会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

「工事契約に関する会計基準(案)」・同適用指針(案)公表

公開草案

企業会計基準委員会は、企業会計基準公開草案「工事契約に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案「工事契約に関する会計基準の適用指針(案)」を、2007年8月30日付で公表しました。

工事の収益認識基準を工事進行基準に統一するという基準ですが、進行基準を基本としながらも、その工事の状況によっては完成基準が強制される場合もあり、進行基準に統一とはいっていません。しかし、企業の選択の余地を認めないという意味では、統一といってもいいと思います。

以下、疑問点や感想も交えて、簡単にみていきます。

基準の適用範囲

・工事契約に関する施工者における工事収益及び工事原価の会計処理並びに開示に適用されます。
・工事契約は、「仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うもの」と定義されています。
・受注制作のソフトウェアについても適用されます。

工事契約に係る認識の単位

・これは、どの範囲の工事をまとめて会計処理するかというグルーピングの問題ですが、「工事契約において当事者が合意した取引の実質的な単位」となっています。「当事者が合意した」というのと「実質的」というのは、必ずしも一致しないと思いますが、その関係はどうなるのでしょうか。「契約書が当事者間で合意した実質的な取引の単位を適切に反映していない場合」には、契約の単位とは別にグルーピングするとされているので、おそらく「実質的な単位」の方が重要なのでしょう。
・複数の発注者(例えば建物の持ち主とテナント)の工事をひとつの単位にすることはできるのでしょうか。

工事契約に係る認識基準の識別

・「工事収益総額」、「工事原価総額」、「決算日における工事進捗度」の3つを、信頼性をもって見積ることができれば、進行基準を適用します。
・そうでない場合は、完成基準を適用します。
・これは会社があえて見積もろうとしなければ、完成基準でもいいということなのでしょうか。
・信頼性をもって見積ることができるというのはどういうことなのか、上記の3つそれぞれについて、規定しています。

工事進行基準の会計処理

・上記の3つの要素を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を計上します。
・工事進捗度としては、原価比例法(「決算日までに実施した工事に関して発生した工事原価が工事原価総額に占める割合をもって決算日における工事進捗度とする方法」)が第一に挙がっています。「原価比例法以外にも、より合理的に工事進捗度を把握することが可能な見積方法があり得る。このような場合には、原価比例法に代えて、その見積方法を用いることができる」とされているので、原価比例法が原則のように読めます。ちなみに、それ以外の方法は具体的に説明されていません。
・原価比例法では「発生した」工事原価の金額を使うので、単に材料を購入しただけ、あるいは前渡金を支払っただけでは、進捗度は上がらないという理解でいいのでしょうか。(購入と投入をきちんと区別できるかわかりませんが。)
・引き渡し時点では残工事が残る場合があります。例えば残工事が3%あれば、契約工期が到来し引き渡しがなされていても、進捗率97%で売上計上するのでしょうか。それとも、進捗率100%として会計処理し、追加原価を工事未払金として計上するのでしょうか。
・上記の3つの要素の見積りが変更された場合は、その見積りの変更が行われた期に、その影響額を損益として処理します。
・もちろん、過年度の見積りが間違っていた場合には、遡及修正の問題が生じます(基準案には書いてありませんが)。

工事完成基準の会計処理

・工事契約に関して工事が完成し、その引渡しが完了した時点で、当該工事契約に係る工事収益及び工事原価を損益計算書に計上します。
・文言どおり読むと、完成しただけで引き渡ししていなければ、収益計上できないということになります。

工事契約から損失が見込まれることとなった場合の取扱い

・進行基準・完成基準にかかわらず、工事損失引当金を計上します。その金額は、過年度に計上した損益を控除後の工事損失全額です。

開示

・表示方法や注記についても規定しています。

適用時期等

・2009年(平成21 年)4 月1 日以後開始する事業年度に着手する工事契約から適用です。
・ただし、工事損失引当金については、2009年(平成21 年)4 月1 日以後開始する事業年度から、過年度着手工事にも適用されます。
・着手日が重要になるので、会社ごとにルールを決めておくべきでしょう。
・基準変更の方法として、2009年(平成21 年)4 月1 日以後開始する最初の事業年度の期首に存在する工事契約のすべてについて、一律に本会計基準を適用する方法も認められます。この場合、過年度に対応する損益の修正額は特別利益又は特別損失として計上します。つまり、適用年度の過年度に対応する収益と原価がネットで計上されるということなので、売上高が目減りしてしまいます。一挙に利益をあげて純資産をよく見せたいというような会社を除き、この方法をとるケースはあまりなさそうです。

その他基準の内容とは関係がないが気になった点

・基準案では「施工者」という言葉を使っています。しかし、ゼネコンの場合だと、実際に工事を施工するのは協力業者なわけですから、少し変な感じがします。工事の施工という仕事の中身ではなく、「請負契約」という単なる売買ではない契約形態の収益・原価の会計処理だというのがポイントのような気もします。
・基準案では「成果の確実性」という言葉も出てきます(第7項)。しかし「成果」というのは、非常にあいまいな言葉です。人によって捉え方はさまざまであり、請負金なのか、それとも利益(さらに利益には粗利益もあれば限界利益もある)なのか、あるいは付加価値なのかはっきりしません。利益が上がっても、10年後にその建物が地震で倒壊すれば、その工事は、社会的には「成果」ではなく、有害物かもしれません。こうしたあいまいな言葉は会計基準には使わないでほしいと思います。
・会計監査も請負契約だといわれていますが、この基準が適用されるのでしょうか。
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