日産ゴーン事件のケリー氏の刑事裁判で、ゴーン氏の供述調書の中身があきらかにされたという記事。
「検察側の主張では、ゴーン元会長が「総報酬」「既払い報酬」「未払い報酬」を1円単位まで記し、退任後に未払い分を支払うとした書面の作成を大沼敏明・元秘書室長に指示したうえで、元会長自らが署名。高額報酬が明らかになるのを避けようと、10億円前後の既払い報酬だけを開示したとされる。
証拠採用された供述調書によると、ゴーン元会長は未払い分を含む「総報酬」とされる金額について、世界の自動車メーカーの最高経営責任者(CEO)に支払われる相場に基づき算出された自らに見合う報酬水準に近いものだと説明。総報酬と未払い報酬は「レファレンス(参考)のための数字だった」と繰り返し訴えた。
報酬に関する書類に署名をしていたことを取り調べ担当の検事に問われ、「支払いは何も約束されたものではない」と答える文言もあった。
一方、最初の逮捕から5日後の2018年11月24日に作られた供述調書では「(世界の自動車メーカーと比べ報酬水準が低い)日産のCEOであることで得られなかった報酬を計算したのは事実。将来のいつか合法的に支払ってもらいたかった」と言及。「適法に支払うよう周囲に頼んでいた」とも述べた。」
ゴーン氏に対しては、ゴーン氏の拡大主義のために日産は大赤字が続いている、年間10億円の報酬でも高額なのに、さらに退任後に百億円ほどの報酬をもらいたいというのは強欲だ、公私混同が激しすぎる、中東の販売会社に支払ったあやしいリベートが還流したのではないかといった批判があるようですが、それらは、ケリー氏の刑事裁判で問われている役員報酬虚偽記載とは、ほとんど無関係です。
そもそも、追加報酬は全く払われていないわけですから、開示すべき報酬かどうかは、日本の会社法やその他の法律上、日産に支払い義務が発生しているかが問題でしょう。数字が1円単位まで細かく書いてあったからといって、それだけで法律上有効になるわけではないでしょうし、会社法では、役員報酬や役員との取引については、厳しく規制されており、しかるべき手続を踏んでいなければ、紙に書いて署名したからといって、有効になりません。そのように考えると、ゴーン氏側の説明は、筋が通っているように思われます。さらに、ゴーン氏がやめさせられた後の日産の大赤字を考えれば、ゴーン氏が役員を続けていたとしても、紙に書いていた追加報酬をその金額どおり受け取れた可能性はほとんどなかったでしょう。仮に、法律上確定していなくても、開示が必要だという説(そのような説は間違いだと思いますが)を採ったとしても、問題となっている過去の年度時点で、支払い可能性が高かったとはいえないでしょう。
自慢ではないが…と能弁に 初めて明かされたゴーン供述(朝日)
「「これは決して自慢ではありません」と言いながら打ち明けたのは、フィアットやフォード、ゼネラル・モーターズ(GM)といった世界の自動車大手から引き抜きの誘いを受けたというエピソード。「日産に愛着を持っているので、日産にいた」としながら、そうした企業の報酬は日産よりも高額で、「日産のCEOであることによって、世界のトップクラスのCEOと比べていくらの報酬を得られなかったのかを、毎年計算していた」と説明した。
実際に計算したのは、後に司法取引の形で捜査に全面協力することになる大沼敏明・元秘書室長だった。世界のCEOの報酬を「ベンチマーク(水準)」にして設定した総報酬(GRAND TOTAL)、このうち実際に支払った金額、残りの差額(Remaining)の3項目を、計算書に1円単位で記載した。
検察側はこの差額こそが、有報に開示しなかった「未払い報酬」と位置づける。しかし元会長は、取締役を退いた後にコンサルタント契約を結ぶなどした際の報酬を計算する「参考」だと反論。その報酬はあくまでも退任後の業務への対価で、取締役当時の報酬の後払いではない、と説明した。
元会長はこうした報酬を「得られるはずなのに得られなかった報酬」とも表現したが、「(将来の)支払いは約束されていない。参考に過ぎず、確定していない」と語り、有報に記載する必要性を否定した。一方、逮捕当初は、記載すべきかは「グレーゾーン」との見解を示すこともあった。」
検察もマスコミも「1円単位」にこだわっているようですが、例えば、見積書に1円単位まで書いてあったからといって、それだけでその金額を支払う義務が生じるわけではないでしょうし、逆に、概算金額で何かの仕事を依頼し、完成後確定金額を支払うという場合には、金額が確定していなくても、仕事が完成していれば、見積りで費用計上するということもありうるでしょう。「1円単位」には意味がないのでは。
(補足)
こういう記事もありました。
ゴーン氏は「日産の報酬計画は決まっていなかった」と述べた:日本の検察が明かす(ARAB NEWS)(AP通信配信)
「ケリー氏の弁護士である藤原大輔氏が、2018年11月から12月にかけて東京拘置所で行われたゴーン氏の尋問を記録した200ページ以上の文書を読み上げた。
米国人弁護士のケリー氏は、自分は無実であり、ゴーン氏を補償する合法的な方法を見つけようとしていただけであると述べている。
弁護側は、ケリー氏がゴーン氏による将来の報酬計算のための複雑な企みにほとんど関与していなかったことを、3人の裁判官に示そうとしている。...
検察の記録によれば、ゴーン氏は支払いを「遅らせた」ことを否定し、すべての支払いは「条件付き」だったと主張している。
ある部分でゴーン氏は、もし乗っている飛行機が墜落した場合でも、妻はそれらの金銭を一切受け取れなかっただろうと指摘することで、その主張を強調した。
ゴーン氏の声明の中でケリー氏の名前が出てきたのは、退職後のコンサルティング料と、競合他社のために働かないことへの同意に対する見返りとしてゴーン氏に支払われる非競争契約報酬の提案に関する部分一箇所のみだった。
どちらも退職後のサービスに対して支払われるものであり、裁判の焦点となっている日産自動車の年次有価証券報告書での開示は必要なかった。」
陰謀と報復:日産がゴーン元会長の不正調査担当者を追放した経緯(ブルームバーグ)
「ゴーン元会長の逮捕を受けて、経営陣は元会長の不正に関する内部調査の指揮をサポートするよう日産の社内弁護士として最も高い地位にあったパッシ氏に求めた。しかし、調査が進むにつれて、ゴーン氏以外の複数の主要幹部による深刻な利益相反に気付いたとパッシ氏は述べた。
パッシ氏は当時の上司で、検察と司法取引をしてゴーン元会長追放の立役者となったナダ氏に利益相反への懸念を伝えるようになったが、ほぼ無視されたという。そのためパッシ氏は19年9月、調査の信頼性に関する自身の懸念を記した詳細なメモを独立社外取締役ら宛てに送った。そのメモの提出から3日も経たないうちに元会長への調査の担当から外された、とパッシ氏は述べる。
それからまもなくパッシ氏は取締役会の会議から締め出され、世界中の200人以上の弁護士やスタッフで構成される日産の法務部門の管理権を失った。与えられた新しい肩書は英国で3人のスタッフを率いる立場のバイスプレジデントだった」
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