時折、ビッ ビッと大きな地鳴きと共に目の前をカワガラスが横切る 岩の上に止まりこちらを見ながら尾を上下させまた飛び去っていく
軽いめまいに近くにある白く平らな岩に腰を下ろす ロッドを置き岩の上で仰向けになり空を見つめる
白い雲が幾度となくかたちを変えながら流れている
いろいろな思いが私の心の中で葛藤している
田舎に帰り自由気ままに一人で暮らそうか・・・
それともここで死を待ちこの水の流れに乗って人の生まれた海に帰るのも悪くない
もう陽は西に傾きかけている しかし戻る気力などすでに失っていた
ふと川面に微かなライズを見た 無意識のうちにロッドを手に取り、フライをエルクヘアカディスに替えフロータントを染み込ませる
這うようにして近づき、ライズのあった少し上手にフライを落とす
フライは流れに乗りライズのあった所を過ぎようとしていた「やはりだめか・・」
ピックアップしようとしたその瞬間、ライズ! ロッドに伝わる魚信 慎重に寄せ7寸程の渓魚を手に乗せる
岩魚だ・・・
白い斑紋に朱色の腹 居付きの岩魚だろうか
冷たい水の流れにつけたまま岩魚を手にしばしその姿を見つめる
突然と私の目から零れた何かは手にしていた岩魚へと落ちる そして止め処なく出る涙
「バカだ!」 「なんてバカなんだ!」
私の悩み苦しむ姿を見て妻も苦しんでいたに違いない せめて自分だけでも明るく振る舞おうといつもより増して私に話しかけていたのだ
そうだった 私が苦しく悩んでいる時いつも私の側で明るく接し、そして励ましてくれたじゃないか・・・
「帰ろう」
岩魚を流れに戻しロッドを仕舞う もう薄暗くなりつつある沢を走るように戻る
何度つまづきそして川に転倒しずぶ濡れになったか分からない
車に着いた時はすでに周りは暗闇の中 風が吹き木々がざわめく 急にここに一人でいる事が恐ろしくなり ウエーダーを脱ぎ濡れたままの姿で車に乗り込みエンジンをかける
寒さと恐怖からか、震える手でタバコに火を付ける 突然暗闇に青白い閃光が走る 大きな雷鳴がとどろき雨がフロントガラスを濡らしはじめた
つづく
軽いめまいに近くにある白く平らな岩に腰を下ろす ロッドを置き岩の上で仰向けになり空を見つめる
白い雲が幾度となくかたちを変えながら流れている
いろいろな思いが私の心の中で葛藤している
田舎に帰り自由気ままに一人で暮らそうか・・・
それともここで死を待ちこの水の流れに乗って人の生まれた海に帰るのも悪くない
もう陽は西に傾きかけている しかし戻る気力などすでに失っていた
ふと川面に微かなライズを見た 無意識のうちにロッドを手に取り、フライをエルクヘアカディスに替えフロータントを染み込ませる
這うようにして近づき、ライズのあった少し上手にフライを落とす
フライは流れに乗りライズのあった所を過ぎようとしていた「やはりだめか・・」
ピックアップしようとしたその瞬間、ライズ! ロッドに伝わる魚信 慎重に寄せ7寸程の渓魚を手に乗せる
岩魚だ・・・
白い斑紋に朱色の腹 居付きの岩魚だろうか
冷たい水の流れにつけたまま岩魚を手にしばしその姿を見つめる
突然と私の目から零れた何かは手にしていた岩魚へと落ちる そして止め処なく出る涙
「バカだ!」 「なんてバカなんだ!」
私の悩み苦しむ姿を見て妻も苦しんでいたに違いない せめて自分だけでも明るく振る舞おうといつもより増して私に話しかけていたのだ
そうだった 私が苦しく悩んでいる時いつも私の側で明るく接し、そして励ましてくれたじゃないか・・・
「帰ろう」
岩魚を流れに戻しロッドを仕舞う もう薄暗くなりつつある沢を走るように戻る
何度つまづきそして川に転倒しずぶ濡れになったか分からない
車に着いた時はすでに周りは暗闇の中 風が吹き木々がざわめく 急にここに一人でいる事が恐ろしくなり ウエーダーを脱ぎ濡れたままの姿で車に乗り込みエンジンをかける
寒さと恐怖からか、震える手でタバコに火を付ける 突然暗闇に青白い閃光が走る 大きな雷鳴がとどろき雨がフロントガラスを濡らしはじめた
つづく