投錨備忘録 - 暇つぶしに借りた本のメモを残すブログ

「訪日客増でも…クレカ会社なぜ手数料赤字?」は何故なのか? ただのメモです

2023年8月17日 の日本経済新聞の記事です。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL168FD0W3A810C2000000/

有料記事部分は読んでいないのですが、2019年と同じレベルで外国人が日本国内で外国で発行されたクレジットカードを使うと日本のクレジットカード会社は手数料で200億円の赤字になるという内容です。記事では「手数料率が低い中国銀聯(ユニオンペイ)の黒字で補ってきました 」となっていますが、これおかしいですよね。中国人団体旅行客が大挙して来るようになる以前は手数料赤字をだらだら出していたことになります。事業として破綻している構造です。記事には「なぜ手数料赤字?」と書いてあるのですが、有料部分を読めないので何故なんだろうと思い自分で調べてみました。

結論から言うとクレジットカードの会社の構造はイシュアアクワイアラプロセッシング国際ブランドという機能に分かれていて、アクワイアラからイシュアには手数料が払われます。これが記事にある「海外のカード発行会社に1.8%程度」になります。ここの料率が高くて赤字になるというのが原因のようです。また、イシュアが外国にありアクワイアラが日本国内にあった場合、金の流れは国際ブランド経由になりここで手数料が発生します。これが「国際ブランドに0.8%程度 」になります。これらは今に始まったことではなく前からそうだったようです。国際問題になっていてEUではイシュアからアクワイアラに請求される手数料率は0.3%(従来は1%~2%)に改められたそうです。

①クレジットカードは7つの国際ブランドがある
②国際ブランドはライセンス料と国家間の金の送金を担い手数料を取る
③クレジットカード会社の機能はイシュア(会員管理)とアクワイアラ(店舗管理)
イシュアは会員から代金、金利、会員費を取り代金をアクワイアラへ送る
イシュアアクワイアラに送るから手数料を取る
アクワイアラは店舗へ代金を払う。この機能は店舗と同じ国にある必要がある

「国際ブランドに0.8%程度 」は②にある送金手数料です
「海外のカード発行会社に1.8%程度」は⑤ですが、イシュアとアクワイアラが別の会社であった場合に発生するようです

だいたいこんな感じですが、以下説明します。

各機能と情報の流れと金の流れを整理してみます。末尾に添付した公正取引委員会の資料を読んでいただければ詳細が載っていますが、もっと分かりづらくなるかもしれません。

まず頭の中に正方形を描いてください。左上の角にカード会員、右上の角に店舗、左下の角にイシュア、右下の角にアクワイアラ、正方形の真ん中にプロセッシングを配置します。正方形の外、イシュアとアクワイアラの下には国際ブランドが位置します。カード会員から見えているのはイシュアで、ここはカードの発行と会員から代金や手数料、会員費を受け取ります。店舗から見えているのはアクワイアラでここは店舗の管理や店舗への代金の支払を担当します。

次に情報の流れです。クレジットカード会員が店舗から商品やサービスを受けその際にクレジットカードを使います。その情報は店舗からプロセッシングに流れ、プロセッシングからイシュア、アクワイアラに流れます。イシュア、アクワイアラから国際ブランドに情報が流れます。

お金の流れです。クレジットカード会員からイシュアに代金が支払われます。通常口座引き落としになります。イシュアは自分の手数料と国際ブランドに支払うライセンス料、プロセッシングに支払う手数料をカード会員から受け取った代金から差し引き残りをアクワイアラに渡します。アクワイアラは自分の手数料とプロセッシングに支払う手数料、国際ブランドに支払うライセンス料を取り、残りを店舗に送るという流れです。「海外のカード発行会社に1.8%程度」はイシュアが取る自分の手数料です。

調べてみればけっこう簡単な構造です。これでイシュア、アクワイアラ、プロセッシング、国際ブランドの全てに利があるという構造が正常だと思います。

店舗は現金で支払う客もクレジットカードで支払う客も区別せず同じ商品やサービスなら同じ料金にせねばなりません。これは法律で決まっています。ですから売り上げから手数料を引かれるクレジットカードを使われるのを嫌う店舗もありますし、クレジットカードの取り扱いの無かった店舗も過去は多かったと思います。しかし今となっては流れに逆らえないのとクレジットカードが使えることで商売の機会を増やす方へと変わってきています。

これだけの説明では何故日本のクレジットカード会社が手数料赤字を出すのかが説明できていません。

アクワイアラという機能は店舗が存在する国に実態が無いと規約違反になるのです。アクワイアラは日本だと日本に存在しないといけないことになります。アメリカのカード会社(イシュア)が発行したクレジットカードを日本で使った場合は日本国内にあるアクワイアラが機能します。アメリカのイシュアが発行したAmerican Express とDinersClubのアクワイアラは日本ではJCBが担当します。先の金の流れを思い出してください。日本でアメリカ人がアメリカで発行されたクレジットカードを使うとアメリカのイシュアが会員から料金を受け取り(先に立て替えるという形になりますが、、、)、そこから手数料を取って日本のアクワイアラに金を送ります。ここの手数料率が「海外のカード発行会社に1.8%程度」、この時の送金は国際ブランドが担当しますので手数料が発生します。この手数料が「国際ブランドに0.8%程度 」なのだと思います。「海外のカード発行会社に1.8%程度」の部分をEUでは0.3%に抑えた。ここの手数料をEUではマルチラテラル・インターチェンジ・フィー。一般的にインターチェンジ・フィーと呼びます。

それでもイシュア、アクワイアラ、プロセッシング、国際ブランドという構造は日本国内でも一緒だろう、同じ赤字構造ではないのかと思うのが普通ですが、日本の場合はイシュア、アクワイアラ、プロセッシングが同じ会社というのが多いのです。少なくともイシュア、アクワイアラは同じ会社です。ここのインターチェンジ・フィーが低い(EUの0.3%程度)か、ゼロかだと思います。国際ブランドに送金手数料を払うこともありません。ですから日本国内で発行されたクレジットカードが日本国内で使われる場合は利益が出る構造なのですが、外国で発行されたクレジットカードを日本で使われるとインターチェンジ・フィーの料率次第では手数料全体で赤字になってしまうという結論のようです。逆に日本で発行されたクレジットカードを外国で使った場合はこの記事とは逆の結果になるのではないでしょうか。

クレジットカード会社が手数料赤字を出す構造が気になっていなかったのは、外国人観光客が増えたのはここ10年で、クレジットカードの普及も今ほどではなかったということと、2006年だったかの法改正以前はキャッシングや分割払いの金利を30%以上取っていたのでそこで補えていたからだと思います。法改正以降は18%になり、これの売上比率は激減しています。

さてこれからどうするのでしょう。より大手のメガバンクなどに集約していき交渉力をつけEUのようにインターチェンジ・フィーを0.3%に持って行くのでしょうか。今の状況で今の料率は放置はできないと思います。

以上

※国際ブランド:「VISA」「Mastercard」「American Express」「Diners Club」「JCB」「銀聯」「Discover」の全7種類
※JCB:日本の国際ブランド。イシュア、アクワイアラ、プロセッシングの機能をすべて持っている会社。American Express,Diners ClubもJCBと同じ。
※VISA:世界で一番シェアを持っているアメリカの国際ブランド。三井住友カード株式会社が株の43.54%を持っている。イシュア、アクワイアラ、プロセッシングの機能は持っていない。Mastercard,Union Pay(銀聯)も同じ。
※プロセッシング:日本カードネットワーク(JCBの子会社)、ソニーペイメントサービス、NTTデータ、GMOペイメントゲートウェイ、、、。この機能を「決済代行会社」「処理センター会社」と呼ぶこともあります。
※韓国、中国は自国内のイシュアが発行したクレジットカードしか使えないようです。
※クレジットカードの取引に関する 実態調査報告書(公正取引委員会)  https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/apr/220408_pressrelease2.pdf

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