すべての日本人の方に読んでいただきたいと思い、経済人類学者の湯浅赳男著『世界地図で読む五大国の興亡 時代を読む鍵 大国興亡の原理を探る』(日芸新書、平成13年12月20日発行、現在は絶版です。)の「はじめにー21世紀に生き残る日本の選択」を次に転記します
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www.bk1.co.jp/product/2107400
日本人の人口が減少して、わが国の行く末を憂慮されている方も多いでしょうが、私はまったくそのことについては心配していません。もちろん、人口減少に伴う経済活動の停滞が様々な分野に悪影響を及ぼすことは、私にも理解できます。
しかし、民族にとって、もっとも大切なことは、言語です。言語を失った民族は、“民族”と呼ぶことはできないのです。ですから、離散していたユダヤ人は、イスラエル建国以前にヘブライ語を復活しました。この事実を考えていただければ、ご理解していただけると思います。
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ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%A4%E8%AA%9E
この日本列島に1億2千万人を養う面積と資源はありません。現在の食料自給率、エネルギー自給率をいくら高めても、素人判断でも不可能と言えるでしょう。現在それが維持できているのは、パクス・アメリカーナの下で、多くの先人の努力によって、日本の工業製品に国際競争力があるだけのことだと思うのです。
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www.slowtown.jp/slow-town/sengen.html
ですから、日本と日本民族を憂えるならば、日本語を世界に普及すればいいのです。モンゴルやカンボジア等に日本語教師を派遣し、書籍を寄贈し、相互の経済交流を活発化すればいいだけのことです。わが国の財政力からすれば、そのようなことは容易なことでしょう。ところで、マイナーな書籍になりますが、最近に刊行されたものとして、水戸地裁判事の岡口基一著『要件事実マニュアル 上・下巻』(ぎょうせい、平成17年12月10日発行)を日本の小説、自然科学書、社会科学書、訳書等に含めて配布すればよいのです。同書については、本題から外れますが、日本における裁判実務の水準を示したものと思われます。
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www.gyosei.co.jp/shinkan/search.cgi?BOOKNUM=2&VAL=Data/sin012.txt
「はじめにー21世紀に生き残る日本の選択
21世紀は大激動の時代である、と言いかけたら、同時テロが始まった。
人類はこれから大変な時代をくぐらなけらばならない。9月11日の事件はその第一発にほかならない。これからさまざまな事件がおこるだろう。それをあえて整理すると、文明間の対立と国家間の対立の二つに由来するものとなろう。世界には近代文明の物質的=技術的側面は受け入れながらも、精神的=心情的側面では嫌っている文明がいくつもある。いま立ちあがっているのがイスラームだが、彼らの国益の立場から世界的全面戦争に発展するのがからくも抑えられている。しかも、近代=欧米文化にいつかは挑戦して、世界大国になろうと、いまはアメリカに頭をさげて、技術やドルを吸収している国がある。それが内心では中華思想を頑として抱いている中国である。この国には不法入国をたれ流す巨大な人口という武器がある。
近代文明、その覇権国アメリカと世界制覇の夢を胸に今は金儲けに徹している中国の国に挟まれているのは日本である。日本は21世紀にこの米中ニ大国に翻弄されるだろう。この中で日本は近代=欧米文明を同盟軍とすべきで、絶対に中国と同盟してアメリカに対抗しようとしてはならない。日本に対する米中同盟がもう一度成立したとき、日本は滅亡の淵に落とされることは本書が歴史的に明らかにしたことだ。同文同種といった甘言に絶対にのせられてはいけない。
もちろん、欧米も親切心で日本と同盟するのではない。もっと野心的な敵と対抗するために日本を利用しているだけだ。日本が浮かれて1980年代のバブルのような思い上った態度をとれば、ストンと落とされて、身ぐるみはがされることだろう。それがグローバル化した国際経済の苛烈さである。とりわけ21世紀は人類が100億を突破するのである。この凄まじい人口爆発は国際関係の最深部にあって、世界を動かしているマグマである。それはまだ見えにくい。しかし、眼に見えるようになった時には、現実に断末魔の状況に落ち込んでいるのである。
日本は22世紀まで生き残りたかったら、この未来をしかと見抜き、対策を準備しておかなければならない。短期的のみならず長期的な危機管理が必要である。人類を取りまく環境も人類内部の対立関係もいずれも容易ならぬものがある。現実はきびしいのである。絶対平和主義の呪文をとなえれば人類に平和がやってくるわけではない。天使と悪魔の間に張られた一本の紐である人間は現実から眼をそむけ、呪文をとなえるのではなく、苛烈な現実を的確に見つめなければならない。本書がそのためのヒントとなるならば、著者としての喜びこれにすぐるものはない。
2001年10月31日
湯浅赳男」