世界のマーケットの目は米経済の動向に集中し、米経済指標の結果で一喜一憂する展開が続いているが、世界第2位の経済大国・中国の景気変調が長期化する兆しを見せている。資産デフレの波及による消費不振が続く中で、若年層の失業率が高水準となり、社会不安のマグマが溜まるリスクも見え始めた。今年後半から来年にかけて経済の変調に改善の兆しが見えない場合、中国経済の低成長化が来年以降の大きなテーマになる可能性がある。
<中国の資産デフレ進行なら、日本経済にもマイナスの影響>
東京市場で重視される経済データは、圧倒的に米国発だ。米経済に失速懸念があると市場が判断すれば、米株安が日本株下落に波及。米長期金利の低下がドル安・円高に反映されて、このルートでも日本株下落の圧力がかかる。19日午後の東京市場で日経平均株価が前日比600円を超える下落を演じた要因として指摘されたのは、145円台に進んだ円高だった。
これに対し、中国の経済指標の発表でマーケットが大きく変動する可能性は大幅に下がる。だが、静かに「資産デフレ」の症状が進行しているとしたら、短期的なインパクトは小さいながら、中長期的には日本経済にとって大きな問題に発展するリスクを秘める。
<7月70都市不動産価格、66都市で前月比マイナス>
今月15日に中国国家統計局が発表した7月の中国70都市新築住宅価格は、全体の94%にあたる66都市で前月比マイナスとなった。下落は6月から2都市増えた。さらに需給動向をより反映していると言われる中古物件は67都市で下落した。
保有する不動産の価格下落は、消費者のマインドを悪化させて消費低迷へと波及するのは、日本のバブル崩壊の過程でも見られた風景だ。当局の消費財購入刺激策にもかかわらず、7月の中国小売売上高は前年比プラス2.7%と6月の同2.0%に続いて低い伸びにとどまった。品目別では、宝飾品が同マイナス10.4%、化粧品が同マイナス6.1%と嗜好品関連の落ち込みが目立った。
7月の中国鉱工業生産は同プラス5.1%と6月の同プラス5.3%から減速。自動車生産は電気自動車(EⅤ)が伸びたものの、全体では同マイナス2.4%と前年割れを記録した。
<若年層の失業率17.1%に、消費低迷に拍車>
さらに16日公表の7月の16-24歳の失業率は6月の13.2%から17.1%に跳ね上がった。当局は卒業シーズンと重なったことを理由に挙げているが、不動産価格の下落を起点にした資産デフレのマイナス効果で中国国内の消費者心理が悪化して消費が低迷。企業が設備投資と人員採用を抑制していることが根本的な原因と言える。
不動産価格の下落ー消費低迷ー生産抑制ー雇用・賃金のカットー消費低迷 という縮小均衡のスパイラルが作用し始めているなら、その大元にある不動産価格の下落を止めないと、不動産融資で不良債権が増大し、銀行の融資が積極性を欠いて金融システムが機能不全に陥るという「クレジットクランチ」に発展しかねない。
<19年ぶり銀行融資減、求められる適切な政策対応>
これもバブル崩壊の過程で日本が痛いほど経験してきた現象だが、中国でその兆候が見えてきている。13日に中国人民銀行が公表した7月末の人民元建て銀行融資残高(金融機関向けを除く)は、前月比で770億元(約1兆6000億円)の減少となった。これは2005年7月以来、19年ぶりの縮小だ。
早めの政策対応が必要だが、中国人民銀行による大幅な利下げは中国人民元の下落と資本の海外逃避(キャピタルフライト)を巻き起こす危険性があり、大胆な金融緩和には慎重なようだ。
また、不動産価格の下落を止めるための大規模な公的資金注入も検討されていない模様で、筆者の目からみると、あまり効果の上がらない消費刺激策にこだわって、みすみす有効な時間を失っているようにも見える。
若年層の失業率の上昇は、社会における不満を溜める要因になりかねず、本音では中国当局も神経をとがらせていると予想する。しかし、正鵠を射た政策対応が行われていないとの印象を免れない。
このまま中国当局が不動産価格の下落を放置した場合、消費の悪化と銀行の不良債権が急増するポイントが来年以降のどこかで発覚し、中国経済の成長力の鈍化と長期の経済低迷の可能性が明らかになるのではないか。
現実化してほしくないシナリオだが、2025年のどこかで世界マーケットの懸念材料として「チャイナリスク」が意識されるようなら、日本経済にとっても大きな重荷になる可能性がある。今年後半からは、中国経済のデータを入念に点検する必要がある。