東京でカラヴァッジョ 日記

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ジャコメッティ展(国立新美術館)

2017年08月06日 | 展覧会(西洋美術)
ジャコメッティ展
2017年6月14日~9月4日
国立新美術館



   ジャコメッティは、とてつもない求道者だなあ、遊びがない、一本の道をひたすら極めようと働き続ける、そんな印象。
   展示構成・出品構成がそんなコンセプトなのかもしれない。
 
 
 
   アルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)は、スイス南東部のイタリア国境に近いアルプスの山間の村ボルゴノーヴォ(現在グラウビュンデン州ブレガリア)に生まれ、近隣の村スタンパで育つ。

   父親ジョヴァンニ(1868-1933)もスイスで高く評価されたスイス印象派の画家。父親のいとこにあたるアウグスト(1877-1947)も抽象画家。本展にモデル・協力者として常時登場する弟ディエゴ(1902-85)は彫刻家・装飾家。その下の弟ブルーノ(1907-2012)は建築家。
 
   ジャコメッティは芸術家ファミリー。ジャコメッティと名があるからといって、細長い彫刻の人の作品とは限らないことを再認識。例えば、東京・松岡美術館のブロンズ像《猫の給仕頭》は弟ディエゴ・ジャコメッティの作品である。
 
 
 
   以下、印象に残る作品。
 
 
No.23《大きな像(女:レオーネ)》
1947年、ブロンズ
167×19.5×41cm
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館
 
   本展のトップバッター。ジャコメッティ作品といえば極限まで削ぎ落とした細く長い彫刻、というイメージどおりの作品からスタートする。

   16章からなる本展、他の展覧会でもよく見られることだが、出品リスト上の章とは異なる章に展示される作品が結構ある。
   本作品もその一つで、冒頭に、イメージどおり+高レベルの作品を展示し、ジャコメッティの世界に鑑賞者を誘おうとしている。

   細く長い彫刻だが、改めて見ると、きちんと女性像していて、本展で一番惹かれる作品。
 
   本作は、作家が細く長い彫像へと向かうようになった、最も早い時期の作品。モデルは、当時の恋人イザベル・デルメール。1947年着手も、予定した個展には出品されることなく、アトリエに置かれ、およそ10年後再び手が加えられた。本展出品作は、1958年の最後のヴァージョンに基づくブロンズだが、作家によって制作年は1947年とされた。タイトルの「レオーニ」も、初めてこの石膏像の鋳造を依頼したペギー・グッゲンハイムのヴェネツィアの邸宅「パラッツォ・ヴェニエール・デイ・レオーニ」にちなみ、作家自ら名付けたもの。(公式HP解説による)


 
 
No.5《女=スプーン》
1926/27年、ブロンズ
145×51×21cm
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館
 
   パリに出てきて間もない頃のジャコメッティは、アフリカ彫刻やキュビスムの影響のもと、作品を制作していた。本作品は、訪れた展覧会で目にした、アフリカのダン族が用いる擬人化されたスプーンがインスピレーションの源となったとされている。(公式HP解説による)
 
   その後、1930年、ダリとブルトンにシュルレアリスム運動に誘われ、シュルレアリスム展にも参加する。しかし、1933年の父の死後、頭部を作り始めるようになり、翌年にはシュルレアリスムと決別する。(公式HP解説による)
 
   私がこれまでブログ記事で触れたことのあるジャコメッティ作品を確認すると、ただ1点、2011年国立新美「シュルレアリスム展-パリ、ポンピドゥセンター所蔵作品による」の《テーブル》のみ。えらく気に入った記憶がある。シュルレアリスム時代の作品であったか。細長い彫刻の作家の作品で間違いないことを改めて確認する。
 
 
 
 
No.66《マルグリット・マーグの肖像》
1961年、油彩、カンヴァス
145×95cm
マーグ・コレクション、パリ
 
   ジャコメッティは、油彩画もなかなか魅力的。
   本作は、頭部像の油彩画バージョンといえようか。色彩もあって。何だろう、不思議な味の作品である。
 
 
 
 
No.89《犬》
1951年、ブロンズ
47×100×15cm
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館
 
No.90《猫》
1951年、ブロンズ
32×82×13cm
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館
 
   ジャコメッティの動物の彫刻は稀であるらしい。
 
   どこかで見た中国犬の記憶をもとに、犬に自分の姿を重ねて制作したと作家が語ったという、なんか重い思いが伴う《犬》よりも、弟のもとに住みついていた猫が、朝ベットで寝ている自分の方に近づいてくる姿を何度も見て、記憶をもとに制作したという《猫》のほうが、契機が軽くて好み。
   猫の正面からの姿ばかりを見ていたので、胴体はほとんど骨組みのままで、頭部のみに肉付けが施された、というところも軽い感じで良い。
 
 
 
 
No.114〜122《ヴェネツィアの女》I〜IX
1956年、ブロンズ
104〜133.5cm×13.5〜17cm×29.5〜36.5cm
 
   1956年にヴェネツィア・ビエンナーレにフランス代表として参加するのを契機に制作された女性立像シリーズ。会場では、細長い女性立像が、ボーリングのピンのように9点並べている。一見似ているが、サイズや造形がいろいろ異なっていて、その違いを楽しめるのが良い。
 
 
 
 
No.126《女性立像》
276×31×58cm
 
No.127《大きな頭部》
95×30×30cm
 
No.128《歩く男I》
183×26×95.5cm
 
1960年、ブロンズ
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館
 
   この3点は撮影可能。
 
  1章から2章に移る通路の壁内のガラスケースに小像3点が展示され、ガラスケースの向こうに大きな像3点の展示エリアが見えていた。小像を見ていると、向こうの展示エリア側からも小像を見る人がいてちょっと驚いた。本来は向こう側の展示エリアに属する作品、大きな像のマケット(模型、彫刻の試作のための雛型)だったのだ。ここでは皆さん撮影に熱心で、小像を見る人は少ない。一度見てるしね。
 
   本3点は、ニューヨークのチェース・マンハッタン銀行から依頼されたプロジェクトのために制作着手された。作家は、現地に赴くことなく、《歩く男》と《女性立像》《大きな頭部》を銀行の前の広場に設置することを構想する。最終的には、ほぼ人間と同じ大きさの《歩く男》と、人間より大きなスケールをもった《大きな頭部》と《女性立像》を組み合わせることを考えていたらしい。このプロジェクトは結局実現しなかったとのこと。
 
 
 
  
 
 
 
 
   会場内は寒い。半袖の私は、あまりの寒さに途中から早く退出したくなる。展覧会会場でこんなに寒い思いをするのは、2014年の国立新美術館のチューリヒ美術館展以来のことで、その寒さはチューリヒ美術館展を超えた。
 
 
 
   本展の構成は、次のとおり。
 
1.初期・キュビスム・シュルレアリスム
2.小像
3.女性立像
4.群像
5.書物のための下絵
6.モデルを前にした制作
7.マーグ家との交流
8.矢内原伊作
9.パリの街とアトリエ
10.犬と猫
11.スタンパ
12.静物
13.ヴェネツィアの女
14.チェース・マンハッタン銀行のプロジェクト
15.ジャコメッティと同時代の詩人たち
16.終わりなきパリ
 


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