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アメリカは誰のものか―ウェールズ王子マドックの神話 - 川北 稔(NTT出版)

アメリカは誰のものか―ウェールズ王子マドックの神話
川北 稔
NTT出版

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2001年9月26日初版第一刷発行 NTT出版

著者は川北 稔。1940年大阪生まれ。1963年京都大学文学部卒。大阪大学大学院文学研究課教授。

本の題名を見て「陰謀ものか?」と思ったが真面目な読み物だった。

今は話題にもならない話かもしれないが、私が子供の頃はアメリカの第一発見者は古代ローマ人だったとかフェニキア人だったとか、そういった話が漫画雑誌の読み物のコーナーなどにオマケのように書いてあった。

嘘なんだけど。

ところがこの本を読むまで知らなかったのだが、アメリカでは真面目にローマ人の上陸地点の碑があるそうな。まるで王仁博士みたな話。アメリカにも多いわけだ、こういった話が好きな人が。

マドックの神話はそれと同じような「ヨタ話」に近い。そういう全くなでたらめな話がさも本当のことのように巷に流布していく、なぜそうなっていったのかということを書いてある。

以下メモより

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◆マドック神話その1

P10 コロンブスに先立つこと3世紀以上前。北ウェールズにあったグウィネッズ王国の王子マドックなる人物が戦乱のウェールズを逃れ、アメリカに行き着いた。アメリカ現地の穏やかな気候や現地人のやさしさに感激したマドックは、いったん帰国して一族を率いて再度この平和な土地アメリカに渡航し、インディアンの間で幸せに暮らした。白いインディアン、ウェールズのインディアンの誕生。(1170年頃)

P11 エリザベス一世時代もイングランドで出来上がる話。

P11 エリザベス女王の宮廷は総力を結集してこの作り話を宣伝した。ジョン・ディー、リチャード・ハクルート、サー・ジョージ・ベッカム

◆カンブリア史

P14 ウェールズ、かつてのカンブリアの歴史。元はブリティッツシュの言葉(ウェールズ語)で書かれ、H・ロイドの手により英語に訳された。1147年に死んだランカルファンカラドックという人物がウェールズ語で記述したことになっている。今に伝わるカンブリア史には、マドックに関する記述があるのだが、これは英語に訳された後にドクター・パウエルなどによる書き足しによるもの。1147年に死んだ人が1170年頃のことを知りえるはずもない。

◆イギリスの大航海時代

P27 カンブリア史が改変された時期は、イングランドが激しい人口増加の圧力を受け、さらにスペインとの政治対立からほとんど唯一の伝統的な輸出市場であったアントウェルペン(ベルギーのアントワープ)を失い経済的に手詰まりとなっていた。

P27 突破口は海外進出しかなかった。イギリスの大航海時代を推進したのは、このような経済的圧力からだった。

P27 また、支配階級として明確に形成され勃興しつつあったジェントルマン階級にとって、人口の増加は次男三男の増加というかたちで経済的な危機をまねいた。家督を継ぐことのできない次男三男は海外への探検・植民という格好の逃げ場にとびついた。庶民とて同じである。

P28 別に大航海に乗り出した理由は、キリスト世界を漠然と、しかし普遍的に支配しようとするカトリックのローマ教皇庁とその背景にあったスペイン、ポルトガルとの政治的対立もあったことはいうまでもない。

◆エリザベス朝の出自

P28 宮廷で大航海時代を演出した取り巻きであったウォルター・ローリー、ハクルート、ジョン・ホーキンズなどはジェントルマンの次男三男でイングランド南部またはウェールズとの境界付近の出身者がほとんどだった。

P29 エリザベスの生まれたテューダー家の出もウェールズに近い西南部地方であることははっきりしている。

テューダー朝の正確な出自は永遠の謎とされているが・・・・

P29 当時のウェールズは、およそ半世紀前にイングランドに統合され、宗教的にもイギリス国教会に組み込まれたとはいえ、イングランドからみれば全くの異境。英語は通じずケルト語の一種ウェールズ語で教会の説教が行われた。そのキリスト教自体、ケルトの宗教と入り混じった怪しげなものだった。

P30 この得体の知れない雰囲気が捏造話をまことしやかにみせるのに好都合だった。

P30 ブリティッシュ、ブリトンはケルト辺境を18世紀イングランド取り込む際に再発見される。本来はケルト人の意味であるのに。

◆マドック神話その2

P31 15世紀ローマ教皇アレクサンデル6世を仲介としてポルトガルとスペインは地球を山分けした。翌年スペイン、ポルトガルは教皇ぬきでトルデシーリャス条約を結んで再分割する。地上世界はアダムとイブに試練の場所として与えたものだが、イブには相続権がないからアダムの正当な相続人は神の使者としてのローマ教皇が地球の持ち主。どうするかは教皇が決めるもの。しかし、時代はローマ教皇が実質的な権力を振るえる状況にはなかった。

P32 アメリカはこの時代スペインのものとなるが、スペインによる経済制裁からイギリスはヴァージニア植民を展開していく。

P33 マドック神話はコロンブスより早くアメリカを発見したということで、スペインの所有権をなくする話として流布させられる。

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