僕は1967年生まれ、もうすぐ37歳になる。
同じ1967年生まれの男が目の前の鮮やかな緑の芝の上を走っている。
そのしなやかな体のキレや走り出すスピードは半分ほどの年齢の選手にも負けていない。
カズは美しく激しくピッチ上でボールと戯れる。
主力4人を欠く鹿島、神戸も2人が出場停止中
キックオフ直後から神戸が攻勢をかける展開が続く。
中盤でのチェックが機能している。
高い位置でボールを奪うと一斉に神戸の選手が有機的に動く。
特に播戸とカズのツートップの動きがすばらしく
前半何度も鹿島ゴールに迫った。
一方鹿島はボールの収めドコロを見つけられずにいた。
ボランチから前に進めないでいる。
タメが作れないからサイドの上がりもほとんど見られない。
迷っていると神戸の積極的なチェックに合い中盤でボールを奪われる。
皮肉にも小笠原や本山の存在感が際立つ展開となった。
ゴールは時間の問題だと思えるほどに今日の神戸は出来がいい。
ホージェルがボールをキープ、
ホルヴィにボールが渡るとエサを欲しがるヒナ鳥のように選手達が一斉に動き出す。
そして問題の時間は前半31分に訪れた。
ペナルティエリアでディフェンスをひきつけ粘った播戸が中央に出したボールは
走りこんでいたカズの足元にピタリ。
カズはまるで練習でもしているかのように落ち着いてゴールに流し込んだ。
どぉぉっ!
ほんの一瞬の間をおいてどう頑張っても文字では表現できない音がスタジアムを包み込む
スタンド全体が揺れる。
誇り高き37歳に僕も立ち上がってありったけの声援と拍手を送った。
スタジアムが宙に浮いているようなざわめきの中
いかにも神戸らしい展開が待っていた。
一瞬の気の緩みか…
ゴールからわずか2分後バロンにペナルティエリアへの侵入を許してしまう。
あわてたディフェンダーが思わず倒してPK。
今度も文字では表現できないようなため息にスタジアムが沈む。
その後バロンが2枚目のイエローで退場となり
前半はそのまま1-1で終えた。
本当にあっと言う間の45分。
チーちゃんもMくんも興奮気味で
チーちゃんは封を開けたお菓子を食べるのを忘れていたほどだった。
「どうだった?」僕が聞くと
Mくんは「スゴイ!面白い!」と答え
チーちゃんは「サッカーより応援の方が面白いわ」と言った(笑)
後半開始早々は鹿島の時間。
10人になった事で攻撃がはっきりしてきた。
DFやボランチから長いボールで快速FW深井を走らせる。
深井は本当に小さいけれどものすごく速い!
対角線に大きく蹴られたボールを神戸ディフェンダーと追いかけっこするのだが
それにことごとく勝つのだ。
面白い!
今後が楽しみな選手だ。
深井が前でボールを持つ事でほかの選手に上がる余裕ができた。
さすがにそうなった時の鹿島の攻撃は迫力がある。
しかし、神戸のディフェンス陣も今日は粘り強く守る。
攻め込まれている時間帯に神戸は2点目をものにする。
播戸が得意のドリブルで右サイドからペナルティエリアに切れ込む
鹿島ディフェンスは止めきれず思わずユニフォームを掴んだ。
播戸のPKに神戸サポの誰もがドキドキしていたに違いない(笑)
祈るような緊張に包まれたゴール裏のサポーターをあざ笑うかのように
播戸はボールをふわりと浮かせた。

うぉぉーっ!
安堵と興奮にこれでもかというくらい旗を振るサポーター。
しかしその興奮も長くは続かなかった。
またしてもゴール直後にPKを与えてしまった。
しかし、今度はため息ではなく歓喜の声がスタジアムを包んだ。
スコアは2-1のままだったからだ。
その後も神戸の攻勢は変わらず。
照明に照らされた芝の緑の美しさに目を配る余裕もできた。
ジリジリとしたロスタイムも無難に終えた神戸が勝利を飾った。
これでJ1残留決定。

スタジアムは喜びのざわめきがインタビューの最中も収まらない。
そんな中僕らは席を立った。
ウイングスタジアムの外にはミサキガーデンという
屋台とビアガーデンの中間のような施設が作ってある。
試合後にビールでも飲みながら語り合おうと言うことらしい。
通路を柵で区切ったスペースにはいくつかの椅子と会議テーブルが置いてあるだけ
当然足りないので客はみな地べたに車座になって座り祝杯をあげる。
テントではビールの他に焼きそば、おでん、餃子、スパゲティ、からあげなどがあって
それがどれも200~300円ととても安くて美味しい!
そんな素晴らしいとこに僕らが寄らないわけがない(笑)
友人のボランティア仲間も一緒になってみんなで乾杯!
すっかり暗くなった空の下でみんなで輪になって
サッカー談義に花を咲かせて飲むビールは最高に美味い!
チーちゃんもMくんも焼きそばにからあげにソフトクリームと次々にたいらげる(笑)
ずっとこうしていたかったがそうもいかない。
何せこれから2時間かけて帰らねばならないのだ…
途中三宮で飲みに行くという友人達と泣く泣く別れ(笑)
僕らは再び乗換えを繰り返す帰路についた。
電車の中ではチーちゃんもMくんもぐったりと疲れて眠り込んでいた。
Mくんを送り届けて帰宅したのは21時を回っていた。
それなりに楽しんでくれただろうと眠そうなチーちゃんに感想を聞く。
チ「なぁ、パパ23日って休み?」
j「うん、祝日やから休みやけど…」
チ「次は23日に試合あるねんて」
どうやら友人に次の試合のスケジュールを聞いたらしい(笑)
j「また行きたいの?」
チ「うん!めっちゃ行きたい!」
眠そうだったチーちゃんの目がパッと開く。
「23日じゃなくてもいいから絶対、絶対また行こうな!」
チーちゃんの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
そんなに面白かったのかと聞く嫁さん眠気も振ったんだ様子で熱心に語るチーちゃん(笑)
「あのな、すごく選手がちかくに見えるねん」
「ボールを蹴る音とかぶつかる音とか聞こえるねんで!」
「サッカー選手って大きいねん、でもな走ると速いんやで」
「目の前走っていくのがすごい迫力あって、ライオンみたいでドキドキしたわ!」
苦笑いの嫁さんにチーちゃんは興奮が蘇ったようにまくし立てていた。
PCを立ち上げた僕にチーちゃんが寄ってきた。
「今日のサッカーテレビいつ放送するん?」
J-SPORTSのサイトで調べてみる。
「なぁ、いつなん?」焦るなチーちゃん(笑)
「10日(水)の21時からやな」
僕がそういい終わる前にチーちゃんはまるで今日のカズのように走り出していた。
カレンダーの前に立つとペンで10日に丸をつけてその下に「9時からサッカー」と書き込んだのだった。
「そんなにサッカー好きになったん?」と僕が聞くと
チーちゃんはこう答えた。
「だってテレビに映ってるかもしれんやん!」
この日の体験は確実にチーちゃんの中に何かを残してくれたに違いない。

そして僕は今日のカズに刺激を受け
「少しダイエットして運動しなきゃ!」
と思いながら目の前のチョコレートに手を伸ばすのだった(爆)