フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展
2013年4月24日~7月15日
国立新美術館
貴婦人と一角獣展を再訪。見納め。
今回は、主に、6作品の微妙な違いを楽しんだ。
本連作タピスリーは、基本的な構成(赤の背地に千花模様・動物たち、中心に貴婦人・左に獅子・右に一角獣が緑の庭に立つ、左右に大きな木、紋章の描かれた四角旗・幟が舞う)は同じ、あとはテーマによるヴァリエーション、と思った。
ところが、基本的な構成に属するのではないかと思われる領域でも違いがあることが、変に気になった。
具体的には。
【寸法】
触角:縦373cm×横358cm
味覚:377cm×466cm
嗅覚:368cm×322cm
聴覚:369cm×290cm
視覚:312cm×330cm
我が唯一の望み:377cm×473cm
縦は、各作品とも微妙な差異はあるが、概ね370cm前後。ただ1点、≪視覚≫が他より約60cmも短い。
横は、マチマチ。最長と最短では、1.6倍も違う。
タピスリーが飾られる場所(壁)の大きさに合わせてのことなのだろうか。
図録によると、今の寸法が、制作当初と同じ寸法を保っているとは断言できないとのこと。
気になるのは。
≪触角≫
図柄が左にずれている。左側の余白(千花模様)がほとんどない。
左側が切断されている可能性が高い。
≪視覚≫
下部に描かれた動物が、他作品とは異なり、途中で切れている。
他より縦が約60cm短い作品であることから、下部が切断された可能性がある。
ただ、緑の庭の位置は他の作品と同じ位置にあるので、当初からその状態であったのかもしれない。
【侍女の存在有無】
4点に侍女が登場する。
2点、≪触角≫と≪視覚≫には登場しない。
これは、描かれたテーマによるヴァリエーションと考えるべきか。
確かに侍女が登場しない2作品では、獅子は目のやり場に困っている。侍女まで登場した日にはたいへんだろう。
【左右の木(マツ、オレンジ、フユナラ、セイヨウヒイラギ)】
基本は左右に2本ずつ、計4本が描かれている。
が、≪視覚≫のみ、左右1本ずつ、計2本となっている。
本作の縦が他より約60cm短いことによる調整だろうか。
さらに気になるのは、左上・右上の木の「幹」の描かれ方。
左上・右上の木が、左下・右下の木の「後ろに隠れている」パターンが2作品。
左上・右上の木が、左下・右下の木の「前に描かれている」パターンが1作品。
両者の折衷パターン(左上の幹は隠れているが、右上の幹は前に描かれている)パターンが2作品。
これは統一されているほうが好み。
【紋章の旗、幟】
四角旗は6作品とも登場するが、幟は≪触角≫と≪視覚≫には登場しない。
四角旗・幟ともに登場する4作品では、それらを掲げるのは獅子と一角獣の役割。
どちらがどっちを掲げるかは、作品により異なる(3作品が獅子-幟、一角獣-四角旗、1作品が逆)。
なお、横の短い≪聴覚≫では、四角旗・幟が左右上部の木を隠している。
四角旗のみ登場する2作品
≪触角≫では、異例的に貴婦人が掲げている。
一角獣は貴婦人に角をなでられる役割があるが、獅子には特段の役割はなく、困ったように観者の方に視線を向けている。
≪視覚≫では、獅子は四角旗を掲げる役割を維持しているが、親密そうな貴婦人と一角獣とは逆の方向に視線を向けている。
以上を踏まえると、総じて≪触角≫と≪視覚≫は、他の4作品とはちょっと事情の異なるところのある作品なのだろう。
とまあ、そんな楽しみ方をした。
楽しむポイントの多いタピスリー、さすがフランスの至宝である。
六本木の次は大阪に巡回する(7/27-10/20)。会場が違うと印象が異なることはよくあること。心の中では大阪会場への訪問を考えている。