カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

携帯電話にミニスカート、でも「処女も大切!」

2007年03月07日 16時10分03秒 | カンボジアの子ども
―神聖化される少女の純潔―

中川香須美です。急激な発展を遂げる首都プノンペンで生活する人も、「女性が結婚まで性交渉を持たないか否かが、女性の価値を決定する上で重要だ」との固定概念を抱いているかどうかについて、わたしが大学で担当するジェンダー学の1コマの課題として意識調査を実施しました(対象者数620名)。学生たちは、「独身女性にとって処女は重要か」という題目で、男子学生は男性のみを対象に、女子学生は女性のみを調査対象として個別インタビューをしてもらいました(対象者は18-65歳前後)。インタビューを終えた後、ほとんどの学生が私に対して、「誰もが恥ずかしがってちゃんと回答してくれなかったから大変だった!」「なんでそんなこと聞くの!って年配の女性に怒られて恥ずかしかった!」などの感想を言っていました。ジェンダー学の授業の中で「未婚女性の処女は大事か否か」という話題は、大半の学生が居眠りから覚めるくらい「大好き」なトピックです。他方、教室から一旦でると羞恥心がわくのか、社会的タブーに触れていると思ったのか、ほとんどの学生が苦労して回答者を探したようです。

調査結果は、ほぼ予想通りでした。まず女性の回答者は、20歳以下は独身女性の「処女性」に対する信仰が多少低いものの(8割以下)、全体では85パーセントの女性回答者が「結婚まで性体験をしないことは非常に重要」と回答しています。他方、男性側は7割程度です。以下、回答者の発言内容のまま、どういった意見があったか紹介します。女性からの回答では、「結婚前に男性と関係を持ってしまった後の人生なんて考えられない(独身女性の回答)」、「女性の重要な美徳は、最初の性体験の相手は夫、そして結婚後は夫だけに尽くすこと」、「女性の価値は結婚まで性体験を持たないか否かによって決まる」など、「結婚まで処女」である点が女性の将来を左右する重要な鍵だという発想が多くみられます。男性側の回答では、「独身なのに性体験を持ってしまった女性は、家名を傷つける」「もし妻が結婚前に他の男と付き合っていた経験があれば、きっと結婚しても幸福な家庭を築けない」、「妻が処女であったら、夫は妻を大切にして家庭の幸福を守ろうとし、家事も手伝う良い夫となる」など、家名や家族の安泰に焦点を当てた回答が多いのです。また、女性が結婚まで性体験を持たない点が大切だと主張する男性の発言には、「結婚前に性体験を持つという『過ち』を犯してしまったら、エイズ感染の可能性が高まる」という意見すらありました。

この課題では、男性の性体験に対する意識調査も実施し、「男性が結婚まで性体験をしないことは重要か」という質問が問われました。この質問に対しては、ほとんど全員の回答者が「問題ない」と答えています。女性側からの回答では、「男性は強い性的欲望を持つ」、「性欲をコントロールできない」、「妊娠の心配がないから」、「妻1人だけでは満足しない男性が多い」など、男性が結婚以前に性体験を持つ点を当然とみなす意見だけはでなく、男性が複数のパートナーを持つことを容認する発言が多くみられます。また男性側からの意見では、「男性はセックスしないとストレスがたまって健康を害するため、セックス・ワーカーからサービスを買うことが当然の権利」、「友達と飲んだ後、セックス・ワーカーを買いに行こうと誘われて断れなかった(その結果性体験をした男性の回答)」あるいは、「結婚して妻を喜ばせるために経験をつんでおくことが重要」などの回答が多くありました。

ステレオタイプ的な「女性の処女が重要」という考え方は、少女達が幼少期から植え付けられ、自分達も「そうでなければいけない」と思い込まされています。独身女性の価値が「処女か否か」で決まるような古い考えは、今でも幅広く根付いており、少女達が成長したときの性的自由を奪うことにもつながっています。男性は性的な自由を楽しむ一方で、女性は自己の性をコントロールされる一生を送ります。伝統、文化、社会的習慣など、さまざまな理由によって、少女は小さい頃から男性に逆らうことなどとても考えられないように育てられているのです。さらに、こういったステレオタイプ的な考え方は、レイプや人身売買の被害にあった少女たちが「自分はもう価値がない人間なのだ」と思ってしまう点にあります。「少女はこうあるべき」という固定観念によって、被害にあった少女が自分の両親や地域の人たちからも軽蔑されたり差別され、少女たちが自分の力で生きていこうとする際の大きな障害になるのです。

写真はカンボジアの結婚式。本文とは一切関係がありません。撮影:井伊誠さん。

少女たちをエンパワーするために
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