国消費者物価指数は、コメを含めた生鮮食品を除く食料が前年比プラス5.1%と大きく伸びた点が目立った。消費者の物価上昇の感覚に近いと言われている「持ち家の帰属家賃を除く総合」も同4.7%と大幅に上昇。日銀の植田和男総裁は今月12日の衆院財務金融委で食料品の値上げと期待物価上昇率との関係に言及しており、この点が今後のポイントの1つになると筆者は指摘したい。

 CPIの総合とコアCPIは今後、高止まりする可能性が高まっており、ドル高・円安が進むようなら物価の上振れリスクが顕在化することも予想され、物価上昇と利上げ時期の前倒しが今後の焦点として浮上すると予想する。

 

 <生鮮食品除く食料、前年比5.1%上昇>

 1月全国CPI(除く生鮮食品、コアCPI)が前年同月比プラス3.2%と市場予想の同3.1%を上回り、総合は同4.0%と2023年1月以来の4%台の伸び率となった。

 CPIの総合を大きく押し上げた要因の1つとして、生鮮野菜の値上がりが挙げられる。キャベツが約3倍、白菜が約2倍と値上がりし、生鮮野菜は同36.0%と大幅に上昇。生鮮食品全体で同21.9%の伸び。

 また、コメが同70.9%と過去最高の値上がりとなったため、生鮮食品を除く食料も同5.1%と大きく伸びた。

 

 <今年の食料品値上げ、前年比で9割増のペース>

 このように見てくると、足元の物価上昇は野菜やコメなどの値上げが主導しているように見えるが、輸入原材料などを使用した加工食品など「飲食料品」全般も値上げの大きなうねりが鮮明になっている。

 帝国データバンクが食品主要195社を対象にした価格調査を行ったところ、今年2月の飲食料品値上げは1656品目と前年2月を1.8%上回っており、2025年通年の累計値上げ品目数は8867品目と前年の同時期に比べて9割増のペースとなっており「値上げの勢いは、前年に比べて強まっている」と同社はみている。

 さらに値上げの理由として、原材料高に加えて物流費や人件費の上昇を挙げるメーカーが増加。単なる資源高や円安の影響だけでなく、2024年の高い賃上げや解消される人手不足などの影響が入り混じり、値上げの圧力が強まっていることをうかがわせている。

 また、価格高騰を抑制するために政府が3月から実施する備蓄米の放出も、1年以内の買い戻しが条件になっていることなどから、コメの値下がりの効果がどこまで出るのか不透明との見方が、コメの流通関係者から早くも出ている。

 

 <3月12日の春闘集中回答、前年並みの5%台なら物価押し上げに波及も>

 このような情勢の下で、コアCPIや総合はしばらく高止まりする可能性が高まっていると筆者は予想する。ここで注目されるのが今年の春闘における賃上げ率の動向だ。トランプ米大統領による自動車をはじめとする主要製品に対する関税の賦課は、日本に対しても実行されれば大きな景気下押し効果となる。

 自動車に25%の関税がかかればメーカー全体で3兆円規模の影響が出るとの試算もあるようだが、正式な米政府の発表が言われている通りに4月2日以降なら、3月12日の春闘における大企業・製造業の集中回答日の段階では、日本企業に対する影響が不透明なため、事前に報道されているように前年並みの5%台の賃上げ率に落ち着く公算が今のところ大きい。

 そうなれば、中小企業の賃上げ率も昨年並みになる可能性が高まり、それは各種の段階での製品やサービスの値上がりにつながって一段と物価を押し上げる要因になりうる。

 そこに為替面でのドル高・円安が進行した場合、19日の講演で日銀の高田創審議委員が言及したように物価上振れの可能性が出てくるだろう。

 物価上振れのリスクが顕在化するようなら、その手前で利上げの議論が本格化するのではないか、と筆者は予想する。

 

 <7月参院選前に物価高に神経質な政府・与党、利上げに賛成の可能性も>

 この時に注視が必要なのは、政府・与党のポジションだ。7月の参院選を前に物価高が国民生活の大きな焦点になっていた場合、参院選での与党苦戦が現実化することが予想される。

 足元での輸入物価を見ても、契約通貨ベースと円ベースではかい離が生じ、その部分は円安が効果を発揮しているのは一目瞭然だ。従来は日銀の利上げに「慎重な検討」を求めてきた政府とそのバックにいる与党が、物価高の抑制のために日銀の利上げ検討に「賛意」を示すことも十分にありえる。

 実際、1月の全国CPIで「持ち家の帰属家賃を除く総合」が前年比プラス4.7%と前月の同4.2%から跳ね上がったことは、政治的には「暗い予兆」と映るだろう。

 こうした点も利上げのタイミングが前倒しされる可能性を高める要因になると考える。

 

 <21日の植田総裁発言、長期金利上昇へのけん制との受け止めは市場の過剰反応か>

 さて、21日の東京市場でドル/円が149円前半から150円半ばまで急速にドル高・円安が進んだ場面があった。市場関係者によると、植田日銀総裁が同日の衆院予算委の質疑で、長期金利が例外的に急上昇すれば、機動的に国債買い入れを増額する、と発言したと伝えられ、足元における日本の長期金利の上昇を念頭に「けん制した」との思惑が広がったという。

 筆者は、この市場の動きは「過剰反応」だったのではないか、と指摘したい。植田総裁の発言をやや詳しく紹介すると「市場の経済物価情勢に対する見方や海外金利の変化等を映じて、長期金利はある程度変動することを考えている」と述べた上で「ただし、こうした市場の通常の動きとはやや異なるようなかたちで、長期金利が急激に上昇するようなやや例外的な状況においては、市場における安定的な金利形成を促す観点から、機能的に国債買い入れの増額等を実施する」と語った。

 植田総裁は「やや例外的な状況」において買い入れを増を行うべきと述べており、足元での長期金利上昇を差した発言ではない、と解釈できる。

 また、高田審議委員は19日の会見で、長期金利の動きに関して先行きの経済や物価の見通しを「普通に反映したものではないか」と述べている。

 いずれにしても、長期金利の動向とそれに対する政府・日銀の見解に関し、マーケットの関心が一段と高まるのは間違いないだろう

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