逆境の絵師 久隅守景
親しきものへのまなざし
2015年10月10日~11月29日
サントリー美術館
《納涼図屏風》目当てで前期訪問。
ゆったりとした展示を、ゆったりとした気持ちで鑑賞する。
印象に残る作品を記載する。
1)《納涼図屏風》東博
ときどき東博の国宝室に登場することは、国宝室の年間スケジュールにて認識していたが、観るのは今回初めて。久隅守景(くすみ もりかげ、生没年不詳、17世紀)の名前も今回初めて知る。
大きな余白。今までトリミング図版しか見ていなかったので、そこからまず感心する。
おぼろな月の光。夕顔棚の下。むしろを敷き、男、女、子供の家族が涼をとる。ほのぼのとした家族団欒の光景。
本作の隣に、別画家による同主題の掛軸作品。夕顔棚の下、男と女の二人。やかんと湯呑みが手元にある。男はふんどし姿。
守景作品には、茶などはない。男は青い襦袢を身につけているが、非常に薄手で、腹・へそが透けて見えている。
2)
《四季耕作図屏風(耕織図)》東博
《四季耕作図屏風》個人蔵
田園風俗画。観ていて飽きない、農村の労働風景。最近、西洋の濃い農村風景画を観たばかり(バッサーノの月暦画シリーズのこと)だから、こういう作品にはホッとする。
師・狩野探幽の《四季耕作図屏風》神奈川県立歴史博物館も良い感じ。
3)《鍋冠祭図押絵貼屏風》個人蔵
お多福さんと、複数の鍋を被る女性。
滋賀県・米原の筑摩神社の奇祭、鍋冠祭。
今は、毎年5月3日に、数え年8歳の女の子が狩衣姿に張子の鍋をかぶって約300名の行列と共に歩くという、微笑ましい祭。
過去は、「鍋冠りは十五歳未満の少女をもってこれを役とす、若しその中に犯淫の輩在るときは、必ずその鍋落ちて発覚す」とか、本作が描いているように、未婚の女性が情を交わした男の数だけ鍋を被って参拝(近江なる筑摩の祭とくせなむ つれなき人の鍋のかず見む ー 伊勢物語第120段)し、数を偽ると神罰を受ける、とか、とんでもない祭であったようだ。
基本、壁画ガラスケースだけでの展示。4階の第1展示室は、屏風絵や襖絵を中心に13点。3階の第2展示室は屏風絵3点。第3展示室は、掛軸絵など小さな作品が中心のため作品数は増えるが、それでも25点。そのゆったりとした展示が好ましい。
【章だて】
第1章 狩野派の一員として
第2章 四季耕作図の世界
第3章 晩年期の作品ー加賀から京都へ
第4章 守景の機知ー人物・動物・植物
第5章 守景の子供たちー雪信・彦十郎
最後の章。
守景は、師・探幽の姪と結婚し、二人の子供をもうける。二人とも探幽に学ぶ。
娘・清原雪信は人気の女性絵師。探幽の弟子と駆け落ちする。10点展示。
息子・彦十郎は、同門の絵師との諍いがもとで、佐渡へ島流しとなる。1点のみの展示。
子供たちの不祥事もあって守景は狩野派を離れたらしいが、姉弟の展示点数の差も印象的。