著者は1960年、東京都生まれ。カリタス女子中学校・高等学校から早稲田大学社会科学部入学。1980年中退。その後、広告代理店勤務を経て、1988年に『幸福な朝食』で日本推理サスペンス大賞の優秀作を受賞しデビュー。1996年に『凍える牙』で第115回直木三十五賞を受賞。
平成22年4月新潮社から刊行。平成24年12月1日文庫本発行。
主人公は小森谷芭子。学生時代にホストに貢ぎ金に困り昏睡強盗を犯してしまい懲役7年の服役刑を受けた。近所で暮らす綾香は芭子より一回り年上である。彼女は家庭内暴力を夫から受け、子供にも手をかけられる段になって夫を殺害した。懲役5年。二人は刑務所で知り合った。
刑務所の人間関係は出所後は無かったことにするよう教えられ指導される。しかし肩を寄せ合うように刑務所内で過ごしてきた彼女たちは気が合い、何事も話せる仲になる。出所後も芭子の家の近くに綾香は部屋を借り、互いを律しながら励まし合いながら暮らしている。
前科があるということはもう普通の暮らしは望めないものなのか。彼女たちは警官を見かけるたびにびくびくし近所の人が集まっているだけで前がばれたのかと身をひそめたくなる。過去の友人とは縁が切れる。芭子は親から戸籍を抜かれ縁を切られ、手切れ金としていくばくかの預金を渡された。しかしそれに手を付けていては早晩立ちいかなくなる。
そんな彼女たちが職を持ち近い将来の自分の姿を思い描きながら健気に生きていく話が四編おさめてある。サスペンス感ある作品。
(2019年12月 野田文庫)