ペドロ・デ・オレンテ(1580-1645)
《聖母被昇天》
1620-25年頃、125×93cm
2018年度購入
(2019年6月より展示開始)
国立西洋美術館
【会場内解説】
地上での生涯を終えた聖母マリアが霊魂と肉体とともに天国に上げられる場面を描く。空の墓の周りには驚きを隠せない12使徒が配される。作者のオレンテは、17世紀初頭にヴェネツィアでレアンドロ・バッサーノに学んだスペイン人画家で、その後トレドに戻りこれを描いた。色彩にはやはりヴェネツィアで学んだエル・グレコの影響が明らかであるが、マリアの肉体の量感や、粗野で武骨な使徒たちの風貌に、当時勃興しつつあった新たな自然主義絵画に対する強い関心が表れている。
【画家について】(2018年「プラド美術館展」図録参照)
17世紀前半にスペイン各地で活躍。1580年ムルシアに生まれ、若くしてトレドに移り、画家として形成する。1602年にヴェネツィアに渡り、レアンドロ・バッサーノの工房に入る。一族の様式を十分に吸収した画家は、のちに「スペインのバッサーノ」と呼ばれることになる。
1607年にムルシアに戻ったあと、トレド、バレンシア、マドリードを巡り、各地で作品を制作する。バレンシアでは大聖堂のために《聖セバスティアヌスの殉教》(1616年頃)を制作、バッサーノの影響に加えてカラヴァッジョ作品の影響が見られる。トレドでは、大聖堂のために作品を制作、エル・グレコの息子ホルヘ・マヌエルと親密な交友関係を結ぶ。1645年バレンシアで没する。
参考
《聖セバスティアヌスの殉教》
1616年頃、306×219cm
バレンシア大聖堂
【「不在効果」について】
(宮下規久朗著『バロック美術の成立』より)
・登場すべき人物をあえて描かず、画面の外の空間に存在を想定させ、観者の位置にかさねあわせることによって、観者を画中の出来事に関与させる趣向。
・大規模なナラティブの宗教画でも、こうした手法を用いた例がある。例えば、ペドロ・デ・オランテの「聖母被昇天」では、ストイキツァによると、昇天する聖母の下で空になった棺の周りで動揺する使徒たちのうち、聖トマスがいないという。この絵を前にした観者はもっとも疑い深いトマスの役を引き受けるのである。画面下部は棺の途中で切れているが、半身像の作品と同じく、この絵は観者の目の高さが使徒たちと同じになるように設置されていたのであろう。
→高難度。私には分かりようもない。仮に絵の展示位置を現状より高くしたとしても。
【来歴】(国立西洋美術館HP)
Family of Marqués de Auñón since 19th century
D. Enrique Valera y Ramírez de Saavedra, marqués de Auñón (1899-1947)
By direct inheritance to his son, D. Luis Enrique Valera y Muguiro
From whom Purchased by Galería Coll y Cortés, Madrid, 2018
purchased by NMWA, March 2019.
【購入価格】
27,327,900円