ロンドン・ナショナル・ギャラリー展
2020年3月3日〜6月14日
→開幕日未定
国立西洋美術館
パオロ・ウッチェロ
《聖ゲオルギウスと竜》
1470年頃、55.6×74.2cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
パオロ・ディ・ドーノ、通称パオロ・ウッチェロ(1397頃〜1475)作品の初来日!!
(おそらく。ただし、来日したけど、まだ一般公開されていない。)
通称の「ウッチェロ」は、イタリア語で「鳥」という意味。画家が鳥の描写に長けていたことに由来するという。しかし、鳥を描いた作品は現存しないらしい。
通称は「鳥」だが、画家の名声を高めたのは「馬」の描写であったとのことで、馬を描いた作品は相応に現存。本作品に描かれた馬も「樽のような腹をした馬は、ウッチェロの技量を示す最も特徴的な例である」と図録の解説にある。
ウッチェロと言えば「遠近法」(線遠近法、透視図法)。
妻がよく口にしたのは、夫のパオロがしばしば仕事場で夜を徹して遠近法の問題に打込み、妻がもう寝るようにと夫に声をかけると、彼は、「ああ、この遠近法(プロスペッティーヴァ)というのは可愛い奴でなあ」と答えるのが癖だった。(ヴァザーリ『芸術家列伝』白水社刊より)
本作でも、後景の山を頂点(消失点)とする三角形は、緑のタイルカーペットのような芝生たちにより強調される。さらに、右手の雲を頂点とする聖ゲオルギウスの三角形と、岩穴の上を頂点とする竜の三角形が加わる。
本作は「カンヴァス・油彩」であることも特記事項。
世代的に「テンペラ・板」に属するウッチェロとしては珍しく、支持体がカンヴァス。館が取得した際の調査により、板からカンヴァスに移し替えられたものではなく、制作当初からカンヴァスであったことが確認されており、「カンヴァス・油彩」の具象画としてはごく早い作例のひとつとされているとのこと。ウッチェロの新技術研究への熱心さは、遠近法にとどまらない。
図録に掲載されている本作の「主な来歴」。
・1898年以前、アドルフ・バイヤースドルフが所有
・1939-1945年、ナチスが接収
・1959年、ナショナル・ギャラリーが購入
「ナチス」が出てきて、その前後の情報がない。ネット検索する。
ナチスに接収される前は、ポーランドの貴族で、ウィーンに大邸宅を構えていたランコロンスキ伯爵家が所蔵していたらしい。
ナチスがアルトアウゼー塩鉱に保管していたところ、米軍により発見され、元の所有者一族に返還される。
その後、所有者一族はコレクションの一部を売却することとし、1959年にナショナル・ギャラリーが本作を購入する。何故ナショナル・ギャラリーだったのか、気になるところではある。
ウッチェロは、本作品制作の10数年前にも同主題の作品を制作している。現在パリの美術館にある「テンペラ・板」の作品で、ロンドンの作品と比べると随分大きい。
パオロ・ウッチェロ
《聖ゲオルギウスと竜》
1458〜60年、103×131cm
ジャックマール=アンドレ美術館
ナショナル・ギャラリーは、もう1点ウッチェロ作品を所蔵する。
パオロ・ウッチェロ
《サン・ロマーノの戦い、フィレンツェ軍を率いるニッコロ・ダ・トレンティーノ》
1438〜40年頃、182×320cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
ウッチェロの代表作の一つである「サン・ロマーノの戦い」3部作のうちの1点(他の2点はウフィツィ美術館とルーヴル美術館が所蔵)。「テンペラ・板」。取得は、「聖ゲオルギウスと竜」取得の約100年前の1857年、初期ルネサンスを偏愛?した初代館長イーストレイクの時代である。
実物と対面できる日が1日でも早く来ますように。