アルチンボルド展
2017年6月20日〜9月24日
国立西洋美術館
アルチンボルド
《司書》
97×71cm
スコークロステル城、スウェーデン

本作品は、2014年のBunkamuraミュージアム「だまし絵2 進化するだまし絵」展で来日している。その際は、書物で人を作ったんだなあ程度で、特段の感想はなかった。
今回は、遠くに本作品の姿が見えただけで、引き込まれる。
これは、かなりの皮肉が込められた肖像画だ。
男の頭上に拡げられた書物、男の身体も書物からできている。
男の目は鍵でできている、というか、鍵の持ち手に開いた穴で型作られている。
羽ぼうきが男の顎ひげ、書物に挟まれた栞が男の指、後方のカーテンがマントをなす。
全体として、モデルを軽く見ているなあ、という印象。
あと、集めた書物を単に積み上げたという感じで、他の寄せ絵では感じない、なんかの拍子で崩れそう感がある。
モデルは、ヴォルフガング・ラツィウス。医者であるとともに、歴史家・収集家。皇帝のクンストカマーの責任者を務め、皇帝の貨幣コレクションや図書館を築いた人物。
「生涯50冊以上もの著作を残し、質より量で評判となったラツィウスの多作な執筆活動が皮肉られている」。
なお、本作はオリジナル作品のコピー作品である可能性もあるとされている。
アルチンボルド
《法律家》
1566年、64×51cm
ストックホルム国立美術館

これは毒が盛り込まれているなあ、と一瞬引く。
丸鶏からなる男の顔。黒い帽子からも、男の頭部の丸鶏の形が透けて見える。
丸鶏からなる男の顔に付加される羽をむしられたひな鳥。その目が男の目玉に、その頭部が男の目に、その足が男の眉に、その背が男の鼻になる。
丸鶏からなる男の顔の下に置かれる魚(マス)。その口は男の口となり、その体は男の顎、その尾は男の髭となる。
男の胴体は書物からできているらしい。何かを表しているのかもしれない模様の黒い衣装からは紙葉が飛び出ている。
全体として、モデルに対する悪意を感じる肖像画。
モデルは、ヨハン・ウルリヒ・ツァジウス。法律の知識を備えた行政官で、皇帝一家の財務顧問を務めていた人物。
「アルチンボルドが皇帝マクシミリアンの命を受けて描いたその肖像画は、ある学者を大いに嘲笑するものだった。その学者の顔は、フランス病に全体を蝕まれていて、それがとてもひどかったので、彼の顎には実際、ごくわずかな毛しか残っていなかった・・・。画家はその顔を、もっぱら食肉と揚げた魚で構成したのである。するとそれは、誰が見てもひとめでその法学者の真実の顔と分かる出来栄えのよい絵となったのだ」
まあ、かなり話を盛っているのだろう。
「描かれた人は、絵を見てどう思ったのだろう。」皆さん、口にする言葉。単にアルチンボルドの技量に感心するに留まらない、ちょっと落ち着かない作品。
アルチンボルドがこのような肖像画を制作した契機は何だろう。
好悪の感情、利害関係、派閥争いもあっただろう。が、同じ皇帝に仕えている立場。仲間内で愉しむにしては、このレベルの肖像画制作は大掛かりすぎる。
やはり、皇帝の命というか、皇帝を巻き込んだうえで制作されたのだろう。
アルチンボルド展もいよいよ後半戦。
アルチンボルドメーカーも1台増設し、これからの多くの入場者に備えている。

https://bijutsutecho.com/interview/6176/
情報ありがとうございます。
アルチンボルド展の企画者側のご苦労が伺えて、非常に興味深く読みました。
確かに、私が展覧会巡りを始めた頃とは違って、近年はイタリア・◯◯美術館展とか、イタリア・ルネサンス/バロックの画家の回顧展がかなり開催されるようになってきてますね、実にありがたいことです。
世界でも開催数自体が少ないというアルチンボルド展、よくこれだけの作品を集めることができたなあと、関係者に感謝しつつ、残りの会期も楽しみたいと思います。