![]() | 下流社会 新たな階層集団の出現三浦 展光文社このアイテムの詳細を見る |
2005年9月20日 第1刷 11月5日 第6刷 光文社新書
著者は三浦 展(ミウラ アツシ)。1958年新潟県生まれ。一橋大学社会学部卒。パルコ入社。マーケティング情報誌アクロス編集長を経て三菱総合研究所入社。1999年消費・都市・文化研究シンクタンク「カルチャースタディーズ研究所」設立。
「下流社会」とは著者の造語。高度成長期に増加した中間層が下に下降する社会を言う。下流とは下層ではない。
2008年2月、読売新聞に英BBC放送との共同世論調査結果の記事が出た。"経済的な格差に不満を感じる人は、日本では83%"、"調査を行った34か国の中でも4番目に高く"という内容だった。しかし、本当に格差があるのは日本ではなく未だに貴族が存在するイギリス、ニッケル&ダイムドの報告にあったようにアメリカの方が格差社会であることは明らか。しかし、イギリスやアメリカの国民は格差社会に生きているという認識は少ない。ほんの少し前まで日本人は一億総中流意識というのを持っていた。その中流意識を持っていた階層が、いっせいに下を向き始めた。読売新聞の意識調査の結果はその表れだろう。
経済格差「不満」、日本は83%…BBC・本社世論調査 読売新聞社は英BBC放送と初の共同世論調査を実施した。 経済的な格差に不満を感じる人は、日本では83%に達し、サミット(主要国首脳会議)参加8か国ではイタリアの84%に次ぐ高い数値だった。調査を行った34か国の中でも4番目に高く、格差問題の広がりに、国民が不満を募らせていることがわかった。 経済的格差について、調査では「国民の間に豊かさが十分に公平に行き渡っていると思うか」と聞いた。日本では「全く公平ではない」が33%で、「あまり公平ではない」を合わせると83%が不満を感じていた。34か国の不満を感じる割合の平均は64%で、日本の83%は、これを大きく上回った。 不満を感じる人が最も多かったのは韓国の86%で、イタリアとポルトガルの84%に日本が続いた。主要国ではフランス78%、英国56%、米国52%などだった。 BBC・読売共同世論調査は昨年10月から今年1月にかけて行い、34か国の3万4528人から回答を得た。 (2008年2月7日22時39分 読売新聞) http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080207-OYT1T00610.htm |
著者はこの本で日本人をいくつかの世代に分けて話を進める。ひとつは昭和ヒト桁世代、ひとつは団塊の世代、ひとつは新人類世代、そして団塊ジュニア世代だ。下流に流れる世代はどこか、下流を作っている世代はどこか。それは団塊ジュニア世代だという。
◆昭和ヒトケタ世代
1926年~34年 新人類世代の親。特に男親にあたる
◆団塊世代
狭義 1947年~49年 806万人
広義 1945年~52年
◆新人類世代
アクロス 1984年6月号で1968年生まれを中心とする世代を名付けた
著者は高度経済成長期に生まれた世代を新人類世代としている。1955年~73年を高度経済成長期とするのが社会学的定説。特に所得倍増計画が発表されてから達成されるまでの1960年~68年に生まれた世代を著者は新人類世代と定義。
◆団塊ジュニア
1971年~74年 800万人
第二次ベビーブーム世代と同義語
ただし、親は必ずしも団塊世代ではない
◆真性団塊ジュニア
1973年~80年 出生数の50%以上が団塊世代の子供
団塊ジュニア世代以外の世代は、まだ所得格差を越えて行けた世代であるため、仮に今現在が上流であったとしても、また今が結果的に下流層であったとしても、それは格差が格差でなかった時代、つまり下から上へ誰もが上がれると思っていた時代、そして大多数の人が所得や生活レベルを上げることが出来た時代を過ごしてきた結果としてあるわけだから、格差社会を生きてきたとは言えない。
それに比べて団塊ジュニアの世代は、子供の頃から何不自由なく暮らしてこれた世代である。現在の日本の平均的な生活レベル、そして所得から見て、もしかすれば将来の生活の方が下がる可能性の方が高い。そいういう状況の中で暮らしているため閉塞感を持ち、ともすれば下を向きがちになる。
団塊ジュニアの中でも、より高いレベルの教育をなされる環境にあった子ほど上流に位置する割合が高く、また正規雇用者である者ほど上流に位置する割合が高いという。これはその子供がおかれた家庭環境と大いに関係があるようだ。単に所得が高かったから、金持ちだから教育に金がかけられたということでは決してない。何をどうすれば上手くいくのか、親の成功体験と失敗体験を子に伝えられるかどうか、良い意味での子に対する指導ができたかどうか、簡単に言えばそういうことになるのかも知れない。
以下メモ
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p69
結婚前の所得が高い女性ほど結婚相手の男性の所得が高い
p70
差別が撤廃され男女平等が進むほど男性との差別はなくなる。しかし女性であることの共同性は崩れ、ひとりひとりの女性が個人として学歴、性格、容姿などのすべての要素によって評価され、選別され、差別される時代になったのだ。
しかも、その学歴、性格、容姿などが純粋に個人の能力と努力だけの産物というわけではない。それらは親の階層によっても大きく既定されてしまう可能性が高い。
p72
労働政策研究所・研究機構
15歳~34歳の若者を正社員・フリーター・失業者・無業者と4分類すると、親を含めた世帯全体の所得が高いほど正社員が多く、低いほど無業者が多いという相関があるという。「若者就業支援の現状と課題」
そもそも正規社員として雇用されるような人間になっていること自体が、親の所得階層性に基づく生活と価値観などによって規定されているともいえる。
p103
現在の30歳前後の世代は、少年期に非常に豊かな消費生活を享受してしまった世代であるため、今後は歳をとればとるほど消費生活の水準が落ちてくという不安が大きい。これは現在の40歳以上にはない感覚である。
p110
欲求調査によれば、団塊ジュニア男性のうち79%が所得格差の拡大を感じている。格差意識別に見ると「上」では75%、「中」では77.5%、「下」では81.3%。下の人ほど格差拡大を感じている人が多い。
ところが成果主義、能力主義には賛成であるは「上」が58.4%、「中」が60%、「下」が66.7%と階層意識が下の人ほど成果主義、能力主義を肯定している。
p111
同様に年功序列や終身雇用制の方が良いと思うは「上」が16.7%、「中」が17.5%、「下」が10.4%であり、下で最も年功序列否定意識が強い。
「下」にはフリーターや派遣社員が含まれているため、そもそも年功序列や終身雇用の恩恵を受けていない可能性が強いこと、また正規社員並みに働いているのだから、その成果に応じて給料をよこせという気持ちが強いこと、なども考えられる。
つまり、格差の容認志向と格差の是正志向という、相反するふたつの考えがこの結果に表れている可能性はある。
団塊ジュニアの女性は、所得格差の拡大については81%が感じており、「上」では76.5%、「中」では75%、「下」では93.6%である。
p112
これは「上」では非正規職員が5.9%にすぎないが「中」では25%、「下」では22.6%いる。そのため「中」と「下」においては総合職の正規職員女性との所得格差を強く実感する者が多いのであろう。
成果主義については、団塊ジュニア女性の64%が容認しており、「上」では76.4%、「中」では61.6%、「下」では61.3%と男性とは異なり「上」の人ほど成果主義を容認している。おそらく女性の「上」では男性並みに働いても十分評価されない(されなかった)という気持ちもあるので成果主義志向が強まるのであろう。
p113
団塊ジュニア世代においては、正規職員を中心とする「上」においては無能な上司や男性の壁を破るために、非正規職員を含む「下」においては正規職員との差別をなくすために、成果主義が支持されていると考えられる。
成果主義の中で勝ち続ける者とそうでない者の差は大きく開く。フリーターとの差はますます拡大する。とすれば、その格差の拡大、下流化をどこまで冷静に受け止められるのかが大きな問題になる。結婚して子供を産んで平凡に暮らす、そうした普通の「中流」の生活がどんどん難しくなっていくことは、間違いない。
p150
派遣社員は結婚・出産がしにくい雇用形態でないか。現在の少子化対策はどちらかというと総合職女性、あるいは一般職を含めた正規社員の女性の支援が中心である。
p154
階層間にとらわれない自由恋愛は80年代以降階層化が進んで困難になった。階層が違うと話も合わない。
宮台信司はトラウマ系バツイチ子連れジャーナリストとの同棲生活をやめて東大名誉教授の娘で日本女子大卒の20歳も年下の女性と入籍した。
p165
出身階層の低い高校生ほど学校学習以外のところで自己能力感を覚えている。自己能力感を自分らしさ志向や自己実現感覚と読み替えれば、下流ほど自分らしさ志向が強いことが説明できる。
p167
自分らしさ志向が高いことは、自分らしさを持っていることを意味しない。自分らしさを志向しているのに、思うように自分らしさを実現できないと感じるものは、しばしば生活満足度を低下させ、所得の低さは階層意識を低下させるだろう。
p170
女性の自分らしさ派は一人暮らし、親との同居、夫婦二人生活が多い。子供を作るということは自分らしさを感じられない
p171
自分らしさ派ほど未婚者、子供のない者、非正規雇用者が多い。晩婚化、少子化の原因がこの自分らしさ派にあるともいえる
p172
過去30年以上にわたって社会の主流的な価値観となった「自分らしさ」というまるで青い鳥のような観念を、いったい今後どのように取り扱うべきなのか
p174
ドラゴン桜のメソッドは下流化を食い止める。社会にある不平等を自由、個性、オンリーワンなどという言葉で隠している大人の欺瞞を暴き、子供たちに社会の真実を知らしめ、だからこそあきらめずに努力しろと主張することにある。
百升計算で有名になった陰山英男は実は百升計算で学力を向上させたのではない。早寝、早起き、朝ごはんを習慣づけたのである
p184
カーニバル化する社会
社会学者の鈴木謙介
大衆が瞬間的な盛り上がりによってもたらされる内的幸福な状態(カーニバル)を持ちつつ・・・
p186
団塊ジュニア男性の「下」ほどスポーツ観戦が好きであり、またフジTVをよく見ている。支持政党は自民党(政治意識が強い)。香山リカのいうプチナショナリズム的風景
p206
女性の「上」が必ずしも女性らしさを否定しているわけではない。むしろ逆である
p208
「上」ほど、そして非自分らしさ派ほど従来型の男女観を持っている
p235
団塊ジュニア下流女性の子育てコンセプトがどの程度子供の将来を見通した結果なのかどうか。親自身があらかじめあきらめている可能性もある。だから子供が成人したとき、いままさに拡大している格差がさらに拡大し、固定化しているのではないか。
下流チェック
□年収が年齢の10倍未満
□その日その日を気楽に生きたいと思う
□自分らしく生きるのが良いと思う
□好きなことだけして生きたい
□面倒くさがり、だらしない、出不精
□一人で生きるのが好きだ
□地味で目立たない性格だ
□ファッションは自分流である
□食べることが面倒くさいと思うことがある
□一日中家でテレビゲームやインターネットをして過ごすことがよくある
□未婚である(男性33歳以上、女性30歳以上)
※このチェック項目、"老人問題"にも使えるように見えた。下流社会は青年層の老年化にも見える。
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(2008年8月 西図書館)