会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

「ゴーン無罪」の理由~「郷原信郎」vs.「細野祐二」(デイリー新潮より)

「ゴーン無罪」の理由~古巣批判の元特捜検事「郷原信郎」vs.会計士界のレジェンド「細野祐二」2万字対談

日産ゴーン事件についての対談記事。あの郷原弁護士と会計評論家・細野氏が、特捜部を強く批判しています。監査法人も所々で登場します。特に細野氏が言いたい放題いっているようです。

有価証券報告書虚偽記載について。

「細野 そう。そのケリーさんが言うには、「金融庁にお伺い立てて、これは該当しないからって、そういう意見をもらっている」と。当たり前でしょと。会計の分かった人であれば、誰でもそう言います。これは会計基準からすれば、「開示すべき役員報酬に該当しない」んです。それをなんで監査法人は言ってあげないのか? 新日本監査法人なんだけど。

郷原 そこは「新日本監査法人の監査の対象ではなかった」と彼らは言うわけです。というのは、役員報酬ってコーポレート・ガバナンスの項目の話なんで、財務諸表に含まれないプラスアルファの話だからと。

細野 そうだけれど、数字が出ているんだから、それを見てあげるのが礼儀じゃない。監査法人が見ているんだろうと、世間はそう思うじゃない。公認会計士、監査法人は、社会の期待を背負うべきです。今回、新日本監査法人は役員報酬の開示を見ていなかったと思うけど、今見て正しいんだから、司法のために、そして、日本社会のために、そう言ってやればいいじゃないですか? 監査法人はどうして正しいことを言わないの?」

「細野 ...それで、今度は2月になって、西川さん(廣人社長)が記者会見に出て、「やっぱりあれ、引当金を計上することにしたんだ」などと話した。それはそれでいいけれど、そしたらその後に、「支払うという結論に至るとは思っていない」とか言うわけです。ばかじゃないの? 払うつもりがないんだったら引当金にならないじゃないの

郷原 これ、虚偽記載ですよね。

細野 虚偽記載。払うつもりもないような役員報酬の引当金を計上した。これを有価証券報告書の虚偽記載というんです。意図を持ってやってるんだから。なんちゅうこと言うのですか? となりますよ。」

デリバティブ取引付け替えについて。

「細野 特別背任での再逮捕は12月21日ですね。それで私、『JBpress』というウェブメディアに、この件が「スワップ」だと全く理解されていないことについて書いたんです。...」

「細野 結局、ゴーンさんは毎年入ってくる約10億円の役員報酬をヘッジしたかったんでしょう。5年分のキャッシュフローと円貨建て現物資産の合計100億円分の為替リスクのヘッジ。ゴーンさんは役員報酬を「ドルでちょうだいね」って言っているんだけど、日産は「それはできません」って断ったから、じゃあしょうがないから円で入ってくるキャッシュフローをドルの先物でヘッジするしかない。だって彼はそれをドルで使おうと思っているのですから。

日産の取締役会も、このスワップ契約を「外国人の役員報酬を外貨に換える投資」として決議している。役員報酬を運用するときのヘッジということですよ。」

「細野 ... ゴーンさんは「ドルでちょうだいね」と言ったんだけど、日産は「それはできませんね」って言うから、「俺はドルで生きてる人間だから、じゃあ俺のほうでヘッジして、スワップかけるから、そのための決議してちょうだいね」って、大変ごもっともなことじゃないですか。」

サウジアラビアルートについて。

「細野 特捜部は虎の尾を踏んだと思います。ハリド・ジュファリなんて。サウジアラビアって、あなた、国家の運営っていうか、部族っていうか、法律もそうなんだけれど、いまだに目には目のハムラビ法典をやっている国ですよ。

 そんな国のハリド・ジュファリなんて、財閥創業家出身で、サウジ有数の企業の副会長で同国の中央銀行理事も務めている。それを本人の話も聞かずに特別背任の共犯にしているわけです。大変なことをしてしまいました。ゴーンさんが保釈で出た後も、特捜部はこの捜査を継続して、一生懸命、外務省だとか、サウジアラビア政府に働き掛けて、何とか「ハリド・ジュファリの聴取を」みたいなことをやっているらしいけど、サウジは絶対やらない。こんなことはアラブ国家として許せない。特捜検察もえらいことやっちゃったと思いますね。

 まあどういうふうになっていくのか分からないけれど、なんか話によると、ハリド・ジュファリが日産を訴えたいって言ってるらしいんだよね。もう全くごもっともで、だって話も聞かずに一方的に、特別背任の共犯にされちゃって。必ず復讐してきますよ、これは。」

人質司法や裁判の見通しについて。

「郷原 メディアもとにかく「検察は絶対正義」にしましたからね。だから長期間の身柄拘束も「正義のため」ということで何も問題にしないんですよ。私が感じるのは、検察が最近さらにひどくなっているということです。昔以上に人質司法に頼ってます

特捜部には昔は二つの手段があった。ほとんど恫喝に近いような取り調べで調書を取ること、これが一つ。で、それでも自白しないやつは身柄拘束を続けて自白に追い込む、この二つの手段。

ところが、取り調べの方が駄目になったんですよ。大阪地検の不祥事をきっかけに批判されて、取り調べの可視化もあって使えなくなってきた。そこで、もう一つの手段の方が使われるんです。そのやり方は、自白させるっていうことじゃなくて裁判で無罪主張をさせなくするというやり方なんです。...

今回も、サウジアラビアルートの事件に関して、特別背任を犯罪として立証できるレベルが10だとすると、現状は恐らく2、3程度だと思います。そんな程度でも起訴して証拠が足りないから、罪証隠滅の恐れがあるって言って、それで100日でも、200日でも、300日でも身柄を拘束しておこうというのが検察のたくらみだったわけです。それが裁判所が比較的早く保釈を認めたので残念ながらそうはならなかった。」

「細野 僕はあんまり楽観してないんです。裁判官の立場になってみると、「虚偽記載について、ゴーンさんはこんな計画をしていました、こんなことも言っていました」みたいな調書が山のようにあるわけじゃないですか。特別背任も、「裏でこんなことを言っていたんですよ、こうだったんです」って膨大な調書が出るわけですよね。そして、裁判所はその調書を証拠採用するわけじゃないですか。裁判官が、それだけの膨大な証拠を全て否定して「無罪です」というのはもう至難の業だと思います。」

「細野 まあそうだけど、検察は虚偽記載のほうについては専門家証人を出すでしょう。専門家を呼んできて、「うん、これはやっぱり虚偽記載です」と証言させるのです。

郷原 (事実関係についての証人ではなく)専門家証人ですね。

細野 いくらでも出すでしょう。

郷原 しかし専門家は5人も6人も立てたってしょうがないですよ。

細野 もちろん(日産の監査を担当した)新日本監査法人もそうやって証言するんだよ。

郷原 今度は監査法人。

細野 だって新日本監査法人はそうやって証言しないともうつぶれちゃいます。それから学者も呼びますよ。そのとおりに証言する学者はいくらでもいる

郷原 そういうところまで広げ始めると簡単には裁判が終わらなくなるかもしれないですね。

細野 だから検察は「勝てる」と思ってる。」

オマーン・ルートについて。

「細野 売上の1%の販売奨励金なんて全く普通の金額ですね。販売奨励金としてどの程度の金額が相当かというのは、その国や地域の実情によって違います。中東での自動車の販売というのは、日本のようにキャンペーンやったり、チラシを配ったりしてチマチマやるのではなくて、有力者のところにまとめてお金を落とすというやり方です。大手マスコミはこの支払いが例のCEOリザーブからなされたことをもって不正の温床だなどと断罪していますが、CEOリザーブはアラブに対する金の落とし方としてむしろ機動性に優れていたとも言えるのです。その程度の金額は全くおかしくありません。...」

「郷原 経営者についての特別背任のハードルは非常に高いんです。三越事件東京高裁判決では、社長の愛人が経営する会社への支払いが、三越にとって有用であったことが否定できないとされ、一部無罪になりました。ゴーン氏についても、販売奨励金としての支払いの合理性が否定できなければ、オマーンの販売代理店の支払いについて特別背任罪は成立しません。仮に、販売代理店側から何らかの形でゴーン氏が個人的利益を得ていたとして、経営倫理上の問題はあっても、犯罪の成否とは直接関係ありません。もし、特別背任が成立するとすれば、販売奨励金の支払いに「上乗せ」して、ゴーン氏への還流分のお金を支払うという「合意」が、代理店側とゴーン氏との間にできている場合ですが、販売代理店側は検察の捜査に協力していないようですし、マスコミ報道でも、そのような「合意」の証拠があるという話は全く出てきていません。ところが、マスコミは、「販売代理店からゴーン氏に還流」とか「流用」などと勝手に決めつけているんです。ゴーン氏の4回目の逮捕後の報道は、本当にひどいと思います。」
 
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