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新収蔵作品展示
2021年2月13日〜5月9日
アーティゾン美術館
アーティゾン美術館のコレクション展。
バラエティ豊かな全14章。
各章とも新収蔵作品をメインに置く。
本展は、新収蔵作品である藤島武二《東洋振り》から始まる。
藤島武二(1867〜1943)
《東洋振り》
1924年、63.7×44.0cm
アーティゾン美術館

入場して最初の展示室。
部屋の中央に、藤島武二《東洋振り》が置かれる。
その左手の壁面には、印象派の女性画家4人4点のほか、ルノワールやカイユボット、ピカソなどの、アーティゾン美術館が誇る西洋近代絵画が並ぶ。
その右手の壁面には、藤島の重要文化財作品2点のほか、青木繁や坂本繁次郎、黒田清輝といった、アーティゾン美術館が誇る日本近代洋画が並ぶ。


藤島武二《東洋振り》は、2014年(旧ブリヂストン美術館時代)の「描かれたチャイナドレス」展に出品されているが、その時は個人蔵であった。その後、2019年に取得したという。アーティゾン美術館は、重文2点を含む63点の藤島作品を有するらしいが、64点目となる本作品の取得によりそのコレクションがより強固になったと言えよう。
イタリア・ルネサンス期の横顔肖像の構図を借りて、中国服を着た日本人女性の横顔を描く。
藤島は、1927年まで同様の作品を集中的に制作しているが、この《東洋振り》はそのなかで一番最初の作品だという。
藤島は、ヨーロッパに留学(1905年〜フランス、1907年12月〜イタリア、1910年1月帰国)しているが、《東洋振り》の制作に関連して、イタリア滞在中の美術館での鑑賞体験を述べている。
イタリアの文芸復興時代には女の横顔の描写が多かった。ピエロ・デルラ・フランチェスカ、レオナルド・ダ・ヴィンチなどの絵を見た感じが、如何にも閑寂な東洋的精神に交通しているので、ミラノの美術館の壁面に見飽きぬ凝視を続けていたものであった。殊にフランチェスカの横顔の簡約された用筆が、面白く思って見てきた。
藤島が言うピエロ・デッラ・フランチェスカの作品とは、ミラノのポルディ・ペッツォーリ美術館のピエロ・デル・ポッライウォーロ作《貴婦人の肖像》のことではないか、と推測されているようだ。
ピエロ・デル・ポッライウォーロ
《貴婦人の肖像》
1470-75年頃、45.5×32.7cm
ポルディ・ペッツォーリ美術館

この邸宅美術館を代表する作品の一つで、美術館のロゴにも使用されているほど。2014年のBunkamuraザ・ミュージアム「ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション」展にて来日したのは、今から思えば奇跡のようなこと。
藤島はルーヴル美術館所蔵のピサネッロ《ジネヴラ・デステの肖像》の模写作品も残す(制作年不詳、鹿児島市立美術館蔵)など思いは強く、中国服を集めて、作品を構想していたようだが、モデルが悩ましかったらしい。
就中困難なのは日本の女の横顔に美しいのがない。前向きはまずよいとして、横顔になると美が二分の一に減じる。適当なモデルを得て私の制作欲は迸った。
日本の女を使って東洋的な典型美をつくってみたかったのである。文芸復興期のそれらの東洋風な横顔が私をそこに運んでくれたといえば、画因の説明は足りている。
ポルディ・ペッツォーリ美術館は、2014-15年に、ピエロ・デル・ポッライウォーロの横顔女性の肖像画4点(自館、ベルリン美術館、メトロポリタン美術館、ウフィツィ美術館)を集めた企画展を開催している。
アーティゾン美術館には、本作品取得を機に、藤島の(中国服の)横顔女性の肖像画を集めた企画展を開催して欲しいものである。
今回は引き立て役の重要文化財指定作品2点。
藤島武二
重文《天平の面影》
1902年、197.5×94.0cm
アーティゾン美術館

藤島武二
重文《黒扇》
1908-09年、63.7×42.4cm
アーティゾン美術館
