アメリカメディアの教訓!!
デジタル化の波の中で、激変するアメリカのメディア業界。数々の新興ウェブメディアが台頭し、今やジャーナリズムと「起業」は、切っても切り離せない関係になっている。「アントレプレニュリアル(起業家)ジャーナリズム」教育の第一人者であり、ニューヨーク市立大学ジャーナリズム大学院教育担当ディレクターのジェレミー・キャプランが、早稲田大学にて講演を行った。約1時間の講演では、デジタル化するアメリカジャーナリズムから見える5つの教訓を、豊富な事例を基に解説した。その内容を要約して伝える。
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■1.何よりもデザインを優先する
数多くのウェブメディアが登場する中で、デザインの重要性はますます高まっている。ユーザーインターフェースを理解していないメディアは、どれほど美しいストーリーを語ったとしても、シェアされることはまれだろう。
Narrativelyは、2012年9月にローンチしたウェブメディアだ。スローガンは、「ニュースのサイクルをゆっくりに (slow down the news cycle)」。毎週異なるテーマを設定し、1日1本、そのテーマに沿った深いストーリー性のあるニュースを提供する。ウェブメディアにありがちな、1日の間に大量にポストするニュースメディアとは対極にあると言える。このメディアが成功している要因は、言うまでもなく洗練されたデザイン性だ。文字に写真やビデオを融合し、美しくシンプルなデザインを追求している。どこで、どのように、なぜ、そのストーリーが生まれたか、美しいイメージとともに紹介する。読む者に、テキストだけでは得られない感情を与えてくれる。
■2.とにかく実験する
A/Bテストのような科学的手法が一般的になった今日、ウェブメディアは実験することに何のためらいを持つ必要もなくなった。新しいストーリーの語り方、新しいアプリケーション、新しいアイデアを思いついたら、即座に実行するべきだ。
Texas Tribuneは、テキサスに拠点を構えるウェブメディアだ。わずか38人の社員が運営するこのメディアは、テキサス地域の情報を中心に発信するローカルメディアながら、ユニークビジター数55万人、年間450万ドルの売り上げを獲得する。注目すべきは、同サイトへのトラフィックの3分の1が、テキサス地方のデータを掲載するページに集まっていることだ。記者が書く文章と同じ以上の人気を、インタラクティブなデータの集まりから生み出している。これも、数多くの実験を経てたどり着いた戦略だ。
■3.ネット広告を再定義する
ユーザーは、もはや自分の関心のない広告を見ようとはしない。ユーザーが記事の選択権を持つのと同様に、広告の選択権を持っていることを、メディア側は正しく認識するべきだ。もちろん、ジャーナリストとして真実を追究することをやめてはならないが、広告をコンテンツにしていくことも、選択肢のひとつとして考えるべきだ。
BuzzFeedは、ソーシャルに重点をおいたウェブメディアだが、最大の特徴はネット広告を再定義しようと試みていることだ。単なる広告ではなく、企業イメージを基にしたコンテンツを作っている。たとえば、キヤノンのページでは、カメラの画像ではなく、美しい写真を掲載している。ユーザーは、美しい風景を見ようとリンクをクリックするが、実際は、キヤノンのパワーショットの性能を目の当たりにしているのだ。
老舗メディアのForbesも、デジタル化の中で大きく変革したメディアだ。その大きな変化のひとつは、記事を届ける主体を、メディアではなく読者であると再定義した点にある。現在、Forbesのウェブページでは、1日に約450の記事が投稿され、ソーシャルメディア上で6万5000回もシェアされている。そして、最大の変化は収入源だ。今や収入源の2割は、スポンサーによるコンテンツとなっている。
■4.キュレーションとアグリゲーションの価値が高まる
自らコンテンツを作らずとも、作られたコンテンツをキュレーション(収集)、アグリゲーション(集約)することで、新しい付加価値を生み出している。この傾向は確かに以前からあったが、デジタル化が進んだ今日では、何かひとつ独自の特徴を持ってキュレーション、アグリゲーションを行うことで、多くの人気を得ることができる。
Upworthyは、近年、最も急速に成長を続けるウェブキュレーションメディアだ。自分たちではコンテンツを作らず、既存のコンテンツに新しい見出しをつけパッケージ化する。フェイスブックのファン数は490万人を超え、月間8700万人のユニークビジターが訪れる。成長を支えるエンジンは、選別された見出しだ。つねにひとつのコンテンツに対し見出しを20以上作成し、その中から最も拡散力のある見出しをチームで選んでいる。メディアが乱立するウェブにおいて、キュレーションが重要な位置を占めていることを示す好例だ。
■5.ジャーナリストは起業家たれ
2020年、ジャーナリストに必要なスキルは、取材をし、原稿を書き、編集するだけでは不十分だ。新しいスキルが求められている。従来以上に、写真・ビデオ・音といったマルチメディアに精通していなければならない。ソーシャルメディア上でコミュニティを作り、時には自分でデータをデザインし、時には自分でプログラムを作ることも必要だろう。しかし何よりも重要なことは、ビジネスのことを理解し、起業家マインドを持ったジャーナリストとなることだ。
■次のトレンドはクラウドファンディングと自動記事作成
最後にキャプランは、これからのジャーナリズムのトレンドを述べる。
ひとつは、ジャーナリズムにおけるクラウドファンディングだ。Uncoverageは、調査報道資金専門のクラウドファンディングとして2013年12月初頭に企画され、現在、企画自体がクラウドファンディングを受けている。時間も費用もかかる調査報道も、クラウドファンディングによって支えられる仕組みが作られれば、記者が媒体に依存せず、調査活動に専念できる日が来るかもしれない。
もうひとつは、記事の自動作成だ。企業の決算報告やスポーツの試合結果など、数値が重要な情報の大部分を占める記事は、すでにコンピュータによって自動作成できる技術が開発されている。そのクオリティは、一見して人間の記者が書いたものと見間違えるほどだ。特にコンピュータが優れているのは、速報性だ。Los Angeles Timesでは、早朝5時に発生した地震の8分後に、コンピュータによる自動記事を掲載した。人間の記者にはまねできない芸当だ。数値として収集可能な情報をニュースとする場合、アルゴリズム記者による記事が主流になる日も近いかもしれない。