空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン
2024年7月13日〜9月23日
東京ステーションギャラリー
会期最後の週末に駆け込み訪問。
土曜16時頃に到着すると、続々と人が入館している。中は大混雑を覚悟するが、鑑賞は意外にも比較的スムーズにできる。
ジャン=ミッシェル・フォロン(1934-2005)は、ベルギーのブリュッセル・ユックル地区生まれのアーティスト。
1955年に移住したパリ近郊でひたすらドローイングを描く日々を送るが、なかなか芽が出ない。糸口をつかむべくアメリカの雑誌社に作品を送ると、『ザ・ニューヨーカー』や『タイム』などの有力誌で注目され、1960年代初頭にはそれらの表紙を飾るようになる。その後、オリベッティ社のグラフィック・デザインを任されるなど、各国で高く評価され、幅広く活躍する。
日本では、これまで1985年と1994-95年に個展が開催されており、本展は約30年ぶりとなる回顧展となる。
展覧会名の「空想旅行案内人」は、アーティストの自称で、その肩書きを付けた名刺も作成している(本展の冒頭に展示)。
初期から晩年まで、ドローイング・水彩画・版画・ポスター・立体作品・映像作品など約230点の展示。
独自のキャラクター(リトル・ハット・マン、矢印など)を確立することが成功の秘訣なのかなあとか思いつつ、淡い色彩のグラデーションによる作品群を中心に見る。
特に印象に残る作品。
ヴェネツィアで開催された個展のポスター《フォロン展 コッレール美術館、ヴェネツィア》1985年。レインボー色のカーテンがはためく窓。その向こうには、白い鳩が飛び交うなかにサン・ジョルジョ・マッジョーレ島。ヴェネツィア観光ポスターの定番形式とも言えるのだろうが、フォロンの色彩は美しい。このタイプのヴェネツィア観光ポスターに、私は弱い。
その横に展示に展示される《ポスター美術館 パリ(カッサンドルへのオマージュ》も、美術館関係のポスター。カッサンドルの代表作の一つ、真正面からシンメトリーの構図で捉えた大型高速船のポスター。その大型高速船をフォロンの色彩で描く。もともと本画が素晴らしいのだが、フォロンの色彩によってカッサンドルは新たな魅力を放つ。
冷戦や環境破壊、人権問題などの現実を静かに抗議するような作品も多い。
そのなかでは、《『世界人権宣言』のための挿絵原画》18点。1948年に国連で採択された『世界人権宣言』、その40周年にあたる1988年にアムネスティ・インターナショナルのベルギー支部の依頼により制作したもの。
フォロンは、『世界人権宣言』 30条のうち19の条文の挿絵を制作したという。「そのほとんどが権利や自由がないがしろにされた、いまだ現実にある世界を象徴的に表す」旨の説明。
本展における条文への挿絵原画の展示数は18点。1点欠? それとも序文のための挿絵原画も含んだ数なのかも。
条文テキストのキャプションを読みつつ、フォロン作品を見る。直接的な描写ではないので、条文と挿絵がマッチしているのかは分からないが、フォロンにとって苦労の多い制作であっただろう。
じっくり見たいところだが、時間も限られているほか、テキストが多いため人が密集しやすいコーナー。今もアムネスティから「人権パスポート」という名で、フォロンの挿絵+谷川俊太郎の日本語により世界人権宣言を紹介する小冊子が販売されているようなので、そちらで味わう手もある。
来日歴が何回かあるらしく、最後の方に展示されるフォロンが水彩を施した葉書のなかには、日本の切手が貼られ、消印が押されたものがある。その切手の選択にはこだわりを感じさせられる。
思いのほか見応えがある展覧会。
駆け込みで行ってよかった。
本展は、このあと、名古屋と大阪に巡回する。