イタリア文化会館のカラヴァッジョ展記念講演会を聴講する。
参ったのは、カメラのシャッター音。
スクリーンのスライドが変わるたびに、場内にシャッター音が響きわたる。
展示品の一部(時には大半)を写真撮影可とする美術展覧会が増えているが、それに伴い、撮影時のマナー、中でもシャッター音の問題が話題になることも多くなっている。
展覧会鑑賞時には私的にそれほど気にならなかったシャッター音も、耳を稼働させる講演会となると別。音が気になって話を聞き逃すことも、スライドが変わるたびに発生。特に連写はねえ。
講演会
「オリジナルとコピー、そしてカラヴァッジョ」
日時
2019年7月17日 18:30〜
講師
小佐野 重利(東京大学名誉教授、同大特任教授) ✳︎カラヴァッジョ展2019-20の監修者
木村 太郎(大阪芸術大学非常勤講師)
前田 恭二(読売新聞東京本社編集局次長兼文化部長)
講師がそれぞれ約20分ずつ講演を行い、その後3人で座談会。
小佐野氏:2019年5月刊行の著書『オリジナルとコピー、16世紀および17世紀における複製画の変遷』(三元社刊)を要約した話。
木村氏:カラヴァッジョ作品のコピーについて
前田氏:東洋におけるコピー制作に対する考え方について
以下、カラヴァッジョ研究者である木村氏の講演をメモする。
1 カラヴァッジョ作品のコピーは多数制作されているが、1610年から1650年頃に最も頻繁に制作されている。
(コピー作品の例)
《聖トマスの不信》
20点超のコピーが知られる。
オ:ポツダム、コ:ウフィツィ
《法悦のマグダラのマリア》
20点近くのコピーが知られる。
オ?:スイス個人蔵、コ:ローマ個人蔵
《果物の皮をむく少年》
20点近くのコピーが知られる。
コ:東京個人蔵、コ:ローマ個人蔵
《いかさま師》
オ:キンベル美、コ:個人蔵
《キリストの捕縛》
オ:ダブリン、コ:オデッサ
《エマオの晩餐》
オ:ロンドンNG、コ:NY個人蔵
一方、画家自身が制作したレプリカの存在も知られる。
(レプリカの例)
《トカゲにかまれる少年》
ロンドンNGとロンギ財団
《女占い師》
カピトリーノ美とルーヴル美
《リュート弾き》
エルミタージュ美と個人蔵
《メドゥーサの首》
ミラノ個人蔵とウフィツィ美
逆にオリジナルのみでコピー作品の存在が一切知られていない作品もある。
所蔵者が秘蔵し、コピーを発生させないよう管理したものと考えられる。
《病めるバッカス》
《洗礼者聖ヨハネ》
《聖ヒエロニムス》
3点ともボルゲーゼ美術館蔵。
2 何故、カラヴァッジョ作品はコピーが多く作られたのか。
1)絵の様式や図柄の斬新さ
2)17世紀前半のローマの個人コレクターによる芸術品蒐集・展示の活発化
3)画家が大規模な工房を持たず、絵の大量生産をしなかったうえに、早世したこと
3 コピー作品の制作者は明らかでないことも多いが、知られているなかで特に注目すべき存在は「プロスペロ・オルシ」。
カラヴァッジョのプロモーター的な存在であり、カラヴァッジョ自身もオルシによるコピー制作をある程度認めていたとのこと。
4 オリジナルとコピーの市場価値の差は、17世紀前半のローマでは、一般的に考えられるほど大きな差はなかったと思われる。
別作品ではあるが、オリジナル《エマオの晩餐》制作に150スクーディに対し、《アレクサンドリアの聖カタリナ》のコピー制作に25スクーディ。だいたい5分の1から6分の1くらい。
本講演会の案内によると、カラヴァッジョ展に、ウフィツィ美術館所蔵の《聖トマスの不信》コピー作品が出品されるとのこと。数あるコピー作品のなかでも最良とのことであり、実見が楽しみ。
また、木村氏が挙げた上記のカラヴァッジョ作品は、オリジナルかレプリカかコピーかは別として、カラヴァッジョ展への出品が公式サイトあるいは札幌展のチラシで明らかになっているものが多い。実は挙げた作品すべてが出品予定だったりするのだろうか。
札幌展チラシの実物を入手。本講演会で配布。札幌にも行きたいなあ。