新型コロナの流行が始まった頃に本屋さんで見かけて買った『疾病と世界史』
ウィリアム・H/マクニール著 佐々木昭夫訳
この本は1970年代に書かれた本です。
この頃の世界の流れとしては、種痘によって世界から天然痘が撲滅された頃で、もはや感染症は人類の敵ではなくなったと思われていた時でした。
その時に、この著者であるマクニールさんは、歴史に感染症が影響を受けている、というだけでなく、むしろ感染症ありきの歴史であるということをこの本で書いています。
この本を出した後に、1980年代に人類を恐れさせた新しい感染症であるエイズが見つかりました。
私の読んだこの文庫本の最初に、マクニールさんの再販の際のエイズに言及する部分で、まだ感染症との戦いは終わっていないでしょ?ということが書かれていました。
そして、さらにその後には、BSE(いわゆる狂牛病)が発生して、全く新しい感染症として、畜産のあり方や命の問題を反省させられる事になりました。
寄生虫、細菌、ウィルス、など既存の感染症ではなく、異常プリオンタンパクというタンパク質によって感染が起こり、そのタンパクは熱によっても壊されないって、全く未知なものでした。
草食動物である牛の肉を効率的につけさせるために、牛自身の肉骨粉を与えた事により、自然の摂理を無視してしまった事で起こったと考えられるBSEは、私には新しいウィルスよりもずっと怖い存在に思えました。
エイズも治療法が発見されて、死を待つ病気ではなくなり、BSEは牛の飼育方法を変え、汚染された肉骨粉を排除したために、今は落ち着いています。
しかし、この『疾病と歴史』を読むと、これまでの都市や国の繁栄、人口の増加は政治的、産業的な要因と同じくらいミクロ寄生と著者が呼んでいる感染症との関係が深かったのだなと思えました。
最も古くからは暖かく湿度の高い地域では寄生虫や細菌が多く存在していて、多くの人類の寿命を短くしていた。
ずっとそこに住み続けていると、免疫が出てきて少し対抗できるようになるけれど、新しく入ってくる人は多く倒れるので、人口の増加が抑えられてしまう。
一つの病気が発生すると、猛威をふるった後に生き残った人達は免疫を獲得するので、次にその病気が発生すると免疫のない子供だけがかかりやすくなる。
それが小児病と言われるようになり、例えば麻疹やおたふく風邪、昇降熱どがそれにあたるそうです。
インドのカースト制度も、根源的には土着の免疫のある人々からの感染を嫌った後から侵入した支配階層による分離政策ではないかという仮説には、なるほどそういう理由もあったかもしれないなと思いました。
インドのように高温多湿の地域では様々な寄生虫、細菌などの感染症が多く存在しているという事は今でも同様ですから。
このようにこの本は、人類の誕生から、近代までの歴史を辿りながら、感染症との関係を丹念に検証しています。
アメリカ大陸に渡ったスペイン人がそれまでに帝国を築いていたネイティブの人々を呆気なく征服したのは、武力ではなく感染症のためだったというのは有名な話です。
免疫の無い人々が新しい感染症にあった時に、どんなに致死的なものになるかが壮大で悲劇的な出来事として起こってしまったのが、(ヨーロッパから見た)新大陸発見であったという事です。
また、全世界的に猛威をふるったペストについても詳しく書かれています。
ずいぶん以前に書かれた本でしたが、とても興味深かったです。
感染症は克服されたと思われていた1970年代にこの本を書いた著者はすごいなとお思うのと同時に、やはり生き物としての人間はいつの時代も未知の新しい感染症からは完全に逃げる事はできないのではないかなと改めて思いました。
寄生虫は駆虫薬、細菌は抗生物質の発見で、すべてでないにしろ克服されてきましたが、ウィルスはその構造上変化しやすく、薬も効きにくいために、新型コロナだけでなくこれからも新しいものが広がる恐れはあると考えられます。
そして、グローバル化された現代だから世界中に広がったと言われていますが、スピードは違うにしろ、昔から感染症はいろいろなルートで世界中に広がり、多くの地域で人口の4分の1とか半分とかが失われてきたということが書かれています。
もちろん今の新型コロナウィルスの流行は大変なことですが、今に始まったことではないし、どれだけ文明が進んでも自然の一部である人類という事に変わりはないんだなと、なんだか考えさせられた本でした。
新型コロナの流行がなければ、この本はきっと読まなかったと思うので、ウィルスのおかげで新しいお勉強させてもらいました😅