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身体の景色 (karada no keshiki)

六の宮の姫君6

六の宮の姫君3で「羅生門」と対比させ書いたが
今日は「往生絵巻」と比べてみたい


姫君は死の間際
乞食法師に「往生のため仏名を唱えなされ」と言われる
が 姫君は一心に唱えない
最後は成仏せぬ魂として描かれ 幕が下りる

「往生絵巻」は
殺戮を繰り返してきた男が
極楽浄土を望みただただ一心に仏名を唱え続ける物語なのだが
幕切れ 野垂れ死ぬ男の その死骸の口には白く美しい蓮華が咲く
この蓮華は言うまでもなく極楽浄土を成したことを示唆する

浄土信仰とはオソロシイ
姫君は兎にも角にも人を殺めてはおらぬ がしかし 仏名を唱えぬゆえ成仏できず
殺戮を繰り返してきたこの男は死に物狂いに仏名を唱え続けることで極楽浄土を成す

そんな馬鹿な…乱暴に過ぎる…
当時の浄土信仰の深みを知らぬ僕は愕然とする



六の宮の姫君5で「希薄な肉体」について書いた
その視点で書くと

姫君:
競争原理から乖離した
欲望のない肉体

男(往生絵巻):
競争原理を生き抜いた
欲望そのもの

と こうなる



「或旧友へ送る手記」の中で
芥川はこう書いている

『我々人間は人間獣である為に動物的に死を怖れてゐる。所謂生活力と云ふものは実は動物力の異名に過ぎない。僕も亦人間獣の一匹である。しかし食色にも倦あいた所を見ると、次第に動物力を失つてゐるであらう』

少し拡大解釈(乱暴な解釈)

我々は人間獣である為
死を怖れ
食色に興じ
愛憎を繰り返し
コロシアイ(戦争)をやめぬ

動物力を失ったら
大切なたくさんのものを失ってしまうであろう
が しかし 少なくとも

コロシアイ(戦争)は無くなり
死も怖ろしくなくなる…
そして 往生さえ 超越した地点へ 辿り着く

これは姫君

しかしこの姫君の魂の在り方に対し
芥川はこう締めくくる

極楽も地獄も知らぬ不甲斐ない女の魂である


不甲斐ない…か…

うん
こう考えてくると確かに
生きることを放棄したのだから
そう言わねば
生きることを拒否することを肯定することになってしまう

しかし
どうなのだろう

姫君と
往生絵巻の男は
両極にあり

どっちが良いも悪いも
言えぬという気がする

坂口安吾がこう書いていたなぁ
(うろ覚え しかしこういう趣旨のことを書いていた)

その暗闇の中に誰一人盗む者はなく殺す者はなく
それは 間の抜けた平和であった
それがニンゲンと言えようか
我々はニンゲンでさえなかったのだ
欲しいものを 殺してでも奪おうと言うのがニンゲンである

ふむ…

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