カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

農村女性のエンパワーメントと娘たちの通学 ~牛を支給されて

2007年12月10日 21時51分17秒 | 人身売買防止プロジェクト(収入向上)




こんにちは。カンボジアの中川香須美です。国際子ども権利センターの代表甲斐田万智子さん、プノンペン事務所の近藤千晶さんといっしょに、三日間スバイリエンで活動地訪問をしましたので報告します。


今回の訪問では、国際子ども権利センターが支援する貧困家庭の収入向上プログラムの支援を受け、メス牛を支給されて育てている家庭を訪問しました。牛を支給されている家庭は現在合計10家庭あります。原則として、現在就学している女子生徒がいる貧しい家庭を対象として牛を支援しています。その背景には、貧困のために学校をやめてしまう女子生徒が後を絶たないため、牛を支給することによって将来収入がある程度確保され(子牛が生まれれば販売可能。一頭は返却)、少女たちが学校をやめなくてすむというねらいがあります。さらには、牛をもらうことで、母親や子どもたちが牛の生命だけでなく、権利センターに対しても責任感を持つことにつながっています。自分たちの日常生活を、娘を縫製工場などに出稼ぎに出さなくても自立して運営できるように母親をエンパワーメントしていくことも大きな成果として現れています。

訪問家庭のラック・チエットさんは、夫と一緒に5人の娘を育てている女性です。2007年11月に読売新聞の取材を受け、娘二人が牛と遊んでいる写真が大々的に日本にも紹介されました(http://www.yomiuri.co.jp/zoomup/zo_071114_01.htm?from=os1)現在就学年齢に達したばかりの奨学生の娘がいますが、学校に通うのに家から3キロくらい歩かないといけないので、まだ幼い娘はとても大変だそうです。また、最近まで通っていた学校は、1教室に60人以上生徒が学んでいて環境が悪かったため、他のそれほど混んでいない小学校に転校したばかりです。チエットさんの住むチャントリア郡(郡はスロックと呼ばれる地方行政単位)には、今年やっと高校が一校開校したばかりですが、子どもたちが高等教育を受けられる可能性が出来たのはとても大きな発展です。


チエットさん自身は3年生までしか学校に通えませんでした。父親がすでに亡くなっていて、母親が重い病気になったためです。結局母親は亡くなり、彼女はそのまま学校には戻れませんでした。現在の生活は苦しく、今ちょうど稲刈りの時期なので娘二人と自分で稲刈りの仕事をして現金収入を得ていますが、一人あたり一日200円程度の収入しかありません。夫は、野菜作りのための耕作をしています。数年前、家計が苦しくなった時、ほんのわずかな額で所有していた土地を販売してしまい、今は自宅周辺にしか土地をもっていません。でも、「もしあの時土地を売り払っていなければ、生活に困って娘を縫製工場に出稼ぎに出していたはず」とチエットさんは言います。


長女のムー・マラエさんは、現在18歳、中学2年生で勉強中です。「試験に落ちて通えなくなるまでずっと学校をやめずに学業を続けたい」という希望を持っています。でも、両親を助けるために、今は稲刈りの日雇い仕事をしていて、学校から3日間のお休みをもらっています。両親がけんかしているときなどは、「他の家の人にはずかしいから、けんかをやめて」と自分から意見を言うそうです。これは、親に盲目的に従う教育を受けているカンボジアの子どもとしては、とても珍しいことです


一頭の牛を貸し出すことで、家畜を世話するという責任感を得た子どもたちが明るく自立しはじめ、それにつられて親も前向きに生きていこうという姿勢が生家畜を世話するという責任感を得た子どもたちが明るく自立しはじめ、それにつられて親も前向きに生きていこうという姿勢が生まれます。貧困の中で娘を出稼ぎに送ってしまう家庭が当たり前の地域で、こうして考え方を変えて娘に教育の機会を与え続ける家庭が増えていくといいと思います。


貧困の中でも前向きに生きている少女たちが学校に通いつづけられるよう、
国際子ども権利センターの会員になって活動を支えてください!


http://jicrc/pc/member/index.html

写真は、牛の支援を受けたチエットさんと娘たち