カラヴァッジョ展
2016年3月1日~6月12日
国立西洋美術館
カラヴァッジョ名による出品作品は11点。
本展開催により初めてその存在を知った作品が2点ある。
そのうちの1点。
《法悦のマグダラのマリア》
1606年
107.5×98.0cm
個人蔵
開催1週間ほど前に、NHKニュースにて出品が公にされた、本展の「超目玉」。
なんといっても「世界初公開」。
本展で最も人が群がる作品だ。
このままでは、日本人にとって、「カラヴァッジョ」=「マグダラのマリア(の法悦シーン)を描いた画家」で定着してしまうかも。
1606年5月殺人を犯してローマから逃亡して10月にナポリに到着するまでの期間に潜伏したローマ近郊ラツィオのコロンナ家領地で描かれ、1610年に画家が没した時に所持していた3枚の絵画のうちの1枚とされる作品。
コピー作品は多数(会場内解説では15点以上)知られているが、原作はというと、そのなかのどれかなのか、まだ知られていない(あるいは失われた)のか、という状況にあった。
2001年の東京・岡崎のカラヴァッジョ展に、ローマ個人蔵の別ヴァージョン、別名「マッダレーナ・クライン」と呼ばれる作品が出品された。クラインとは過去の所有者の名である。
《マグダラのマリアの法悦》
1606年
106×91cm
ローマ、個人蔵
このときの展覧会図録の解説では、ミーナ・グレゴーリ氏は、1985年のニューヨークとナポリで開催の展覧会で、この作品を画家の原作として提示したとある。
他のコピー作品と比べても質がよろしいほか、なんでも、来歴がよろしい - 1873年に売却される以前はカラファ=コロンナ公爵夫人が遺産として所有 - という根拠らしい。
時は過ぎ、2014年10月、ミーナ・グレゴーリ氏は、ヨーロッパの個人蔵の《法悦のマグダラのマリア》を調査の結果、カラヴァッジョの真作と鑑定した、と発表する。
なお、ヨーロッパとはイタリアではないらしい。
氏が真作と判断する主な根拠は、会場内解説によると、
1 作品の質-ディティールの見事さ
1)一筆書きで描かれた肩から流れるシャツの長い襞
2)目からこぼれる一条の涙
3)小枝で編んだ十字架
2 絵画の付帯物
絵画の背面に貼られていた小さな紙片に、17世紀の筆致で「キアイアのカラヴァッジョによる仰向きのマグダラのマリア、そこでローマのボルゲーゼ枢機卿の便宜のために保管されるべし」。
本作でまず目が行ったのは、肌がえらく白い。下唇も白い。そして、ボールを抱えている、ようしか見えないほど、腹の膨れようが異様なこと。
隣に展示のアルテミジア・ジェンティレスキ《悔悛のマグダラのマリア》を見て、本来は髑髏が描かれる位置なのだと思う。
肌や下唇、腹がそのように描かれた背景の説明も用意されている。
真筆性は専門家が言うことに従い、ただ作品を楽しむ。
次から次と真筆が現れている感があるカラヴァッジョ。
それだけ、開拓の余地があり、かつ、世間からの注目が期待できる、極めてホットな研究対象なのだろう。