1986年5月30日初版第1刷発行
P.Laslett,「The World We Have Lost」further explored,1983
1965,1971,1983 3rd ed,Copyright.
著者は1915年生まれ。ケンブリッジ大卒。海軍の日本関係諜報部員、BBCプロデューサーを経て、母校のセント・ジョーンズ学寮特別研究員。1964年、E.R.リグリとともに人口史、社会関係史に関するケンブリッジグループを設立。
訳者は3名。
川北 稔。1940年大阪市生まれ。1967年京都大学大学院博士課程中退。大阪大学助手。府立大阪女子大学助教授。大阪大学文学部助教授。
指 昭博(サシ アキヒロ)。1957年大阪府生まれ。1984年大阪大学大学院修士課程修了。大阪大学大学院博士課程。
山本 正。1958年京都市生まれ。1986年大阪大学大学院博士課程単位取得退学。帝国女子短期大学講師。
1965年の著作が何故1986年になって本邦で訳されたのか。何故、欧米各国の歴史学会に大きなインパクトを持った本書のようなベストセラーが邦訳されずにきたのか。
P429の訳者後書きで『マルクス主義を基調としたわが国のいわゆる「戦後史学」の枠組みからすれば、あまりにも過激ともいえる本書の内容が一般史ないし社会史としての紹介を妨げてきた、というべきかもしれない』と書かれいるように、階級闘争、もう今では聞かれなくなった言葉だが、階級闘争にこだわってきた日本の学会や出版会、マスコミには、それがとっくの昔に西欧で否定されたということは、とても不都合だったのだろう。
現在の日本で江戸時代の士農工商という区分けが使われなくなったこと、武士以外の庶民は百姓として総称されるようになったことも関係するのだろう。
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P72
かれらはすべて無数の家族という細胞に分属させられ、そうした細胞が寄り集まって社会を構成していたのである。ここに至ってまた、生活規模が小さく、人間集団の規模も小さいという、前工業化社会のもつ例の特徴に行き当たる。
労働民衆は、この社会全体のもとでは互いに切り離されていた。その多くは、というより大半は、すでにみたように父親や親方の人格のなかに「包接」されてしまったのである。
彼らがひとつの共同体をなしていたかもしれないとか、ひとつの階級を形成していたのではないかなどという幻想は、現代社会の分析のためにつくられた用語を歴史研究に持ち込まないかぎり起こりえなかったはずなのだ。
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(2005年冬 西図書館)