東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

2011年ミラノのアルチンボルド展図録を眺める。

2017年08月11日 | アルチンボルド
Arcimboldo
Artista milanese tra Leonardo e Caravaggio
2011年2月10日〜5月22日
PALAZZO  REALE , Milano
 
 
 
   国立西洋美術館で開催中のアルチンボルド展。
 
   アルチンボルドへの思いやみがたく、衝動的にアマゾン・イタリアで図録を注文してしまう。


    
   直近のアルチンボルド回顧展は、次の2つ。

1)Arcimboldo  1526-1593
 
2007年9月15日〜08年1月13日
リュクサンブール美術館、パリ

2008年2月12日〜6月29日
ウィーン美術史美術館


2)Arcimboldo,Artista milanese tra Leonardo e Caravaggio
 
2011年2月10日〜5月22日
パラッツォ・レアーレ、ミラノ


   両展とも監修者はSylvia Ferino-Pagden氏。上野のアルチンボルド展の監修者も務めている人である。
   同じ監修者ならと、より直近開催であり、現存作の8割を集めたと聞いていたミラノ展を選ぶ。イタリア語版の図録となる。当然、眺めるだけ。
 
 
(むろさんさんから教えていただいた美術手帖の記事(→ https://bijutsutecho.com/interview/6176/)によると、この2つの展覧会の前の展覧会となると1987年まで遡ること、その展覧会「アルチンボルド・エフェクト」(パラッツォ・グラッシ、ヴェネツィア)は、アルチンボルドそのものの展覧会というよりは、アルチンボルドがどのように後世に影響を及したかを見せる展覧会であること、アルチンボルドをきちんと評価しようとした展覧会は2007年が初めてであること、を知る。)

 

   図録は、問題なく欧州より到着。


   ミラノ展と上野展は、基本的に同じ展覧会であることをまず認識する。
   もちろん、上野展では、アルチンボルド作品を含む総出品数は抑えられているし、章構成は統廃合がなされ、それに伴う出品作の再配置が見られる。
 
 
 
   ミラノ展(全335点)と上野展(全87点)の出品作を比べる。
 
 
1)レオナルドおよびレオナルド派の素描
 
   ミラノ展では、イタリア国内 - ミラノのアンブロジアーナ美術館およびヴェネツィアのアカデミア美術館 - の所蔵品でまかなっている。
   一方、上野展は、イギリス王室コレクションと大英博物館と、英国からの出品。どんな舞台裏があるのだろう。



2)関連作品
 
   ミラノ展に出品されたアルチンボルド作品以外の関連作品。
   上野展でも、同じ作品が結構な数、出品されている。
 
   ベルナルディーニ・ルイーニによるアルチンボルドの父親の肖像画、これは重要な作品である。
   また、最終章のフィジーノの桃の静物画、これも欠かせないだろう。同じく重要なガリーツィアの静物画は別作品の出品。

   一方、何故この作品にこだわるの?との印象の作品もある。例えば、ジョヴァンニ・パオロ・ロマッツォの自画像、男根からなる頭部を表したマヨルカ焼とメダル、最終章のズッキ《夏》、カンピ《魚売り》など。私のイメージ以上にアルチンボルド回顧展にとって代替のきかない重要な構成要素なのだろう。

   また、上野展の4章「自然の奇跡」。ミラノ展では、書籍『怪物誌』やカラッチ作のカポディモンテ美蔵の油彩画の出品は確認できたが、ゴンザレス一家の肖像画が見当たらない。ウィーン/パリ展ではあったのかもしれないし、独立した章、日本側企画者による図録解説などから、ここは日本側企画者のこだわり点なのかもしれない。
 
 
 
3)アルチンボルド作品(除く素描と宮廷人の肖像画)
 
   以下、ミラノ展の出品作を挙げる。
   上野展での出品有に◯印、出品無に●印を付す。
 
 
【ミラノ時代の初期作品】
●ミラノのドゥーモのステンドグラス4点(+父親作の2点)
●コモ大聖堂のタピストリー
 
 
【自画像】
◯《自画像》プラハ国立美
 
 
【四季連作(ミュンヘン)】
●《冬》
●《春》
●《夏》
   *さすがに保存状態が劣悪な《秋》の出品は無し。
 
 
【四季連作(皇帝献上バージョン)】
◯《冬》ウィーン美術史美
◯《春》マドリード
●《夏》ウィーン美術史美
  * 《秋》は現存しない。
 
 
【四季連作(ルーヴル美)】
●《冬》ルーヴル美
●《春》ルーヴル美
●《夏》ルーヴル美
●《秋》ルーヴル美
 
 
【四大元素(皇帝献上バージョン)】
●《火》ウィーン美術史美
◯《水》ウィーン美術史美
   *《大気》は現存しない。
   *《大地》はリヒテンシュタイン侯爵家コレクション所蔵作品がその可能性があると考えられているが、出品されていないようだ。
 
 
【四大元素(コピー?)】
◯《火》スイス個人蔵
◯《大気》スイス個人蔵
◯《水》ブリュッセル王立美
 
 
【肖像画、上下絵】
◯《法律家》ストックホルム
◯《司書》スコークロステル城
◯《紙の自画像》ジェノヴァ
●《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》スコークロステル城
◯《庭師/野菜》クレモナ
◯《四季》ワシントン
●《果物と男の肖像》ニューヨーク個人蔵
 
 
 
   逆に上野展にあってミラノ展に見当たらない作品。
 
・《夏》デンヴァー美
・《秋》デンヴァー美
・《大地》リヒテンシュタイン侯爵家コレクション
・《ソムリエ(ウェイター)》大阪
・《コック/肉》ストックホルム
・《冬》帰属、ヒューストン
 
 
   上野展によくこれだけ集めてきてくれたことに感謝。
   特に、ミラノ展では何故か《大地》の出品がなかったようなのに、よくリヒテンシュタイン侯爵家コレクションを借り出してくれたものだ。
 
 
   ミラノ展・上野展とも出品されない作品。
 
×《フローラ》(皇帝献上バージョン?)個人蔵
×《フローラ》(第1作?)個人蔵
×《フローラ》(はだけた胸バージョン)個人蔵
 
   《フローラ》シリーズを見ることは、相当困難なようだ。
 
 
 
4)アルチンボルドにもとづく版画《四季の寓意》
 
   上野展出品のアルチンボルドにもとづく版画《四季の寓意》2組。
   2組ともほぼ同じ図像で、制作時期は17世紀とアルチンボルド没後であるが、この版画の原画となったオリジナル版画(ストックホルム国立美、およびウィンザー城王立図書館が所蔵)は、アルチンボルド生存中の16世紀後半の制作である。
   そして、オリジナル版画は、宮廷画家になる前のミラノ時代に制作された可能性があるとされる《四季》ミュンヘン・バージョンよりも「単純な構造を持つ、より早い時期のバージョンの姿を伝えている可能性がある」とのこと。
   そのオリジナル版画のストックホルム国立美所蔵作がミラノ展に出品、さすがミラノ展である。



   出品作の比較はここまで。
 
   2007-08年のパリ/ウィーン展も気にならないわけではないが、同じ監修者、おそらくミラノ展に近いだろうし、同じような展覧会図録を2冊購入する余裕は無い。


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