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内藤コレクション
写本 - いとも優雅なる中世の小宇宙
2024年6月11日〜8月25日
国立西洋美術館
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《詩編集零葉》
フランス北部、パリあるいはアミアン司教区(?)
1250-60年
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤氏が最初に購入した写本作品のひとつです。パリのセーヌ川沿いに続く屋台の古本屋で見つけました。「金に赤や青という派手な色でありながら、折り目正しさがあり、一方で、よく見ると狭い世界の中に、融通無碍なデザインが隠れるようにちりばめられていて、おおらかな遊び心が見えてくる。そのたくまざる品のよさに、食い入るように見入った。」★
購入した5枚ほどをホテルのベッドの上に広げて見たとき、そこにある美の世界がゴシック美術そのものだということに気づき、断片とはいえその本物を身近に置けることに、体が震えるような喜びを覚えたといいます。こうして内藤氏の写本コレクションが始まりました。
★内藤裕史「彩飾写本との出会い」(「ザ・コレクター」所収)より
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ベラルド・ダ・テーラモ(彩飾)
《聖務日課聖歌集零葉》
イタリア、アブルッツオ地方
1340-50年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
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ある年の冬、内藤氏が親しくしていたロンドンの書店から、この作品を図柄につかったクリスマスカードが届きました。内藤氏はカードの作品に一目ぼれします。とはいえ手の届かぬものと諦めていましたが、翌年この書店を訪れたとき、当の作品を見つけ、その場で購入しました。
その後、この作品を使った絵葉書を日本の研究者に送ったところ、同じ画家による写本がヴァチカンとヴェネツィアにあることを教えられます。さらに別の研究者から送られてきた図録によって、この作品と同じ写本に由来する紙葉が、ヴェネツィアのチーニ財団とニューヨークのメトロポリタン美術館にあることを知ります。内藤氏は後にヴェネツィアに滞在した折、チーニ財団を訪れて所蔵される姉妹葉7点と出会いました。
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フランチェスコ・ダ・コディゴーロ(写字)
ジョルジョ・ダレマーニャ(彩飾)
《『レオネッロ・デステの聖務日課書』零葉》
イタリア、フェラーラ
1441-48年
彩色、インク、金/獣皮紙
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内藤氏はこの作品をロンドンの古書店から、ルネサンス時代のイタリアで作られた聖務日課書という説明で購入しました。それから2ヵ月くらい経った頃、この古書店の主から、イタリア、フェッラーラ国のボルソ・デステ侯爵が作らせた聖務日課書の一葉ということが分かったという手紙が来ます。以来内藤氏は作者の正体に思いを馳せ、フェッラーラ訪問を切望するようになります。
ようやく夢を叶えフェッラーラを訪問した内藤氏でしたが、そこの美術館や図書館に求めるものはありませんでした。しかしその後に訪れたモデナの図書館で、「ボルソ・デステのミサ典礼書」という写本に同じ作者の手を見つけます。
2年後、モデナを再訪した内藤氏は、図書館長から、作者がジョルジョ・ダレマーニャであることを教えられました。購入後20年経って、ようやく作者の名にたどり着いたのです。また、所有する一葉はボルソ・デステではなく、その兄で先代のレオネッロ・デステの注文で作られた聖務日課書に由来することも知りました。
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《「ギステルの時祷書」零葉》
南ネーデルラント、ブリュッへ(?)
1300年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤裕史氏蔵
No.95と同様、「ギステルの時祷書」と呼ばれる写本に由来します。2018年、内藤氏は国立西洋美術館に追加で寄贈する作品を探しにロンドンを訪れます。その時にこの紙葉を見つけ、チャーミングなたたずまいに惹かれて自分のために購入しました。普段は自宅の仕事机の脇に置かれています。これが氏のもとに残された最後の紙葉です。
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「コレクションが私の手を離れたいま改めて考えてみれば、中世の、無名の画家の無名の作品に夢中になってきた三〇年だった。そうして集めた自分の分身が、散逸せずに安住の場を得て、しかも多くの人に観てもらえるということは、コレクターとして、何にも勝る喜びである。今はもうそれを感謝し、国立西洋美術館の中世部門の充実と発展を祈り期待し、ホール一杯に中世美術の世界が繰り広げられ、魅惑的な中世写本芸術の魅力に触れたければ上野の山へと、世界の美術ファンが足を運ぶ日を夢に描いている。」
内藤裕史「美術館とコレクター」(「ザ・コレクター」所収)より